ヘヴン17

どうもです。皆様お元気でしょうか。
僕は風邪がちょっと長引いてます。寝込むほどじゃないんでどうでもいいんですが、喉ががらがらするので不快は不快です。
今年の風邪はホントしつこいですね。まあ僕に体力がないのも、なかなか治らない原因なんでしょうけど。
とりあえず皆様も御自愛下さい。
それとこのブログのPVが50万に達しました。これも皆様のおかげです。ありがとうございます。
開設して3年9ヶ月で50万PVというのが早いのか遅いのかよく分かりませんけど、とにかく読んで頂けるのは素直に嬉しいです。何だかんだ言ってモチベーション上がりますし。
これからもいろんなジャンルの音楽をつまみ食いしつつ、マイペースに更新していきますので、変わらぬ御愛顧をどうぞよろしくお願い致します。


とどうでもいい個人的な話はさておき、今回も前回の続きみたいなものです。
さてヒューマン・リーグが分裂した後、残されたフィル・オーキーがそれを立て直し、世界的なブレイクに持っていった話は前回たっぷりと書きましたが、では出て行ったマーティン・ウェア(シンセサイザー)、イアン・クレイグ・マーシュ(シンセサイザー)はどうしたのか、それが今回のテーマとなります。
二人は改めてヴァージン・レコードと契約し直し、80年末にブリティッシュ・エレクトリック・ファウンデーション(B.E.F.)というプロデュース・チームを設立しました。そしてマーシュの友人で、当時はカメラマンをしていたグレン・グレゴリー(ヴォーカル)を迎え、B.E.F.の中のユニットとしてヘヴン17を結成することになるのです。グレゴリーはヒューマン・リーグ結成に際して、フィル・オーキーよりも先にヴォーカリストとして誘われていたものの、都合が合わず断っていたため、今回ようやくウェアとマーシュの念願が叶ったという感じなんでしょうか。
この変わったバンド名は、スタンリー・キューブリックの有名な映画『A Clockwork Orange』(邦題は『時計じかけのオレンジ』)で、主人公のアレックスにナンパされた女の子の台詞「誰が好き?ゴグリー・ゴゴル?ジョニー・ジバゴ?ヘヴン17?」から取られています。当時はそんなこと全然知らなかったので(『時計じかけのオレンジ』は観てましたけど、台詞まで覚えてませんでした)、不思議なセンスだなあと思いましたっけ。
ウェアとマーシュはまずB.E.F.として81年に2枚のデモ・アルバムをリリースした後、同年3月にシングル『(We Don't Need This) Fascist Groove Thang』でヘヴン17としてもデビューを果たします。これは本当に斬新かつ衝撃的な音で、実験的でありながらポップでもあった第一期ヒューマン・リーグの中心人物だった、ウェアとマーシュの面目躍如たる作品でしたね。


Heaven 17 - (We Don't Need This) Fascist Groove Thang


デビューシングル。全英45位。もともとはB.E.F.のデモ・アルバム『Music For Listening To』に収録された、『Groove Thang』というインスト曲に歌詞をつけてリアレンジしたものだそうですね。
最初はシーケンサーと電子パーカッション、そして最小限のシンセとヴォーカルだけという、骨組みだけのような音が展開されるんですが、途中からバカテクのスラップ・ベースと、むちゃくちゃカッコいいカッティング・ギター(両方とも弾いているのはスタジオ・ミュージシャンのジョン・ウィルソン)が入り、まさにエレクトリック・ファンクとしか形容できないサウンドになっていきます。その強烈さときたら。
ファンクと言えばやはりアメリカなんですが、これはイギリスじゃないと絶対に作れない音でしたね。一聴するとノリノリなんですが、よく聴くとシーケンサーの上に乗るスラップ・ベースというのが妙に座りが悪くて、その不安定でいびつな感じが逆に魅力になっていました。あとグレゴリーのヴォーカルも、オーキーのようなナルシスティックな個性はないですが、低音の良い声で個人的には結構好きです。
類似した音が全然思いつかなくて、初めて聴いた時は本当に興奮しました。さすが元ヒューマン・リーグだな、と感心もしましたっけ。まああまり整合性の取れていない感じだったせいか、当時の評価は微妙だった記憶がありますが。
なおこの曲はアメリカの当時の大統領だったロナルド・レーガンとその閣僚たちを、ファシストで人種差別主義者と徹底的にこき下ろした歌詞だったため、BBCから放送禁止処分を食らいあまりヒットしませんでした。この実験的でありながらポップなダンス・ミュージックが、放送禁止がなかったらどれくらい一般に受け入れられたのか知りたかった気もします。


