ストラングラーズ

ついに4回目に突入してしまいました。
いくら自分のフェイバリット・バンドとはいえ、これは顰蹙ものだなあと思いますし、それ以前に気合入れ過ぎてこっちが疲れちゃいました。
もうちょっと楽な更新を心がけないともたないな、などと考えつつ、ストラングラーズ最終回の始まりであります。もういい加減にしてくれとお思いでしょうが、最後までお付き合い頂けると幸いです。


前作の『The Gospel According To The Meninblack』と同じ81年、ストラングラーズは6枚目のスタジオアルバム『La Folie』(邦題は『狂人館』)をリリースします。全英では11位。
このアルバムはもはや彼らがかつてはパンクのカテゴリーに入れられていたんだよ、と言っても信じてもらえないくらいポップな音になっています。特にキーボードの音色は、キュートと言ってもいいくらいキャッチーになってますから。
ただ今回ストラングラーズは「愛」をテーマとしているのですが、もちろん彼らのことですから、単純な愛の讃歌になるわけがないわけでして、人間が抱くこのある意味奇妙で不思議な感情を、斜めや裏から捉えたような歌ばかりが並んでいる状況になっています。


The Stranglers - Golden Brown


『La Folie』からのシングル。全英では2位まで上昇し、彼ら最大のヒットになっています。
ワルツのリズムにチェンバロの響きが絡む、室内楽的なニュアンスを含むナンバーで、これまでのストラングラーズのイメージを完全に吹き飛ばしました。
ヴォーカルのヒュー・コーンウェルによると、初めて「歌」をちゃんと聴かせたいという意識を持ち、そのためにデヴィッド・ボウイの作品などで優れた手腕を発揮していたトニー・ヴィスコンティをミキシング・エンジニアに起用することにしたのだそうです。
しかしベースのジャン・ジャック・バーネルはこの曲が気に入らず、ついにベースを弾くことなく、それどころかシングルカットもアルバム収録も反対していたといいます。このへんに後のヒューとジャン・ジャックの決別の萌芽があるのかもしれません。


The Stranglers - La Folie


これも『La Folie』からのシングル。全英47位。
この曲はフランスで知人女性を殺害し、死姦後にその肉を食べたという事件で知られる日本人、佐川一政がテーマとなっており、ジャン・ジャックがフランス語で、語りのように抑制的に歌っています。


The Stranglers - Strange Little Girl


82年にリリースされたシングル。全英7位のヒットになっています。
曲を聴くと『La Folie』からの流れを引き継いだメロウで耽美的なポップ路線に思われがちですし、僕も当時はそう思っていました。
ところが後に発売された70年代中盤の彼らのデモテープにも、この曲がほとんどそのままのアレンジで収録されており、彼らの音楽性とは本来こういうものを包含していたという恐ろしい事実が判明しています。初期にピックアップされていた攻撃的に驀進する音との差異が大き過ぎて、にわかには信じがたい話なのですが、こういう多彩な顔を持っていたからこそ面白いバンドだったとも言えるわけで、そのへんはいろいろ考えさせられます。
PVに登場するすごい髪型の女の人の大群は、今観てもなかなか壮観です。


83年には7枚目のスタジオアルバム、『Feline』(邦題は『黒豹』)をリリースします。
このアルバムによって、ストラングラーズは暴力的なパンク・バンドのイメージから完全に脱却し、美しいメロディと幽玄なアレンジを聴かせる優れたポップ・バンドとしての認知を勝ち得ています。その意味では記念碑的なアルバムでしょうか。
個人的にはこのアルバムには捨て曲がなく、非常に良い内容だと思っています。そのせいもあるのか、全英でも4位まで上昇し、評価も高いアルバムとなっています。


The Stranglers - European Female


『Feline』からのシングル。邦題は『ヨーロッパの女』。全英では9位を記録するヒットとなっています。
美しいアコースティック・ギターの調べをフィーチャーしたこの曲は、一見すると普通のラブソングですが、実はジャン・ジャックがかつてリリースしたソロアルバム『Euroman Cometh』で言及された欧州共同体についての思想が背景として存在しています。


The Stranglers - Midnight Summer Dream


これも『Feline』からのシングル。全英35位。
ヒューが語るように歌う長尺の曲です。個人的には大好きな曲ですが、何しろ長くて地味なので、シングルになっているとは今回調べるまで知りませんでした。
現実世界に対して徹底的に突き放したようなクールな視線と、ヒューの淡々とした歌声が、「所詮この世は一抹の夢にすぎない」という思想にまで到達したことを示しているように思える気がして、感慨深いものがあります。


