ザット・ペトロール・エモーション

暑いせいか体調がいまいちなので、前置きは非常に簡潔にいきます。今回は3回前のアンダートーンズからの続きですね。
なんか連想ゲームみたいな感じで更新が続いていってますが、このブログはそういう体でネタを探す事が多いので、ご容赦頂けると何よりです。


アンダートーンズ解散後、ソングライターだったジョン・オニール(その後ショーンに改名するので、以降はショーンで)は故郷の北アイルランドに帰ります。
そこで当地のDJだったリーマン・オゴーマン(ギター)とキアラン・マクラフリン(ドラムス)と出会い意気投合し、84年に当地でザット・ペトロール・エモーションを結成しました。
最初は地元で活動を開始しますが、後にクリエイション・レコードのアラン・マッギーに勧められてロンドンに移り、そこで元アンダートーンズのメンバーでショーンの弟であるダミアン(ベース)、そしてシアトル出身のアメリカ人スティーブ・マック(ヴォーカル)を加え、5人組として本格的に始動します。


彼らの特徴は一言で言って「地味」(笑)。今回聴き直してもやっぱり「地味だなあ。これじゃ売れないよなあ」と思いましたから。この点に関しては最後まで変わりませんでした。
アンダートーンズのソングライターが作ったバンドですので、もちろんそれなりにポップではあるんですが、昔のような強いフックを意識的に作らず、その分多彩なギター・サウンドを聞かせることを意図しているようです。
ノイジーなギターリフを中心にして組み立てたサウンドで、甘いメロディを包むような手法は、のちのポスト・グランジあたりの音に通じるところがあったように思えます。そういう意味では先駆者的な存在ですね。


彼らは85年にインディーでスタートし、何枚かのシングルを出した後、86年にデビューアルバム『Manic Pop Thrill』をリリースします。
するとこれが反響を呼び、インディーでありながら全英86位を記録するヒットとなったため、一躍注目の的となり、結果メジャーのポリドールと契約を果たしました。


That Petrol Emotion - It's a Good Thing


『Manic Pop Thrill』からのシングル。
硬派なギターが印象的ですが、メロディーはポップで、なんかネオ・サイケデリックな香りを感じさせますね。


こうして無事足がかりを作った彼らは、翌87年に2ndアルバム『Babble』をリリースします。
このアルバムは元スワンズのロリ・モシマンがプロデュースしたということで、一部の話題を集めました。
今はあまり知っている人もいないでしょうけど、当時のスワンズというのは反復するビートと攻撃性の強い音響、そして粗野でラウドな音世界を展開していて、知る人ぞ知る存在だったわけです。ロシマンはあのフィータスと組んで活動していたこともありましたし。
そんな人をプロデュースに迎えるというわけで、どんな音になっているのか興味半分心配半分だったわけですが、ちょいUSアンダーグラウンド的な要素はあるものの、それなりにポップな音に仕上がっていて、安心したようなガッカリしたような変な感じが残っているのを覚えています。全英30位。


That Petrol Emotion - Big Decision


『Babble』からのシングル。全英43位。ビルボードのダンス・ミュージックチャートで27位。
ポップなメロディーとタイトな演奏、グループ感を兼ね備えていて、個人的にはなかなかの佳曲だと思っています。
欲を言うとこれで華さえあれば、ブレイクした頃のU2に近い感じになっているのかもしれません。まあ高望みだというのは分かってるんですけど。


That Petrol Emotion - Dance (Your Ass Off)


これも『Babble』からのシングル。全英64位。
タイトルどおりダンサブルなビートを強調していて、これで華さえあれば(しつこい)売れたんじゃないかなあ。


しかしいまいちセールスが上がらなかったのと、やはり地味過ぎたのが祟ったようで、彼らはこれ一作でポリドールから首を切られてしまいます。
当時はメジャーレーベルがインディーで使えそうなバンドを青田買いして、結果が出なければすぐに解雇みたいなことが横行していた時期なんですが、彼らも見事にそのやり方の犠牲になった感じでしょうね。
しかし捨てる神あれば拾う神あり、彼らはヴァージンとの契約をゲットし、88年に3rdアルバム『End of Millennium Psychosis Blues』をリリースし、全英53位に送り込んでいます。
このアルバムはファンク、ブルースなど黒人音楽の要素を大胆に取り入れた曲から、トラッドっぽいポップまで曲調は多彩で、彼らが一番充実していた頃の音なのかもしれません。