Heaven 17 - I'm Your Money


同年6月リリースのシングル。チャートインはしていません。
デビューシングルとはまったく違ったゴリゴリのエレクトロ・チューンで、彼らの振り幅の大きさを見せてくれる一品です。
あまりそっち方面には詳しくないんですが、後年クラブで33rpmでプレイされて好評を博したらしいですね。一応聴いてはみたものの、「遅いな」という感想しかなかったんですけど、それはこっちがジジイだからなんでしょうか。
なおこの曲は当時アルバム未収録だったため、聴いたのは相当後でした(今はベスト盤なら大抵入ってますけど)。


Heaven 17 - Play To Win


同年9月リリースのシングル。全英46位。
この曲もデビューシングルと同じくエレクトリック・ファンク路線です。
ミドルテンポでゆったりした感じの曲ですが、スラップ・ベースはやはりうなりまくりですし、とぼけた感じのホーン(クレジットには「Synthetic Horns」となってます)もいい味を出しています。


『Play To Win』から少し遅れて、彼らのデビュー・アルバム『Penthouse and Pavement』もリリースされています。
このアルバムはA面がエレクトリック・ファンク路線の『Pavement Side』、B面がエレクトロ路線の『Penthouse Side』となっており、それぞれ妙に癖のあるエレポップを展開していました。
特に『Pavement Side』のモダンでハイテクニックなエレクトリック・ファンクは、当時としては異常なくらい画期的でしたし、今聴いてもぜんぜん古びていません。60〜70年代のソウルやファンクを、ニューウェーブ、エレポップのフィルターを通して新たなダンス・ミュージックとして再生していくという試みは、後のクラブ・カルチャーにも大きな影響を与えているのではないでしょうか。
世間的にもこの斬新さは評価されたようで、特にヒットシングルはなかったものの、アルバムは全英14位のヒットを記録しています。


Heaven 17 - Penthouse and Pavement


アルバム『Penthouse and Pavement』のタイトルナンバー。全英57位。
電子加工されたへなちょこなサックス音がリードし、セクシーな女性ヴォーカル(歌っているのはスティービー・ワンダーのバックコーラスを担当したジョジー・ジェームズ)がフィーチャーされた、不思議な感覚の曲です。


Heaven 17 - Let's All Make A Bomb


こちらは『Penthouse and Pavement』収録曲。
あまり語られることのない『Penthouse Side』の曲で、非常にシンプル(と言うか音数の少ない)なエレポップです。『Pavement Side』の曲からベースとギターを抜くとこういう音になるんでしょう。
ポップですが妙にクールな感触もあり、個人的には好きな曲です。


当時のヘヴン17は斬新なアイディアと切れ味鋭いサウンド、そして脳内で作り上げた妄想ファンクとでも言うべき頭でっかちなところのある音作りが特徴で、そこがいかにも初期ヒューマン・リーグの人たちらしい感じで良かったんですが、ウェアとマーシュのファンクやソウルへの思いはさらに本格的になっていき、この後はどんどんソウルっぽい歌もの路線を進んでいくことになります。
それはそれで悪くなかったですし、もちろん作品としても素晴らしかったんですが、一抹の寂しさがあったのは事実ですね。個人的には実験的なのにポップ、という彼ら独自の持ち味が好きだったので。


Heaven 17 - Let Me Go!


82年のシングル。全英41位。ビルボードで74位。
うねうねしたシンセベースに絶妙なタイミングのリン・ドラム、美しいメロディーと素晴らしい展開力が光る、なかなかの一曲です。
アメリカでもチャートインしたため、彼らは手ごたえを感じたのかこの路線を推し進めていくことになります。


Heaven 17 - Temptation


83年4月リリースのシングル。全英2位の大ヒットとなり、これで彼らは名実ともにブレイクしたことになります。
ソウルフルな女性ヴォーカルをフィーチャーした、エレクトリック・ソウルですね。エレポップでありながらモータウンの香りが強く、彼らの音楽的な嗜好のガチっぷりがよく分かる一曲だと思っています。
なお女性ヴォーカルはキャロル・ケニオンという人で、デュラン・デュランやペットショップ・ボーイズ、カイリー・ミノーグマイク・オールドフィールドゲイリー・ムーアティアーズ・フォー・フィアーズピンク・フロイド、ウルトラヴォックスなどのバックコーラスを務めています。当時はワム!やスタイル・カウンシルカルチャー・クラブなど、女性シンガーをフィーチャーした曲が英国では流行っていたような記憶がありますね。


Heaven 17 - Come Live with Me


同年6月リリースのシングル。全英5位。
この曲はメロディーに哀愁味があってかなりいい感じで、ソウル路線になった彼らの曲の中では一番好きです。なんかディナーショーとかが似合いそうな佇まいなのは否定しませんが。
また歌詞は37歳の男性と17歳の女子学生との関係を、後年初老になった男性の視点から回想する設定となっていて、PVもそれをなぞっています。
当時メンバーは20代半ばから後半だったので、どうしてこういう着想に至ったのかちょっと興味はありますね。