【追記】


PVもあったんで追加しておきます。


The Stranglers - Midnight Summer Dream


ラジオエディットとして短くなっていて、おまけにエコーがかかったり歌い上げたりといろいろ変わってますが、ある程度は雰囲気がつかめるんじゃないでしょうか。


The Stranglers - All Roads Lead To Rome


『Feline』収録曲。PVがあるとは知りませんでした。
淡々として抑揚のないヒューの、語りとも歌ともつかないような声が、逆に不思議なインパクトをもって迫ってくる曲です。


84年には8枚目のスタジオアルバム『Aural Sculpture』がリリースされました。
これはホーン・セクションを導入して新境地を開拓したアルバムで、全英では14位を記録しています。


The Stranglers - Skin Deep


『Aural Sculpture』からのシングル。全英では15位のヒット。ビルボードのダンス・ミュージック・チャートでも49位に入っています。
もう完全にポップになっていますが、これはこれで悪くありません。完成度は高いと思いますね。


The Stranglers - Let Me Down Easy


これも『Aural Sculpture』からのシングル。全英48位。
ちょっとレイドバックした感じで、ゆったり聴けるのがいいですね。初期ストラングラーズ信者なら発狂しそうな曲ですが、個人的には好きです、


86年には9枚目のスタジオアルバム『Dreamtime』(邦題は『夢現』)がリリースされています。
このアルバムは、アボリジニの思想哲学にインスパイアされて作られたもので、前作よりもさらにポップな内容になっています。全英16位。


The Stranglers - Nice In Nice


『Dreamtime』からのシングル。全英30位。
これも思いっきりポップですね。でも歌詞にはストラングラーズらしい毒がちょっと隠し味のように入っていて、かつてのパンクの片鱗を見せてくれます。
デイブ・グリーンフィールドがショルダーキーボードを使っているのが、時代の流れなんでしょうけどらしくなくてちょっと笑えます。


The Stranglers - Always The Sun


これも『Dreamtime』からのシングル。全英30位。
独特の浮遊感と、夜が明けたかのような開放感に溢れる曲で、カラフルなイメージを聴き手に歓喜させてくれます。未だに必ずライブで演奏される曲でもありますね。


88年にはライブアルバム、『All Live And All Of The Night』がリリースされ、全英12位のヒットとなります。
彼らはもともとライブにも定評があり、当時聴いたときにもさすがにベテランらしく上手いなあと思った記憶がありますね。


The Stranglers - All Day And All of The Night


『All Live And All Of The Night』に唯一収められていたスタジオ録音曲。
この曲はキンクスのカバーで、シングルカットもされ、全英で7位のヒットとなっています。


90年には4年ぶり、10枚目のスタジオアルバム『10』がリリースされます。
正直個人的にはピンとこないアルバムだったのですが、英国ではまだまだ評価が高く、全英15位のヒットとなっています。


The Stranglers - 96 Tears


『10』からのシングル。邦題は『96粒の涙』。全英17位を記録しています。
この曲は?&ザ・ミステリアンズなるバンドのカバー(アレサ・フランクリンプライマル・スクリームもカバーしている)で、ちょっと60年代サイケを思わせるキーボードをキメに使っているところがいい味を出しています。


しかしこのアルバム発表後、ヒューが脱退を表明します。彼はストラングラーズではもう音楽的にやり尽くしていて、これ以上の進歩は望めないと思ったようです。
正直な話僕は『10』を聴いたとき、一番印象に残るのがカバー曲というのがちょっと不満で、彼らも長い活動でマンネリ化して、創作意欲が減退しているのだろうかと危惧していたのですが、もしかするとヒューも同じようなことを考えていたのかもしれません。
ヒューの脱退により、バンドとしては一つの歴史が終わった感じになりましたが、それでも残されたメンバーは新メンバーを補充して活動を続け、現在もバリバリの現役です。ライブ活動も盛んに行っていて、You Tubeの映像を見る限り、もう70歳を超えているドラムスのジェットもまだまだ元気で叩いているようです。
僕自身ヒューが脱退して以降の新譜はまったく聞いていないんですが、やはり昔は大好きだったんで、今でもマイペースで活動していたりするのを知ると、それだけでも嬉しくなってきます。
ストーンズの域に達するまで元気に頑張ってほしいです。