M

一発屋に拘っていたら、あっという間にこのブログ全体に企画もの臭が漂ってきたんですが。
とりあえず今回は「真の一発屋」「一発屋の中の一発屋」を紹介しましょう。それがMです。


70年代末からのテクノブームは、胡散臭い素人ミュージシャンを数多く生み出しましたが、Mはその代表格です。
Mことロビン・スコットは69年にアルバム・デビューした(それもフォーク・ソングで)ほどの古株ですが、結局は泣かず飛ばずで雌伏の時を過ごし、70年代後半にテクノポップブーム黎明期になると、突如Mに変身してシングル『Pop Muzik』をリリースしました。
この『Pop Muzik』は記号的な美意識を前面に押し出したアプローチ、ディスコ・サウンドをベースに様々なスタイルを取り込んでしまう無節操さ、そしてバカバカしいくらいの軽さが受けて、ビルボードで1位を獲得するほどの大ヒットとなったのです。


M - Pop Muzik


当時の邦題は『ポップ・ミューヂック』でしたっけ。
それにしても今聴いても全然古くないのがすごい。無機質なダンス・ビートにのっかるロビン・スコットの下世話なボーカルとクールな女性コーラス、そしてどこかとぼけていながら何気にキャッチーなメロディが耳に残ります。
この軽さ、インチキ臭さが結構面白く聞こえるのが不思議です。何年か前に日本のCM(何のCMだったか忘れた)でも使われていましたけど、なかなかいい感じに聴こえていたと思うのですが。


しかしこの後Mは数枚のシングルを発表したのですが、いずれもビルボードで100位以内にも入ることができず、「シングルチャートの1位を獲得したが、他は1曲もチャートインできなかった」という、後にも先にも彼だけの不滅の記録を残してしまいます。
これこそが冒頭に彼のことを「真の一発屋」「一発屋の中の一発屋」と書いた理由ですね。なかなかできそうでできない記録だと思います(英国ではこの他に2曲の小ヒットがありますが)。
おまけとして、英国で33位と小ヒットした曲も載せときます。


M - Moonlight And Muzak


『Pop Muzik』に比べると凡庸な曲ではありますが、とぼけた味は健在です。
個人的には嫌いじゃなかったりして。


その後彼は坂本龍一の『左うでの夢』の製作に呼ばれましたが、楽器が弾けないためまったく出番がなかったとか、レイ・パーカーJrが『Ghostbusters』をヒットさせた際、『Pop Muzik』の盗作であるとして裁判に持ち込み勝訴したとか、数々の香ばしいエピソードを残しています。
本業の音楽のほうも、高橋幸宏の参加したアルバムや、ケニアの女性ヴォーカルと共演したアルバムなんかを出しているみたいです。聴いたことないですけど。