同年8月にはセカンドアルバム『The Luxury Gap』もリリースされています。
この作品は前作のような冒険心こそ薄れましたが、代わりに歌ものとしての完成度はものすごく上がり、正攻法のエレクトリック・ソウルとして抜群の魅力を放っています。もちろんセールスも好調で、全英4位(プラチナ・ディスク)、西ドイツで7位と大ヒットしたほか、ビルボードでも72位に入っています。この頃が彼らの全盛期と言えるんじゃないでしょうか。
ただ今聴くと前作より古く聞こえるんですよね。やはりサウンド・プロダクツが保守的になっている感は否めないと思います。


Heaven 17 - Crushed by The Wheels of Industry


『The Luxury Gap』からのシングル。全英17位。
ヘヴィなビートを強調したエレポップで、この頃のシングルの中では一番ソウルっぽくないんじゃないでしょうか。


この後彼らはさらにブラック・ミュージックに傾倒し、ソウルやファンク色のより強い音に変化していきました。生楽器も導入し始めたためエレポップ色は薄まり、シンセサイザーは楽曲に色付けするための脇役程度の位置にまで後退しています。


Heaven 17 - This Is Mine


84年10月リリースのシングル。全英23位。
ホーンセクションを大胆に導入し、もうエレポップでも何でもなくなっています。最初聴いた時はファンカラティーナのバンドかと思いましたから。
曲は明るく華やかでからっとしていてなかなかノリもいいんですが、これをヒューマン・リーグ出身の人たちが出すのか、と思うとちょっと複雑でした。


同じ頃彼らは3rdアルバム『How Men Are』をリリースしています。
このアルバムくらいになるとオーケストラまで導入して、メジャー感たっぷりの音作りになっていますね。いかにも売れそうな感じなんですが、エレクトロニック・ミュージックの最先端からは完全に脱落し、UKソウルやホワイト・ファンクのバンドとの違いがよく分からなくなってきました。個人的にはスタイル・カウンシルあたりを連想しましたっけ。
またこの頃からソウルやファンクにもシンセや打ち込みがどんどん導入されるようになってきたため、彼らのホワイト・ソウルと本物のブラック・ミュージックとの差異がほとんどなくなってしまったのも痛かったですね。結果どの層がターゲットなのか曖昧になり、一応全英12位まで上昇はしたものの、セールス自体はかなり下がっています。


その後彼らは86年に4thアルバム『Pleasure One』、88年に5thアルバム『Teddy Bear, Duke & Psycho』をリリースしていますが、楽曲自体はそこそこだったものの完全に時代遅れのサウンドになっており、前者は全英78位、ビルボードで177位、後者に至っては西ドイツで46位になっただけで本国ではチャートインしないという惨敗を喫しました。
ユニットの存在意義の低下を悟ったのか、メンバーは90年にヘヴン17の活動を一時休止します。その後ウェアとマーシュはB.E.F.として、主にプロデュース業に勤しんでいたようですね。特にイレイジャーのプロデュースは評判が良く、ウェアはイレイジャーのソングライターである元デペッシュ・モードのヴィンス・クラークと組んで、99年には環境音楽っぽいアルバム『Pretencious』もリリースしています。
また彼らの音楽に影響を受けたミュージシャンも多く、93年にベストアルバム『Higher and Higher』をリリースした際にはテクノ(テクノポップじゃなく今で言うテクノ)のミュージシャンが『Temptation』『(We Don't Need This) Fascist Groove Thang』『Penthouse and Pavement』をリミックスし、これらがそれぞれ全英4位、40位、54位とリバイバルヒットしています。
これに力づけられたのか、96年に彼らは活動を再開し、アルバム『Bigger Than America』をリリースしています。


Heaven 17 - Designing Heaven


『Bigger Than America』からのシングル。全英128位。
あれだけソウルやファンクに入れ込んでいたのは何だったのか、と思わせるくらい、思いっきりピコピコとテクノポップしていて驚きます。
ネットで調べるとこの曲を「原点回帰」としている記事が多かったんですが、ヘヴン17って真っ当なエレポップをやっていたことがほとんどなかったため、その評にはちょっとしっくりしないものを感じましたね。
まあそれはそれとして、おっさん的には懐かしいサウンドなんでこれは好きです。後ろ向きかもしれませんけど。


21世紀に入ると彼らはライブも行うようになります。結成20年にしてようやくステージに立って演奏したということですが、もともと彼らはノン・ミュージシャンの集まりなので、らしいエピソードなのかなと。
05年には6thアルバム『Before After』をリリースします。このアルバムでは女性ヴォーカルのアンジー・ブラウンをフィーチャーし、サウンドもハウスに接近して元気なところを見せてくれましたが、同年ウェアの片腕的存在だったマーシュは脱退してしまいました。
バンドはウェアとグレゴリーのデュオとして不定期ながら活動を続け、08年に7thアルバム『Naked as Advertised』をリリースする他、映像作家とコラボーレートしたライブを行うなどまだまだ健在のようです。