ジョー・ジャクソン

今日は前置きとかなしに、いきなり本題に入ります。前回のジョー・ジャクソンの続きです。
さて80年に疲労が溜まった結果病に倒れたジャクソンが、療養中にジャイブやジャンプ・ミュージックのアルバムばかりを聴き狂い、回復後に突然そちら方面に奔ったというのは書きましたが。
ちなみにジャンプ・ミュージックというのは40〜50年代にブラック・ミュージックの主流だったジャンルで、ブルースやブギウギの要素を取り込み、アフター・ビートを強調したダンス・ミュージックなんだそうです。そしてジャイブはジャンプ・ミュージックを小粋にしたスタイルで、両者は密接な関係にあるということですね。僕はジャズ方面には疎いので、自分で書いててよく分からなかったりもするのですが。
彼はこれまで活動を共にしたジョー・ジャクソン・バンドを解散し、ジョー・ジャクソンズ・ジャンピン・ジャイブというジャズ・バンドを一時的に結成します。メンバーはジャクソン、ずっと活動を共にしている盟友のグラハム・メイビー(ベース)、ラリー・トルフリー(ドラムス)、ニック・ウェルドン(ピアノ)、デイヴ・ビテリ(テナー・サックス、クラリネット)、ラウル・オリベイラ(トランペット)、ピート・トーマス(アルト・サックス)の7人です。完全にジャズ用に特化した編成ですよね。
このバンドでジャクソンはレコーディングを開始し、81年には4thアルバム『Joe Jackson's Jumpin' Jive』をリリースします。このアルバムはジャンプ・ミュージックやジャイブのカバーのみで構成されていて、正直最初は戸惑いました。だって1年前にはレゲエとかやってた人が、いきなりジャズになっちゃうんですから、それも無理はないんじゃないかと。
でもこのアルバムはとにかく踊り出したくなるような楽しそうな曲ばかりでしたし、ジャクソンのアルバムにありがちな緊張感や毒気も薄く、最終的にはお気に入りになりましたけど。シンプルに楽しさを追求しているため、ジャズに馴染みのない僕のようなリスナーでも入りやすい面がありましたし、何より粋で陽気で理屈抜きのダンス・ミュージックとして楽しめたのが大きいですね。認識を新たにしました。
ジャンプやジャイブというのはジャズの中ではB級のような扱われ方をされていて、正統派のジャズファンからは軽視されてきたジャンルなんだそうですが、それらの魅力にいち早く気づいて焦点を当てたジャクソンのセンスの良さが光ります。全英14位、ビルボードで42位。


Joe Jackson - Jumpin' with Symphony Sid


レスター・ヤングの作で、スタン・ゲッツオスカー・ピーターソンジョージ・ベンソンなども演奏した曲のカバーです。
この曲は渋谷陽一サウンドストリートで初めて聴いたんですが、本当にジャズなので思わず笑っちゃった記憶がありますね。そこまでやるか、と思いまして。


Joe Jackson - We the Cats (Shall Hep Ya)


キャブ・キャロウェイのカバー。
これも見事に50年代くらいの雰囲気が出ていて、なかなかです。


Joe Jackson - Jumpin' Jive


これもキャブ・キャロウェイのカバーですね。ブラック・ミュージカルの名作として名高い映画『Stormy Weather』にも使われています。
有名曲だからかシングルカットもされていて、全英43位を記録しています。


Joe Jackson - How Long Must I Wait for You


ラッキー・ミランダの作品でルイ・ジョーダンでも有名な曲のカバーです。邦題は『哀しき待ちぼうけ』。
これはシンプルでノリのいいバックの演奏に、ジャクソンのまくし立てるようなヴォーカルが絡んで、個人的にはかなりお気に入りでした。
このアルバムの曲は演奏はジャズなのに、ヴォーカルにはパンクやニューウェーブの名残があるため、その結果パワフルかつ猥雑なパワーを持っており、そこが馴染みやすかったというのもあるかもしれません。
後にストレイ・キャッツブライアン・セッツァーも同じような路線でやりましたけど、ジャクソンの方がプリミティブな熱情を持ちつつクールな味わいもあって好きですね。


このアルバムでロックというフォーマットを捨てたジャクソンは、いろいろな重荷から解放されたような感じで、己の興味の赴くままに様々な音楽にトライしていくことになります。
82年になると今度はサルサなどのラテン・ミュージックに傾倒するようになり、またヒップホップにも興味を持った彼は、さっとニューヨークに渡ってそこに活動の拠点を移してしまいます。そのへんアメリカの音楽を愛しつつもイギリスに留まり続けたエルヴィス・コステロとは対称的です。
そしてそこでたっぷりとショービズの空気を満喫したジャクソンは、この年盟友のメイビーらとともに録音を開始し、ギターレスの5thアルバム『Night and Day』をリリースします。
このアルバムは非常にポップで、しかもサウンド的にも非常に洗練されていて、見事なくらいコンテンポラリーな作品に仕上がっていました。旺盛な雑食性でいろんな音楽を吸収し続け、それが結実したらこういう音になるのか、と感慨深かったです。ポップスとして完成度が高いのにも関わらず、歌詞は相変わらずアイロニーの塊みたいなところは彼らしかったですが。全英4位、ビルボードで3位。


Joe Jackson - Steppin' Out


『Night and Day』からのシングル。全英6位、ビルボードで6位。邦題は『夜の街へ』。
ポップなメロディー、抜群のドライブ感、クールな雰囲気を兼ね備えた曲で、彼の代表曲と言ってもいいでしょう。米米クラブの『浪漫飛行』はこの曲の一部をサンプリングしていることで有名です。
ビートロック→レゲエ→ジャズと変遷し続けて次がこれというのも不思議な気はしますが、多分彼の中ではちゃんと繋がっているんでしょう。そのへんは凡人たるこちらには永遠に分からないことなのかもしれません。


Joe Jackson - Breaking Us in Two


これも『Night and Day』からのシングル。全英59位、ビルボードで18位。邦題は『危険な関係』。
美しいメロディーとボサノバタッチのアレンジで、けだるい日常の始まりのやるせなさを見事に描ききっていて、このへんにも彼の音楽的な成長を感じさせます。


Joe Jackson - A Slow Song


『Night and Day』収録曲。邦題は『スローな曲をかけてくれ』。
アルバムのエンディングを飾る感動的なバラードです。ヴォーカルも緩急の使い分けが絶妙で、かつての苛立ったようなシャウト連発だった頃とは一味違っています。


このアルバムで都会的なポップスの第一人者として目されるようになったジャクソンですが、とにかく自分のやりたい音楽をやるということを重んじていた彼は、そこで止まることなくさらに変身を続けていきます。
その結果だんだんと商業性がなくなっていき、知る人ぞ知る存在になってしまうのですが、音楽としては相変わらず高いクオリティーを保ってましたね。そのへんの活動についてはまた次回に。