B.E.F.

どうもです。埼玉県では雪が降ったりして寒いのですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。
一応こちらは順調と言える感じでしょうか。日数が少ないとはいえ休まず仕事にも行ってますし、3月初めには久しぶりに飲み会に出席することも決まりましたし。
昨年の秋くらいから病気その他で引き篭もり状態(実際は仕事は入院した時以外は行ってましたし、自宅で友人と何度か面会してもいるので、ガチの引き篭もりではありませんでしたが)だったんですけど、少しずつ社会復帰に向けて歩んでいけているような気がします。
まあ無理しない程度にゆるゆるとやって行きたいと思います。


今回もまたまた前回の続きみたいなものです。
さて、ヒューマン・リーグを離脱したマーティン・ウェア(シンセサイザー)とイアン・クレイグ・マーシュ(シンセサイザー)が、ブリティッシュ・エレクトリック・ファウンデーション(以下B.E.F.)というプロデュース・チームを設立したということは前回書きましたが、今回はその活動の詳細について書いてみたいと思っています。
そもそもヘヴン17もB.E.F.の中の一ユニットという扱いだったはずなんですが、B.E.F.が断続的な活動だった(プロジェクトの性質上そうならざるを得なかったというのもあります)のに対してヘヴン17は売れてパーマネントな活動をするようになったため、そのへんはいつの間にか曖昧になってしまいました。まあ聴いている側からすればどっちだっていいのですけど。
まあそれはとにかく、B.E.F.はヘヴン17に先駆けて、81年初頭にデモ・アルバム『Music For Listening To』『Music For Stowaways』をリリースしています。当時日本では発売されなかったので詳細は知らなかったんですが、後者は限定1万本のカセットテープとして英国でリリースされ、前者はそこから何曲かをセレクトしたうえ新たな曲を追加し、レコードとして海外向けに出されたもののようです。
このデモ・アルバムは機会がなくてまだ未聴なのですが、ヴォーカリストがいなかったので全編インストルメンタルだったようですね。


B.E.F. - Groove Thang


デモ・アルバム収録曲。
これは前回取り上げたヘヴン17の『(We Don't Need This) Fascist Groove Thang』の原曲ですね。
ヴォーカルが入っていないところ、ちょっとだけアレンジが違っているところを除けばそのまんまで、デモとは思えない完成度を誇っています。
ベースもギターもカッコよく、政治的なニュアンスを持った歌詞がない分、ダンスに適した出来になっているという考え方もありますね。


その後ウェアとマーシュはデイブ・グレゴリー(ヴォーカル)を迎えてヘヴン17をスタートさせたため、B.E.F.としての活動は一旦休止となりましたが、翌82年にはアルバム『Music of Quality and Distinction Volume One』(邦題は『ポップス黄金狂時代』)をリリースし、話題を呼びました。
このアルバムの特徴は、往年のポップスやソウルの名曲をエレクトリカルなアレンジで演奏し、いろんな歌手を呼んできて歌わせるというものでした。このフォーマットは当時としては非常に斬新で、その発想には唸った記憶がありますね。ただやってることが通好み過ぎたのか、アルバムは全英25位といまいちだったのですが。


B.E.F. - Ball Of Confusion


『Music of Quality and Distinction Volume One』収録曲。シングルにもなっています。
これはテンプテーションズのカバーで、ティナ・ターナーがヴォーカルを取っていますね。ものすごいド迫力の歌声がとにかく圧巻です。
ターナーは78年にアイク&ティナ・ターナーを解散してソロになったものの泣かず飛ばずで、この頃にはほとんど忘れられた存在になっていましたが、この曲での鬼気迫るパフォーマンスが話題になって再浮上、84年にはアルバム『Private Dancer』(ウェアも共同プロデューサーとして名を連ねています)が大ヒットしてスターの座に返り咲きました。要するに彼女の転機となった曲なのですね。
ターナーはこれに恩義を感じていたようで、大御所になった91年にも、B.E.F.のアルバムに参加して一曲歌っています。


B.E.F. - You Keep Me Hangin' On


これも『Music of Quality and Distinction Volume One』収録曲。
この曲はシュープリームスのカバーで、ノーランズの故パーナデッド・ノーランがヴォーカルを取っています。
原曲はダイアナ・ロスのソウルフルなヴォーカルが素晴らしいのですが、このヴァージョンはアイドルポップスみたいに聞こえて、そこが微笑ましいような気がします。


