ジ・エキセントリック・オペラ

どうもです。こちらではここ2日ほどやたら寒くて、一昨日はついに雪も降ったくらいなんですけど、皆様いかがお過ごしでしょうか。
昔は結構暑がりで、冬でもあまり着込まなかったんですけど、最近は歳のせいか特に足先が冷えましてね。部屋でも靴下を二重にして履いているくらいです。老化って嫌ですねえ。
まあそれはそれとして、今週も真面目に更新はします。最近はメジャーに寄り過ぎていた感が否めない(何しろデュラン・デュランとか書いてましたし)ので、そろそろあまり知られてない人を取り上げてみようかな、なんて思って。
というわけで今回は日本のジ・エキセントリック・オペラです。特に商業的に成功したユニットではないので、知名度は低めなんじゃないでしょうか。
すごく好き嫌いの分かれる音だとは思いますけど、とりあえず珍味ではありますよ。


【以降多少加筆しています。2023/5/18】


ジ・エキセントリック・オペラは92年に、東京芸術大学の作曲科で学んでいた書上奈朋子(キーボード)と、同じく声楽家で学んでいた相良奈美(ヴォーカル)によって結成されたユニットです。もともとはOPERAというそのまんまな名前のユニットだったようですね。
彼女たちの音楽性について説明しますと、要するにテクノをバックにオペラを歌うんですね。楽曲はクラシックやポピュラー、トラッドなどのカバーがほとんどですが、とりあえずどの曲もソプラノで思いっきり歌い上げています。
クラシックをシンセで演奏する人自体は、ワルター・カーロスや富田勲など先例は結構いますけど、オペラを歌っちゃうのはなかなかユニークなんじゃないでしょうか。強いて言えばクラウス・ノミあたりが近いのかもしれませんが。
このユニットはその不思議な音楽性が認められて、エピック・ソニーとの契約を果たします。このレーベルはやはりクラシックとポップスを結びつけた、クライスラー&カンパニー(葉加瀬太郎が昔いたバンド)で成功を収めていますから、言い方は悪いですけど柳の下のどじょうを狙ったのかもしれません。
まあそれはとにかくとして、彼女たちはユニット名をジ・エキセントリック・オペラと変え、クライスラー&カンパニーと同じ事務所に所属することとなり、川島豊というテノールのメンバーも新たに加えることとなります。彼は二人と同じく東京芸術大学の出身で、在学中よりオペラやミュージカルに出演した経験を持つ人物でした。こうして布陣を整えたジ・エキセントリック・オペラは、96年にシングル『Caro Mio Ben』でデビューすることとなるのです。
僕とこのユニットの出会いはまったくの偶然でした。たまたま秋葉原石丸電気のレコード館で、1stアルバム『The Eccentric Opera』を見つけて衝動買いしたんですよ。
とりあえず名前からして僕好みのゲテモノっぽいですし、ジャケットを見ても丸刈りの女性(書上相良)がいたりオカマみたいな男性がいたりと怪しげで、ネタとして面白そうだと思ったんですよね。
当時は一応公務員という職に就いていて収入もありましたし、あと精神を病んでいて代償行為として金遣いがやたらと荒くなっていた時期だったんです。今じゃそんな恐ろしい買い方できません。
ただこのアルバム自体は当たりでしたね。とにかくユニークで単純に聴いていて面白かったですから。


The Eccentric Opera - Caro Mio Ben


彼らのデビュー曲。もちろん1stアルバムにも収録されています。
この曲はトンマーゾ・ジョルダーニ作曲のアリエッタで、日本で声楽を志す者のほとんどが歌ったことのある有名な曲ですね。
疾走感のあるユーロビートっぽいトラックに乗せてソプラノが響き渡り、これはこれで面白いです。まあオペラ自体がダメな人には無理でしょうけど。
ちなみに1stアルバムのプロデューサーは、事務所の先輩であるクライスラー&カンパニーの斉藤恒芳が務めています。その縁があってか、斉藤は一時期書上と夫婦だったこともありました(現在は離婚)。