That Petrol Emotion - Genius Move


『End of Millennium Psychosis Blues』からのシングル。全英65位。
ダンサブルなビートと繊細なギターの組み合わせは、ちょっとストーン・ローゼズを先取りしているような感じで、隠れた一曲なんじゃないかと思います。


しかし89年になると、バンドの根幹を揺るがすような一大事が発生します。中心メンバーだったショーンが脱退するのです。
もともとショーンはアイルランド問題や、インディーへのこだわりが大きくて、グループ活動に違和感を感じていたというのがあったようです。
以後ダミアンがギターに転向し、ベーシストにジョン・マーチニを加入させバンドは存続しますが、核となるメンバーの離脱は大きかったですね。


90年になると彼らはなんとかバンドを立て直し、4thアルバム『Chemicrazy』をリリースします。
アメリカのインディー・ギター・ロックに傾倒していた彼らは,R.E.M.との活動で知られるスコット・リットをプロデューサーに迎え、もともとの独特なアイルランド臭にアメリカン・ロックのテイストをまぶしたような作風になりました。ただ全英62位と、セールス的には失敗しています。


That Petrol Emotion - Hey Venus


『Chemicrazy』からのシングル。全英49位。ビルボードのモダン・ロックトラックチャートで9位。
メロディーはポップですが、初期の繊細さは影を潜め、リフ主体の力強い構成になっています。アメリカでちょっとウケたのも分かりますね。
個人的にはオルタナに近いものを感じて、アンダートーンズの人たちがここまで来たかと感慨深くなるのですが。


That Petrol Emotion - Tingle


これも『Chemicrazy』からのシングル。全英49位。
マンチェスターサウンドの影響を感じる、浮遊感のある音が特徴でしょうか。
オルガンがサイケデリックで、個人的には好きです。


ここまで何とかやってきたザット・ペトロール・エモーションですが、91年には更なる不幸が彼らを襲います。
所属先のヴァージン・レコードがEMIに身売りする事が決まり、その時のリストラ対象にされて契約を失ってしまうのです。
正直あまり売れてなかったバンドですから、仕方ないと言えば仕方ないんですが、やはり世の中は厳しいですな。売れないと生き残れません。


その後ベーシストの交代を経て、彼らは93年に自分のレーベルから5thアルバム『Fireproof』をリリースします。


That Petrol Emotion - Catch a Fire


『Fireproof』からのシングル。
轟音ギターに重たいビートと、よりオルタナ色が強くなっていますが、メロディーはしっかりポップ(そして地味)なのが彼ららしいです。


しかしインディーでの活動はあまり反響を呼ばず、活動に行き詰まりを感じたのか、彼らは94年に解散してしまいました。
正直二度も所属レーベルから首を切られたら、自分なら心が折れると思いますので、この選択はやむを得なかったのではないでしょうか。
アメリカのグランジ以降の音を先取りしたようなグループだっただけに、いまいち評価が高くないのが惜しまれます。ウィーザーあたりが好きな方なら、発掘してみる価値はあると思うんですが。


バンド解散後、ダミアンはア・クワイエット・レヴォリューションというワンマン・ユニットを結成し、01年にはアルバムをリリースしています。
先に脱退したショーンは、後に英国をはじめとするヨーロッパで成功した、ディヴァイン・コメディを発掘するなど、後進に力を貸す仕事をしていたようです。
そして前にも書いたように、99年には兄弟揃ってアンダートーンズを再結成し、2枚のアルバムをリリースするほか3年前には来日するなど活躍しています。
またザット・ペトロール・エモーションも08年には再結成し、ライブを行っているようです。どうもオニール兄弟は2つのバンドとソロ活動を、交互にやっているようで、その意欲には敬服します。
ここからまた再ブレイクなんてことはないでしょうけど、末永く元気で頑張ってほしいものです。