B.E.F. - Suspicious Minds


同じく『Music of Quality and Distinction Volume One』収録曲。
エルヴィス・プレスリーのカバーで、かつての英国のお茶の間の人気者、今は性犯罪者として有名になってしまったゲイリー・グリッターが歌っています。
僕は最初にグリッターを見た時、「プレスリーを下品な方向にカリカチュアライズするとこうなるのかな」と思ってしまったんですが、いざ実際にプレスリーをカバーしてみると、やはり本家と比べるとなんとも下世話な味が出ていて、これはこれで面白い仕上がりになっているんじゃないでしょうか。


B.E.F. - The Secret Life of Arabia


『Music of Quality and Distinction Volume One』収録曲。個人的にはこの曲がB.E.F.のベストトラックですね。
デヴィッド・ボウイの『アラビアの神秘』のカバーで、アソシエイツの故ビリー・マッケンジーが歌っているんですが、持ち味出しまくりで強烈な内容になっています。
マッケンジーのヴォーカルはとにかく癖が強く自己陶酔の極みのため、嫌いな人には絶対に受け入れられないタイプだと思うんですが、表情豊かでドラマチックなハイトーン・ヴォイスは唯一無二で、他の追随を許しません。
ニューウェーブが生んだ最強のシンガーだと僕は思ってます。それだけに早く亡くなってしまったのが残念です。


B.E.F. - Perfect Day


これも『Music of Quality and Distinction Volume One』収録曲。
ルー・リードのカバーで、グレン・グレゴリーがヴォーカルを取っています。要するにヘヴン17の編成そのままなんですが、ダークで荘厳さすら感じる作りになっていて、一応ヘヴン17とは一線を画しています。


聴いてもらえると分かると思うんですが、サウンドは一部の曲を除いてシンセを使ったエレクトリック・ソウルですね。
これはヘヴン17がブレイクした2ndアルバム『The Luxury Gap』のサウンドと同じです。制作したのはB.E.F.のほうが先なので、こちらで得たノウハウをヘヴン17の方にフィードバックさせ、さらにそれをブラッシュアップした結果、ヒットに繋がったということなんでしょう。
とりあえずサブユニットで実験しておいて、その成果をメインの活動で生かすというのは、なかなか効率的かつ合理的な発想で、彼らのアイディアの冴えを示しているように思います。


その後結局ヘヴン17がブレイクしたため、B.E.F.の活動はほとんどなくなってしまいます。
とは言え音源を出さなかったというだけで、87年にはテレンス・トレント・ダービーのデビューに一役買うなど、要所要所で存在感は示していたのですが。
そしてヘヴン17が低迷して活動休止状態になった91年、彼らは突然『Music of Quality and Distinction Volume Two』をリリースし、こちらを驚かせてくれました。
このアルバムは前作の路線を踏襲していますが、さらにブラック・ミュージックに傾倒しており、なかなか興味深い内容ではありましたね。残念ながら売れなかったようですけど。


B.E.F. - Someday We'll All Be Free


『Music of Quality and Distinction Volume Two』収録曲。
この曲はダニー・ハサウェイのカバーで、ヴォーカルをとっているのはあのチャカ・カーンです。
さすが「R&Bの女王」だけあって、めちゃめちゃエネルギッシュなヴォーカルですね。もうそこだけで圧倒されてしまいます。


B.E.F. - Family Affair


これも『Music of Quality and Distinction Volume Two』収録曲。全英37位。
スライ&ザ・ファミリー・ストーンの名曲のカバーで、上記の『Someday We'll All Be Free』の原曲を歌っていたダニー・ハサウェイの娘、レイラ・ハサウェイが歌っています。父の曲のカバーの次に娘の歌を配するというのは、なかなか心憎い構成だと思います。もちろん楽曲としての完成度も高いです。
ちなみに原曲でも印象的だったフェンダー・ローズは、「5人目のビートルズ」と呼ばれた故ビリー・プレストンが弾いています。ビートルズのアルバムで唯一クレジットされた外部ミュージシャンだけあって、目立たないもののツボを押さえたプレイをしています。


B.E.F. - I Don't Know Why I Love You


これも『Music of Quality and Distinction Volume Two』収録曲。
スティービー・ワンダーのカバーで、歌っているのはスクリッティ・ポリッティのグリーン・ガートサイドです。彼もソウルが大好きな人なので、これはバッチリはまっていますね。
ちなみにクラビネットを弾いているのはまたまた登場のビリー・プレストンです。このアルバムではオーティス・レディングの『Try A Little Tenderness』も歌うなど、フル回転で頑張っています。


B.E.F. - It's Alright Ma(I'm Only Bleeding)


これまた『Music of Quality and Distinction Volume Two』収録曲。
なんとボブ・ディランのカバーで、歌っているのはかつての縁で引っ張ってきたテレンス・トレント・ダービーです。
ディランの曲とは思えないくらいモータウン調に仕上げられていて、これはこれで面白いですね。ダービーの歌も久々に聴きましたが良いです。


