ビル・ワイマン

どうもです。すっかり夏本番で、毎日クソ暑くてたまりません。
最近毎回同じこと書いてる気もしますけど、僕は暑さに本当に弱いんでこの時期はまるっきり動けなくなっちゃって、仕事(これだけは暑いから休みってわけにもいかんですし)以外のことは何もしたくないんですよ。
というわけで、少なくとも8月いっぱいは更新も小ネタ中心にして、短めにやっていこうと考えています。御了承頂ければ何よりです。
まあこのブログっていつも読み返すのも面倒くさくなるくらい長いんで、たまにはこういうのもいいだろうとは思うのですが。


今回取り上げるのはビル・ワイマンです。
最近の若い人はどうだか知りませんけど、僕と同年代のロックファンでこの名前を知らない人はいないんじゃないでしょうか。あのローリング・ストーンズのオリジナル・ベーシストで、91年まで在籍していた人物です。
ただストーンズってミック・ジャガーキース・リチャーズ(最初の頃はブライアン・ジョーンズが中心でしたが、その頃のことはリアルタイムでは知りません)が圧倒的な存在感を放っているバンドで、ワイマンはドラムスのチャーリー・ワッツと並んで非常に地味な存在でした。縁の下の力持ちみたいな感じですね。
僕も中学生・高校生の頃には、ワイマンのことなどまったく気にも留めたことがありませんでした。子供に理解できるような分かりやすい部分のない人でしたし。
そんな彼が82年に、突然テクノポップっぽいシングルを出したんで驚きました。当時ポール・マッカートニーニール・ヤングアリス・クーパー、フィル・ライノットらのベテラン勢が、テクノポップニューウェーブに触発されたような曲を立て続けにリリースしていた時期ではあったんですが、ワイマンってのはさすがに予測していなかったんで。


Bill Wyman - Come Back Suzanne


これがそのシングルです。日本でもラジオで何回かオンエアされていて、それなりに話題にはなっていました。
記録を調べてみると、英米ではチャートインしなかったものの、オーストラリアではそこそこ売れて14位に入っているそうです。
曲はまあ標準的と言いましょうか、とりあえずテクノポップの真似事をしてみました感が強くて、なかなか評価は難しいですね。ただワイマンのとぼけたヴォーカルで、スザンヌという恋人もしくは奥さんに対してひたすら「帰ってきておくれ、お願いだから」と懇願するさまはなんとも憎めない味があって、個人的には結構好きです。
女性に逃げられてしまうこの情けなさは、ワイマンのイメージにピッタリだなと当時勝手に思っていたんですが、実はワイマンってものすごいプレイボーイで、二千人以上の女性と寝たという逸話も持っているんだそうですね。あっちこっちに子供もいますし、一度は息子の嫁を寝取ったこともあるんだとか。
89年には53歳にして、当時18歳のマンディ・スミスと結婚しています。これだけなら別に問題ないんですが、ワイマンはスミスが13歳の時に交際を始め、14歳のときには性的交渉を持っていたというのですから驚きです。後にこれが明らかになった際にもそんなに糾弾されたような記憶はないんですが(結婚した際に日本の雑誌ロリコン呼ばわりはされてましたけど)、本来ならゲイリー・グリッターみたいに社会的生命を失うレベルなんじゃないでしょうか。
なおスミスはワイマンと交際している最中の86年に、ストック・エイトキン・ウォーターマンのプロデュースで歌手デビューもしているんですが、このへんにはワイマンの助力もあったのかもしれません。しかしこの結婚は91年には破綻しており、93年には正式に離婚しています。とはいえワイマンは離婚直後にスーザン・アコスタという女性と結婚しており、何のダメージも感じさせなかったのはさすがですけど。ちなみにスミスも同じ年にサッカー元ウェールズ代表選手のパット・ヴァン・デン・ハウェと結婚していますが、2年後にはあっさり離婚しています。
またワイマンは周囲のことを全然気にしないマイペースな人間で、ストーンズのアルバムを録音している際も、時間が来ると途中であることもお構いなしに、さっさと帰ってしまう人だったらしいです。ストーンズが売れてアルバムのレコーディングの時間が長くなるにつれて、ベースをリチャーズが弾いている曲が多くなっていくのもこのためのようですね。
これをバンドへの忠誠心が足りないと考えるのも自由(特に日本的価値観には馴染まないような気もしますし)だとは思うんですけど、個人的には誰もが憧れるストーンズのベーシストの座も、自分にとっては単なる仕事に過ぎないって言っているようで、その割り切りっぷりが逆にカッコいいように感じます。


ワイマンにはこれ以外にも結構な数のアルバムやシングルを出しています。ローリング・ストーンズのメンバーの中では一番ソロ活動が多いんじゃないでしょうか。
今回はその中からシングルを中心に、何曲か見繕ってみることにします。


