クーラ・シェイカー

90年代中頃の英国は、ブリットポップというムーブメントがシーンを席巻していました。
その中にはオアシスやブラー、アッシュやスーパーグラスのように、ブーム後も生き残って高い評価を得たバンドもいますが、それ以外にもいろいろと面白いバンドがいました。そのひとつがクーラ・シェイカーです。
クーラ・シェイカーは他のブリットポップのバンドとは、ちょっと違った音楽性を持っていました。60年代のガレージ・ロックにインド風のエキゾチズムを混入させた、サイケデリックな音作りをしていたのです。
その音は胡散臭さ満点ではありながらも、一種独特のグルーブを持っていて、当時ちょっとブリットポップの音に食傷気味だった僕も気に入りました。
あと美麗なルックスのフロントマン、クリスピアン・ミルズが、あの英国の大俳優ジョン・ミルズ*1のお孫さんというのが驚きでしたね。思いっきり上流階級出身じゃん。


Kula Shaker - Grateful When You're Dead


この曲は96年にリリースされた彼らの出世作で、全英で35位のスマッシュ・ヒットとなり、脚光を浴びるきっかけとなりました。
60年代の匂いを意図的にぷんぷんさせるあたり、なかなかあざとい音ではありますが、新人のシングルとは思えないくらいのスケール感と派手さがあり、いかにも彼ららしい楽曲です。


Kula Shaker - Govinda


この曲はやはり96年にリリースされて全英で7位を獲得した、彼らの個性を存分に詰め込んだ曲です。
なにしろ歌詞が全編マントラで構成されているのですから驚きです。それでいてポップな高揚感も内包しているのには、当時素直に感心した記憶があります。
個人的にはソロになりたての頃の、インド音楽にかぶれまくっていたジョージ・ハリスンを思い出しましたね。あれをもっとロックっぽくした感じかも。


Kula Shaker - Hush


97年にリリースされて、全英2位の大ヒットとなった曲。
初期ディープ・パープルが68年にビルボードで4位とヒットさせた曲として有名ですが、原曲はアメリカのカントリー歌手ジョー・サウスのペンによるもので、ビリー・ジョー・ロイヤルというシンガーが歌って67年に米国で52位と中ヒットしています。
それにしてもこれは実に躍動感のある生き生きとしたカバーですね。適度な緊張感とドライブ感があって、思わずグイッと引き込まれてしまいます。オルガンの音もいいですね。
考えてみれば初期ディープ・パープルって、ハードロックと言うよりアート・ロック(死語だなこの言葉)でしたから、サイケな面を持つクーラ・シェイカーとは相性がいいのかもしれません。


こうして順調なスタートを切った彼らですが、そのうちクリスピアンの奇矯な言動がバッシングされるようになり、挙句にナチス礼賛疑惑までかけられて大騒ぎとなります。
そんな中99年にリリースされた2ndアルバム『Peasants, Pigs and Astronauts』は、バッシングの影響やブリットポップブームの終焉もあって思ったほど売れませんでした。しかしクリスピアンはこのアルバムのレコーディングを何度もやり直し、PVも撮り直すなど大変な費用をかけていたため、バンドは経済的に機能不全に陥り、結局その年のうちにあっさりと解散してしまいました。
解散後クリスピアンはザ・ジーヴァスというバンドを結成しますが、日本でこそ売れたものの英国では商業的に失敗してすぐに解散します。
その後05年にはクーラ・シェイカーを再結成しますが、初期のインドっぽい部分は後退し、よりブルージーでフォーキーなサウンドになっているようです。


ちなみにクーラ・シェイカーは日本ではやたらと人気のあるバンドです。
2ndアルバムの時点でセールスは英国より日本のほうがありましたし、ザ・ジーヴァスも本国では全然売れなかったのに日本では10万枚以上の売り上げを記録しましたし、昨年リリースした新生クーラ・シェイカーの最新アルバム『Pilgrim's Progress』も、本国ではトップ100にも入らなかったのに日本ではオリコンで37位に入っていますから。
クリスピアンがいかにもロックスターっぽい、貴公子的な容貌の美男子(日本では王子とか呼ばれてますし)だからということも関係あるのかもしれませんが、それにしても不可思議な現象ではあります。

*1:英国を代表する舞台俳優。大英帝国勲章やサーの称号も得ている。映画にも進出しており、『ライアンの娘』ではアカデミー助演男優賞を受賞している。代表作は他に『チップス先生さようなら』『戦争と平和』『ガンジー』など。