The Eccentric Opera - 夜の女王


これも『The Eccentric Opera』収録曲。
この曲はシューベルトの『魔笛』の『夜の女王のアリア』のうちの1曲『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え』ですね。
高音を駆使した技巧的な歌唱は、かなりすごいんじゃないでしょうか(オペラの技巧を判断するほど知識がないですけど)。とにかく難しそう。


The Eccentric Opera - Madam Butterfly


これも『The Eccentric Opera』収録曲。
この曲はあまりにも有名ですね。プッチーニの『蝶々夫人』の中のアリア『ある晴れた日に』です。マリア・カラスが歌ったのは聴いたことあります。
唯一の男性メンバーである川島は、加入のいきさつもあってか全体的に陰が薄いんですが、この曲ではかなりフィーチャーされていますね。


『The Eccentric Opera』リリース後しばらくして、川島は脱退します。まあもともと二人でやってたユニットなので、ようやく本来の姿に戻ったって感じでしょうか。
そして翌97年には、セルフ・プロデュースの2ndアルバム『HYMNE』がリリースされます。このアルバムではクラシック縛りがなくなって、ヨーロピアン・ポップスやトラッドなどもカバーするようになり、より幅が広がった印象がありましたね。
サウンドの方も前作のようなユーロビートではなく、やや静的に寄った感があります。装飾性が高いところは変わってませんが。


The Eccentric Opera - Serenade


『HYMNE』収録曲。
この曲はチャイコフスキーの弦楽セレナーデに、ボードレールの詩をくっつけて、強引にコラボにしちゃってる一曲です。
つべにあったのでライブ映像を貼りましたが、とりあえず見た目が変ですね。ピーター・ガブリエル在籍時のジェネシスを髣髴とさせるファッションです。あそこまで金はかかってませんけど。
あと本格的に声楽をやっていた人だけあって、歌唱力はさすがですね。スタジオ録音と比べても遜色ないです。


The Eccentric Opera - Irresistiblement


これも『HYMNE』収録曲。シングルカットもされています。
この曲は昔懐かしいフランスの歌手シルヴィ・ヴァルタンの、『あなたのとりこ』のカバーですね。メロディーは結構御存知の方が多いんじゃないでしょうか。
これよりちょっと後くらいにヨーロピアン・ポップスのリバイバルブームが局地的にありましたけど、それを考えると先見の明があったなと感嘆せざるを得ません。
アレンジもより上品な感じになっていて、曲には合ってるんじゃないでしょうか。


The Eccentric Opera - La Pioggia


これも『HYMNE』収録曲。
この曲はオールドファンには懐かしい、イタリアの歌手ジリオラ・チンクエッティの『雨』のカバーですね。
割と前作に近いリズムを強調したアレンジになっていて、聴いていてテンションが上がります。バックダンサーもいい味出してますね。


その後彼女たちはクリスマスにミニアルバムをリリースした後、翌98年には3rdアルバム『PARADISO』をリリースします。
このアルバムは前作に比べるとややヘヴィな感もありますが、とにかくサウンドの密度が濃くなっており、完成度はかなり高いと感じました。
またタイアップが急に増加し、事務所やレコード会社の売ろうという意欲は感じられましたね。


The Eccentric Opera - Bolero


『PARADISO』収録曲。テレビ東京のドラマ『食卓より愛をこめて』の主題歌で、シングルにもなりました。
有名なラヴェルの『ボレロ』をアレンジしたもので、聴けば誰でも主旋律は知ってるんじゃないでしょうか。
この曲はとにかく多重録音されたヴォーカルの波状攻撃がすごいですね。迫力あります。


The Eccentric Opera - Fuge g moll [愛のフーガ]


これも『PARADISO』収録曲。テレビ東京のアニメ『時空転抄ナスカ』の主題歌で、これもシングルになっています。
有名なバッハの『小フーガ ト短調』をアレンジした曲です。これがアニメのオープニングに流れたのはかなり衝撃的でしたね。アニメ自体はひどかったですが(特にラスト)。
この曲はヴォーカルがあっちこっちから飛んでくるようで、ガンダムで有名なオールレンジ攻撃ってこんな感じかな、なんて思ってしまいます。
ちなみにこのアニメのエンディングでは、相良が斉藤恒芳葉加瀬太郎と組んで、有名な『コンドルは飛んでいく』をカバーしています。せっかくですからそれも貼っておきましょうか。


