今回はテクノポップの始祖的存在、クラフトワークを取り上げてみます。
たまたま久しぶりに聴いてみたら、なかなか良くてはまったんですよね。もう大昔の音ですが、時代を超越したポップさがあるように思います。
クラフトワークは70年にドイツのデュッセルドルフで、ラルフ・ヒュッターとフローリアン・シュナイダーを中心に結成され、現在に至るまで活躍しているエレクトロニック・ミュージック・ユニットです。
初期にはオルガンや電気フルートなどを使った、カンのような即興的・実験的な音を出していましたが、その活動で得た資金でミニモーグを購入し、それを前面に出して作ったアルバム『Autobahn』をリリースすると、一躍ブレイクを果たすこととなりました。
当時シンセサイザーをメインとして使った音楽は存在しましたが、それは冨田勲やワルター・カーロス(後に性転換してウェンディ・カーロスになった)など現代音楽の分野の一つであったか、もしくはポップのフィールドではあるものの、旋律をシンセで弾いているだけみたいなものがほとんどでした。そんな時代にクラフトワークが提示した、マシーン・ドラムが使用され、サウンドはシンセサイザーだけで構築され、シンプルなメロディーが反復される、というスタイルは本当に斬新でした。
その楽曲は電子楽器を用いたテクノポップ、シンセポップ、テクノ、ヒップホップ、ユーロビートなどの音楽ジャンルの発展に大きな影響を与えており、彼らの存在なくしてはYMOもペットショップ・ボーイズもビースティー・ボーイズもプロディジーも存在しなかった、と言っても過言ではないかもしれません。またもみ上げをバッサリ剃り落としたいわゆる「テクノカット」も彼らのオリジナルです。
サウンドの特徴ですが、シンプルなメロディーの反復で音楽が構成されていることと、ストイックに徹して無駄な音を極限まで排していること、そして極力人間らしさを廃したデフォルメされた音であることでしょうか。
また多くの場合アルバムごとに明確なコンセプトがあり、主題として普通のバンドが取り上げないような無機質なものを好むことも特徴と言えるかもしれません。
Kraftwerk - Autobahn
74年リリースの4thアルバム『Autobahn』に収録されている、彼ら初のヒット曲。全英11位。ビルボードでは25位を記録しています。
本来は22分36秒という長尺の曲なんですが、これを3分ちょっとにエディットしてシングルカットすると、75年にアメリカのラジオから火がついて世界的でヒットし、多くの人にショックを与えるとともに、大量のフォロワーを生んだ出世作です。
アウトバーンというと速度無制限で高速、というイメージがありますが、この曲は結構ゆったりしていて、作業のBGMなどに流していると気持ちいいです。
77年の6thアルバム『Trans-Europe Express』(邦題は『ヨーロッパ特急』)収録曲。
82年にシングルカットされ、全英で25位を記録したほか、79年に日本でもサントリー角瓶のCMソングとして使われ、ヒットしています。
ダークな雰囲気の曲調と、金属的な打音が印象的です。
Kraftwerk - Trans Europe Express
『Trans-Europe Express』のタイトルナンバーで、彼らの代表曲。ビルボードで67位を記録しています。
テクノ・アンセムとして有名なほか、サンプリングの元ネタとしてもよく使われていて、特にアフリカ・バンバータの『Planet Rock』はヒップホップ史上でも重要な曲となっています。
ホワイトノイズと金属音で表現される走行音と、緊張感溢れるメロディが交錯するところが今聴いてもスリリングです。
Kraftwerk - The Model
78年の7htアルバム『The Man-Machine』(邦題は『人間解体』)収録曲。
彼らには珍しい歌もので、親しみやすいメロディーを持った曲です。
81年に英国でシングルカットされてチャートの1位を獲得し、そのポップスとしての完成度を証明しています。
Kraftwerk - The Robots
『The Man-Machine』収録曲。91年にシングルカットされ、全英20位を記録しています。
コミカルだけどちょっと不気味さのあるメロディと、シュールな味わいが耳に残る曲です。ヴォコーダーによる「We Are The Robot」のフレーズは、当時テクノポップのシンボルでした。
ライブなどで同曲を演奏する際には、メンバー扮するロボットが登場し、楽曲に合わせて踊ってましたっけ。
Kraftwerk - Dentaku(Pocket Calculator)
81年の8thアルバム『Computer World』からのシングル。全英39位。
下手な日本語で歌われているキュートな曲です。ファミコンの電子音のようなサウンドがなかなか味わい深いです。
日本でのライブでは、本物の電卓を持って歌ってました。
Kraftwerk - Musique Non Stop
86年の9thアルバム『Electric Cafe』からのシングル。87年にビルボードのダンス&クラブチャートで1位を獲得しています。
大昔の格闘ゲームみたいな、カクカクしたCGを使ったPVが印象的です。
03年にリリースされたシングル。全英20位を記録しています。
これは83年(22位)、84年(24位)、99年(61位)と3度にわたってシングルカットされ、リミックスして4度目のシングル発売されたという曲です。
テクノロジーが進歩したため、音はだいぶモダンになりましたけど、根っこの部分では変わっていないのが素敵ですね。
クラフトワークは90年代以降は活動が消極的となり、08年にはシュナイダーも脱退してしまいますが、現在はヒュッターを中心に新しいメンバーを加え、マイペースで活動しています。
今年も坂本龍一主催の反原発イベント『NO NUKES2012』に招かれ、8年ぶり5度目の来日も果たしています。
また彼らの影響を受けたミュージシャンは非常に多く、古くはウルトラヴォックス、YMO、デヴィッド・ボウイ、ニュー・オーダー、デュラン・デュラン、最近ではU2、レディオヘッド、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、コールドプレイ、ダフト・パンク、ケミカル・ブラザーズなどが、彼らからの影響を公言しています。
上記のミュージシャン以外にも分野・表現の枠を超えて、その思想、コンセプト、スタイル、アイディアなどの点で、後進に多大な影響を与えていることは間違いなく、その点で本当に偉大なミュージシャンと言えるでしょう。
以下は余談です。
DTMが発達した今では信じてもらえないような話ですが、当時彼らが使用していたアナログ・シーケンサーというのは大変面倒くさいシロモノでした。
何しろ今のデジタル・シーケンサーとは違って、音程も音の長さも音符や数値では指定できなかったのですから。じゃどうやって指定したかというと、何とヴォリュームを使ってでした。そしてピッチは耳で聞いて決定していました。またメモリも小さく、音数は1フレーズ程度が限界だったというのですから驚きです。
こんな程度の性能ですから、それで音楽を作るのにどれくらい時間がかかるかを考えると、比喩や冗談じゃなく本当に気が遠くなります。当然手で普通に弾いたほうが圧倒的に楽で早かったはずです。
でも彼らはそれでもあえてシーケンサーを使ったわけで、そんなところにテクノ・スピリッツが感じられたりします。先駆者とはこういうものなのでしょうね。