Bill Wyman - In Another Land


67年のシングル。ビルボードで87位。
この曲はもともとローリング・ストーンズのアルバム『Their Satanic Majesties Request』(邦題は『サタニック・マジェスティーズ』)に収録された曲です。
このアルバムを録音中のある日、ワイマンはスタジオにやって来たものの、そこにいたメンバーはワッツとピアニストのニッキー・ホプキンスだけで、ジャガーもリチャーズもジョーンズもまったくスタジオにやってくる気配がありませんでした。
そのためワイマンはこれ幸いとばかりに自作曲のセッションを始め、これを録音します。後になってその録音を聴いたジャガーとリチャーズは、これは悪くないんじゃないかと思ってアルバムに収録し、のちにワイマン名義でアメリカでシングルカットしたのです。結果この曲はストーンズのメンバーによる初のソロ活動になったわけですね。
曲はいかにも当時らしいサイケデリックな様相になっております。ジョーンズのメロトロンとホプキンスのハープシコードが麻薬的な感じを出していて、マリファナとかやりながら聴くと効果抜群なんじゃないでしょうか(経験がないので適当に書いてます)。またスモール・フェイセズのスティーブ・マリオットとロニー・レイン、ジャガー、リチャーズがバックコーラスとして参加するなど(マリオットはアコギも弾いている)、何気にメンツも豪華です。
ワイマンの曲がストーンズで採用されるというのは異例のことで、他には『Downtown Suzie』(ヴォーカルはジャガー)くらいしかありません。その『Downtown Suzie』も当時のストーンズのマネージャーだったアラン・クラインが、ジャガー、リチャーズ、ワイマンの誰からも許可を取らずに、勝手にコンピレーション『Metamorphosis』に収録したという曰くつきの物ですから、正式なストーンズのナンバーと呼べるのはこの曲だけなんじゃないでしょうか。なおワイマンは有名な『Jumpin' Jack Flash』のメインリフを作ったのも自分だと主張していますが、リチャーズは断固としてそれを認めていません。


Bill Wyman - Je Suis un Rock Star


81年リリースのシングル。全英14位のヒットになっています。
この曲はデジタル・ビートを導入したカリプソみたいで、当時としてはかなり斬新だったのではないでしょうか。


Bill Wyman - A New Fashion


82年リリースのシングル。全英37位。
シンセを導入してエレポップに寄せておきつつ、さりげなくズークなどの南米の音楽を取り入れていて、これもなかなかの意欲作だと思います。


85年にワイマンは、多発性脳脊髄硬化症という難病に冒された親友のロニー・レインを救うため、チャリティー用としてウィリー&ザ・プア・ボーイズなるバンドを結成、アルバム『Willie & The Poor Boys』をリリースしています。
このバンドはストーンズの同僚であるワッツ以外にもミッキー・ジー(ギター)、アンディ・フェアウェザー・ロウ(ベース、ギター)、テリー・ウィリアムズ(ドラムス、元ロックパイル)、ゲラント・ワトキンス(ピアノ)といった英国ロックンロール界の大御所たち(の中でも特に地味な面々)を集め、50年代のロックンロールや古いR&Bのカバーを、リラックスした感じで演奏していますね。どの曲も渋くてなかなか味もあって、雰囲気だけでもたまらんものがあります。


Willie and the Poor Boys - Baby, Please Don't Go


85年リリースのシングル。ビルボードのメインストリーム・ロックチャートで35位を記録しています。
この曲はビッグ・ジョー・ウィリアムズなどの演奏で知られる、デルタ・ブルースの名曲ですね。ヴォーカルをとっているのはクリス・レアですが、これがまた渋くて良いです。


Willie and the Poor Boys - These Arms of Mine


これも『Willie & The Poor Boys』収録曲。
オーティス・レディングの名バラードのカバーで、ポール・ロジャースのソウルフルなヴォーカルが沁みる逸品ですね。また間奏のギターはジミー・ペイジが弾いています。


91年にストーンズを脱退したワイマンは、その後ほとんど古巣と関わることはなく(2012年の結成50周年記念ライブに、ゲストとして参加し2曲演奏したのが最初で最後の共演)、古い友人たちとビル・ワイマンズ・リズム・キングスなるバンドを結成し、悠々自適とも言えるマイペースな音楽活動を続けています。
もちろんワイマンのことですから、古い友人といってもアルバート・リー、ゲイリー・ブルッカー、ジョージ・フェイムといったすごいメンバー(一時期にはピーター・フランプトンも参加していた)でして、キャリアを生かしたまったりとした芳醇な演奏を聞かせてくれます。なかなか良いですよ。


Bill Wyman's Rhythm Kings - Love Letter


01年リリースのアルバム『Double Bill』に収録された曲。
原曲は日本でも綾戸智絵がカバーしたことで知られるスタンダード・ブルースですが、ここではビヴァリー・スキート(ケミカル・ブラザーズの『Star Guitar』でも歌ってました)がソウルフルに歌い上げています。
特筆すべきはスライド・ギターでしょうか。さりげなく美しいギターですが、なんと元ビートルズジョージ・ハリスンが弾いています。
ビートルズストーンズのメンバーが同じレコーディングに参加したのは、レオン・ラッセルのアルバム『Leon Russell』で、ジャガーとワイマン、ワッツ、ハリスンとリンゴ・スターが別々の曲で演奏したという例がありますが、直接共演したのはこの曲くらいではないでしょうか(それほどビートルズストーンズに詳しいわけではないので、違っていたら御教示頂けると何よりです)。
当時癌に侵されていた最晩年のハリスンが、わざわざ病を押して参加し渾身のスライド・ギターを披露していること、そしてハリスンの死後ワイマンがトリビュート・アルバムに参加し、ハリスン作のビートルズ・ナンバー『Taxman』を歌っていることから考えて、二人の仲はかなり良かったんでしょう。仲良きことは美しき哉


しかし歳を取ると、こういう古いロックンロールやR&Bのカバーが、何とも気持ち良く聴けますね。
昔だったらなかなか受け入れられなかったジャンルだと思うんですが、余計な自意識がなくなったせいなのか、虚心に受け入れることができるようになったと思います。
良いと思えるものが増えるんだったら、歳を取ることもまんざら悪いことじゃないんじゃないか、と思いつつ、明日にはついに50の大台に突入することになるのですが(苦笑)。