相良奈美、斉藤恒芳葉加瀬太郎 - コンドルは飛んでいく


サイモン&ガーファンクルのカバーであまりにも有名な曲。
もともとはアンデス地方フォルクローレの代表的な曲です。本来は三部構成ですが、ここで歌われている一部のみが知名度高いですね。
しかしこの曲をオペラチックに歌われると、何とも言えない不思議な感じはします。いやこれはこれでかなり良いですが。


The Eccentric Opera - The Falling Moon


これも『PARADISO』収録曲。テレビ東京(さっきからテレ東ばっかだな)の『芸術に恋して!』のオープニングテーマ曲です。
この曲はここで取り上げる唯一のオリジナル曲ですね。ちょっとフレンチポップスっぽいラブ・バラードで、なかなか良い曲なんじゃないでしょうか。


しかしこのアルバムのセールスはいまいちだったようで、ジ・エキセントリック・オペラはエピック・ソニーから契約を切られてしまいます。
そのため彼女たちは3年の雌伏を余儀なくされますが、01年にはインディーズから4thアルバム『ヨロコビ』をリリースし、復活を果たしました。
このアルバムは初期のコンセプトに戻って、クラシックの有名曲のカバーをメインにしています。ただテンションはあまり高くない感じで、心地良い反面終息感のようなものも漂ってはいますね。


The Eccentric Opera - ジュピター


『ヨロコビ』収録曲。
あまりに有名なホルストの『惑星』の中の『木星』をアレンジしたものです。のちに平原綾香が同じことをしてヒットを飛ばしていますが、こちらの方が2年早かったですね。あと本田美奈子もやはり03年に歌ってるそうです。
アレンジは静的かつ荘厳で、ヒーリングミュージックのようにも思えます。


The Eccentric Opera - よろこびのうた


これも『ヨロコビ』収録曲。
ベートーベンの交響曲第9番の第4楽章の第一主題で、これを知らない人はさすがにいないんじゃないでしょうか。そのくらいベタな選曲です。
学校で習った時はもっと張り切って歌うイメージがあったんですが、このバージョンはあくまでもリラックスしていて癒されます。


しかしジ・エキセントリック・オペラはこのアルバムを最後にフェードアウトし、以降目立った活動を行っていません。解散は明言されていませんが、実質同じようなものでしょう。
現在書上は作曲家として活動し、アンサンブル・プラネタというアカペラ・コーラス・グループの編曲やプロデュースをしているそうです。
またテレビ番組『ザ・ノンフィクション』のテーマソングである、中孝介の『サンサーラ』も彼女の作詞作曲です(山口卓馬との共作)。
相良は「東京ナミィ」というものすごい名前に改名してソロ歌手となり、一時は吉田達也のやっている高円寺百景にゲスト・ヴォーカルとして参加したこともあるんですが、今はヒカシュー巻上公一あたりと組んで歌ってるらしいですね。
そして初期に在籍していた男性メンバーの川島ですが、脱退後なんとあの『グッド・ナイト・ベイビー』で有名なザ・キング・トーンズにテナーとして加入しています。
また05年に第21回日本アマチュアシャンソンコンクールで全国大会グランプリと石井好子*1奨励賞を受賞したのをきっかけに、シャンソン歌手として本格的に活動を始めることとなりました。
そして07年から3年間フランスに留学、帰国後はザ・キング・トーンズとシャンソン歌手の二足の草鞋を履いて活躍しました。三人ともとりあえず元気なようで何よりです。
あまりにも奇抜過ぎて聴く人を選ぶだろうと思いますが、個人的には気に入っていたユニットです。再評価されると嬉しいのですが、難しいだろうなあ。

*1:日本のシャンソン歌手の草分け的存在。ルイ・アームストロングやジョセフィン・ベーカーと共演したり、日本人として初めてシャンソンの殿堂と言われるパリのオランピア劇場の舞台に立ったり、日本シャンソン協会を設立したりと活躍した。またエッセイストとしてベストセラーを出したり、『料理の鉄人』にたびたび審査員として出演したり、歌手以外の活動にも積極的だった。有名な童謡『クラリネットをこわしちゃった』の日本語詞を書いたのもこの人。