ウォーターボーイズ

私事ですが、このブログを始めて1年になりました。
飽きっぽくてこれまで2つのブログを放置している自分が、何とか無事にこれを続けていることができるのも、偏に読んで下さっている皆様のおかげだと思っております。どうもありがとうございます。
最初の頃は毎日更新していたんですよね(内容はあっさりしてたけど)。最近はどんどん更新ペースが落ちてますけど、モチベーションは失ってないので、もうしばらくは続けられると思っています。
とりあえずは今後1年間きちんと更新する、というのを目標にやっていきたいと思います。正直最近は80年代イギリスに偏重し過ぎて、このままではそのうちネタ切れしてしまいそうなのですが、そこはもう少しアメリカやヨーロッパやその他の国、70年代や90年代の音楽を取り上げることで乗り切るつもりです。
腰が定まっていなくていい加減で、気まぐれで何の前触れもなくいきなり違ったタイプの音楽を取り上げるなど落ち着きのないブログですが、寛大な目で見て頂けるとありがたいです。これからもよろしくお願い致します。


前置きはこれくらいにして、本題にいきましょう。今回はちょっとトラッドに目配せしてウォーターボーイズです。
ウォーターボーイズ』というとフジテレビのドラマを思い出す方が多いでしょうが(実際検索するとそっちばっかり出てきた)、これは日本とはほとんど縁がない地味なバンドです。
彼らはスコットランドエジンバラ出身で、ロンドンで音楽雑誌のライターをしていたマイク・スコットを中心に、81年に結成されました。ちなみにバンド名はルー・リードのアルバム『Berlin』に収録された『The Kids』の歌詞から取っているそうです。
スコットは時期や住む場所にかなり影響を受けるタイプらしく、長い歴史の中で音楽性は何度も変わっているんですが、生きることに対する切なさや憤りといった感情が時には激しく、時には繊細に描き出されているところは共通しています。このへんはスコットが敬愛するボブ・ディランパティ・スミスの影響もあるのでしょう。
なおメンバーにはかつてロビン・ヒッチコックのもとでサックスを吹いていたこともあるアンソニー・シッスルスウェイトや、後にワールド・パーティーを結成するカール・ウォリンガーも在籍していたことがあります。


初期の彼らは詩へのこだわりを深いエコーの中に秘めた、U2のフォロワーのようなニュー・ウェーブバンドといった趣でした。
アプローチに妙に肩の力が入っていて、情熱的な面をそのまま外部に叩きつけるようなところがあったのも、初期U2に通じるものがあったかもしれません。


The Waterboys - The Big Music


84年の2ndアルバム『A Pagan Place』からのシングル。
若さが良い意味にも悪い意味にも出ている、という印象は否めないんですが、スケール感溢れる音には才能の大きさを感じさせられます。
ただ評価は高かったものの商業的な成功には結びつかず、この曲はチャートインを逃し、アルバムもギリギリ100位に入る程度でした。


その後スコットはアイルランドの伝統音楽に深く傾倒するようになり、作品にもその影響が色濃く出てくるようになります。


The Waterboys - The Whole of the Moon


85年の3rdアルバム『This Is The Sea』(邦題は『自由への航海』)からのシングル。
全英で37位を記録し、彼らに初めての商業的成功をもたらしたほか、91年には再度シングルカットされ、全英3位を記録する大ヒットとなっています。
フィドル奏者のスティーブ・ウィッカムを迎え、マンドリンなども積極的に導入し、アイルランド音楽にグッと接近していますが、それでいてロック的な熱さも残っているというのが個人的に好きですね。
「僕が三日月を見ている頃、君は満月を見ていた」という歌詞も深くて、とても印象に残っています。このへんは吟遊詩人スコットの面目躍如でしょう。


The Waterboys - Fisherman's Blues


88年の4thアルバム『Fisherman's Blues』のタイトル曲。シングルカットもされ、全英32位を記録しています。
この頃になるとシッスルスウェイトやウォリンガーは脱退、スコットはアイルランドに移り住んで、さらに土地の音楽を吸収していくのですが、その影響はこの曲にも如実に出ていて、よりトラディショナルに深化した音を聞かせてくれます。
前作まであった固さや緊張感が薄れ、どこか解放感すら漂っているのですが、そのへんはついに自分の進む道を見出したという喜びに満ちているからなのでしょうか。
歌詞も「漁師になりたかったんだ」で始まる素朴な希望の歌で、スコットらしさが出ていて良いんですよ。この曲が彼らの中では一番好きですね。


あまりにもアイリッシュ・トラッドが板についていたため、このまま彼らはアイルランドに土着するのではないかと僕なんかは見ていたんですが、スコットは何か思うところがあったらしく、90年代に入ると単身ニューヨークに渡ります。
そしてセッション・ミュージシャンを集めてアルバムを制作、あれだけ傾倒していたトラッド趣味を思いっきり捨て去って、聞いているこっちを驚かせてくれました。


The Waterboys - The Return of Pan


93年の6thアルバム『Dream Harder』からのシングル。全英24位。
初期の頃にも通じるオーソドックスなロックに回帰した作品ですが、当時のような張り詰めた雰囲気はなくなり、力強さと武骨な優しさが感じられます。このへんは本人の成熟が大きいのでしょう。
エレクトリックギターを思い切り弾きまくるスコットの姿は、ロック少年丸出しな感じで個人的には好感が持てますね。


しかしスコットはその後、ウォーターボーイズの名を一時捨てました。ソロになったのです。
もともとウォーターボーイズは『Fisherman's Blues』の頃にはほとんどスコットのソロ・プロジェクト化していたので、当然と言えば当然のことだったんでしょうけど、やはり寂しかったですね。
ソロシンガーとなったスコットは、元アイシクル・ワークスのイアン・マクナヴらと組んで、地味で内省的なアルバムを2枚出しましたが、チャートインこそしたものの商業的には今ひとつ芳しくなかったようです。
結局スコットは自分のソロ名義よりウォーターボーイズのほうが通りがいい事に気づいたらしく、00年にウォーターボーイズの名前を復活させました。
現在はシッスルスウェイトやウィッカムも呼び戻し、精力的にライブ活動をしているということです。