その後B.E.F.は92年から93年にかけて、グリーン・ガートサイドと手を組んで、スクリッティ・ポリッティ名義でラガマフィンのミュージシャンとコラボレーションするなど、時々思い出したように活動していましたが、そのうちフェードアウトしていき、ウェアが単独でプロデュースを務める以外には名前を聞かなくなっていました。
そんな彼らが再び姿を見せたのは07年でした。彼らはかつて一緒に仕事をしたこともある故ビリー・マッケンジーのトリビュート活動の一環として、ロンドンでライブを行ったのです。
この頃にはマーシュがヘヴン17から脱退していたため、B.E.F.にも参加しませんでしたが、ウェア、グレゴリー、ヘヴン17のライブにゲスト・ヴォーカルとして参加していたビリー・ゴドフリー、そしてセッション・プレイヤーとしてギタリスト、ベーシスト、キーボードプレイヤーが加わるという編成でした。
当初はこれが最初で最後のライブという話でしたが、やってみると意外に楽しかったのか、彼らは11年にもライブを行っています。その時はゲストとしてお馴染みグリーン・ガートサイド、カルチャー・クラブボーイ・ジョージ、ウルトラヴォックスのミッジ・ユーロ、イレイジャーのアンディ・ベル、ABCのマーティン・フライ、キム・ワイルドらも参加するという豪華さで、なかなか壮観だったようですね。ウェアはいろいろプロデュースをやっていたせいか、顔が本当に広いらしいです。
このライブの好評っぷりに気を良くしたのか、彼らは13年に誰も出るとは思っていなかった新作『Music of Quality and Distinction Volume Three』もリリースしています。このアルバムからはかつてのソウルへの傾倒は影を潜め、エレポップに回帰しています。このへんはヘヴン17と同じ道を辿っていますね。まあメンバーが一緒ですから別に不思議でもないですけど。


B.E.F. - Every Time I See You I Go Wild


『Music of Quality and Distinction Volume Three』収録曲。
スティービー・ワンダーのカバーで、キム・ワイルドが歌っています。
ワイルドは若い頃土屋昌巳のプロデュースで曲を出し、日本でもCMに出ていましたから、覚えている人もいるんじゃないでしょうか。あの頃はしゅっとしていてソリッドな印象でしたが、PVを見るとさすがに歳を取ったなという感じはします。まあ年齢を考えればまだまだ綺麗ですけどね。何しろ僕より4つも年上ですし。


B.E.F. - Breathing


『Music of Quality and Distinction Volume Three』収録曲。
ケイト・ブッシュのカバーで、歌っているのはイレイジャーのアンディ・ベルです。今までのB.E.F.ならこういう選曲はしなかったと思うので、そのへんは新機軸ですかね。
ベルのヴォーカルは抑え目で、原曲の何かが憑依しているような強烈なヴォーカルとはかなり趣を異にしていますが、こういう淡々としたアプローチもありかなとは思います。


B.E.F. - I Wanna Be Your Dog


『Music of Quality and Distinction Volume Three』収録曲。
ザ・ストゥージズのカバーで、カルチャー・クラブボーイ・ジョージが歌っています。
イギー・ポップボーイ・ジョージという組み合わせ自体が異様な感じなので、かなり期待して聴いたんですが、ジョージのヴォーカルにエフェクトがかかっていて、ちょっと肩透かしでしたね。多分最初に知らなかったらジョージが歌っているって分からなかったでしょうし。やっぱりジョージはあの艶っぽさがないと。


メンバーの現在ですが、ウェアはB.E.F.、ヘヴン17の活動以外にも、インターネット・ラジオ局を開催したり、クイーン・メアリー大学やロンドン大学客員教授も務めていたりしています。また王立芸術協会のメンバーでもあるそうですね。
マーシュは脱退後の活動がまったく伝わっていません。おそらく音楽業界から引退して一般人に戻ったものと思われます。
グレゴリーはB.E.F、ヘヴン17の活動以外に、元ABCのキース・ラウンズとともにハニールートというユニットを結成し、3枚のアルバムをリリースしています。


Honeyroot - Love Will Tear Us Apart


05年リリースのシングル。全英70位。
ジョイ・ディヴィジョンの名曲のカバーです。原曲はヴォーカルのイアン・カーティスが自殺した後にリリースされたという事実があるため、同世代の人間としてはどうしても重苦しい感傷を感じてしまうのですが、こういう形で聴くと普通にいい曲なんだな、ということに気づかされます。
さすがにカーティスの声の虚無的な響きには勝てないんですが、グレゴリーもなかなかいい声してるなと思います。