ユーロマスターズ

どうもです。相変わらず暑いですね。
こちらはこのうだるような暑さにお盆休みボケが加わって、今日はぐてーっとだらしなく伸びております。
こんな調子では日常生活にも差し支えるので、たるんだ肉体と精神に喝を入れるような、ハードコアな音を聴くことにしましょうか。
というわけで今回はテクノのユーロマスターズです。ほとんどネタ更新ですが、まあ夏ですからご勘弁頂けると有難いです。
あと僕自身はテクノというジャンルにあまり詳しくない(ジジイですからテクノポップは比較的知ってるんですけど)ので、事実誤認などもあるかもしれませんが、その場合は御指摘頂けると何よりです。


ユーロマスターズは90年代前半にテクノシーンで注目を浴びた、オランダのテクノユニットですね。
彼らは92年にオランダのロッテルダムで結成されています。メンバーは元ホリー・ノイズのポール・エルスタック、ロブ・ファブリーの2名ですが、曲によってはハーム・レフバーやホーイハウスというメンバーが加わるなど、その構成は変則的だったようです。
彼らのサウンドは猛烈に速いBPM、ミキシングでゲインを上げて歪ませたバスドラの暴力的な響き、本来音楽が持っているはずの情緒を土石流のように押し流してしまうキチガイじみた音の乱発、犯罪上等の無承諾サンプリング、知的な面を1ミリたりとも感じない下品でバカな音が特徴です。彼らとその周辺のハードコア・テクノの面々は、エルスタックの設立したロッテルダム・レコーズから次々と音源を発表すると、その過激な音が評判を呼び、「ロッテルダムテクノ」(正しい名称は「ガバ」)と呼ばれて主にニューヨークなどで持て囃されました。
そもそもロッテルダムテクノは、アムステルダムのDJたちがもっぱら英国の曲を好んで流すことに対して反発心を抱いたロッテルダムのDJたちが、そのアンチテーゼとして作り上げたジャンルであります。そのためなのかアムステルダムをことさらに敵視するなどローカル意識が強く、また辟易するくらい露悪的な部分も持っていましたね。そこもこの手の音の味だったんですが。
日本では90年頃に阿木譲の経営する大阪のクラブ『Mathematic Modern』で、「ロッテルダムナイト」というイベントが開催され、局地的に人気を呼んでいました。
そして92年には電気グルーヴ石野卓球が、「ロッテルダムナイト」でロッテルダムテクノに遭遇して衝撃を受け、自分がDJを務めるオールナイトニッポンでユーロマスターズの『Alles Naar De Klote』などを流したため、その過激な音像がついに日本中に知れ渡ることとなったのです。
石野卓球というメジャーな人物がラジオで布教したことは大きかったようで、翌93年にはあのエイベックスから『ロッテルダム・テクノ・イズ・ハード・ハード・ハード!!』というオムニバス・シリーズまでリリースされるようになり、彼らは一気に日本のクラブシーンでも市民権を得るようになっていきました。
僕自身は卓球のオールナイトを聴いたことはなく、彼らを知ったのは今は亡きPCゲーム雑誌『ログイン』の音楽紹介コーナー(『ログイン』はゲーム雑誌なのに歴史、ファンタジー、音楽、お笑い、科学など多岐に渡るジャンルの読み物が充実していて、一時愛読してました)ででした。そこで「とにかく常識外れなくらいハードで暴力的なテクノ」と熱く語られているのを見て、興味を持って『ロッテルダム・テクノ・イズ・ハード・ハード・ハード!!』を買ってみたんですよね。いやーすごかった。


Euromasters - Alles Naar De Klote


石野卓球がオールナイトで流した問題の一曲。彼らの2枚目のシングルで、『ロッテルダム・テクノ・イズ・ハード・ハード・ハード!!』のトップを飾る曲でもありました。
なんか曲と言っていいのかどうかもよくわからないんですが、強迫的なビートに乗せて「すべてはキンタマだ」(「Alles Naar De Klote」を直訳するとそういう意味らしいです)と絶叫するそのバカさ加減は、ものすごいインパクトがありましたっけ。
なお卓球はこの曲をラジオで流した後で、「これは放送事故ではありません」とフォローを入れたそうなんですが、それも無理もないと思わせるくらいメチャクチャですね。最高。
この曲は当時かなり評判になったらしく、TBSドラマ『誰にも言えない』で佐野史郎がこの曲に合わせて踊り狂うというシーンがあったくらいです。



探してみたら映像がありました。当時これを見てなんかおかしくて笑っちゃった記憶があります。
僕は昔からドラマをあまり観ない人で、今観てるのも『孤独のグルメ』くらいなんですが、佐野史郎は『ずっとあなたが好きだった』での怪演(例の「冬彦さん」)が思いっきりツボに入っていたので、このドラマも観てたんですよね。そしたらこの場面に遭遇したわけでして、偶然というのは面白いものだと思います。


他にも彼らのシングルから何曲か紹介してみましょう。どれも一緒っちゃ一緒なんですが、憂さ晴らしや目覚ましには最適だと思いますよ(人によっては逆にイライラするかもしれませんけど)。


Euromasters - Amsterdam Waar Lech Dat Dan


彼らのデビューシングルのタイトルナンバー。
ブーストされたバスドラがドンドンと鳴り響き、スクラッチのような音が駆け巡るんですが、この手の音に免疫がないと雑音にしか聴こえないかもしれません。
歌詞はロッテルダムにあるサッカークラブ、フェイエノールト小野伸二が在籍していたことで日本でも有名)とアムステルダムのクラブ、アヤックスヨハン・クライフらを世に出した名門)との争いを暗示したものとなっています(オランダ語は分からないけどそういうことらしいです)。ジャケットもロッテルダムにある高層タワー、ユーロマスト(ユニット名の由来もこれ)を擬人化したキャラクターが、地図上のアムステルダムに小便を引っ掛けるという下品かつ攻撃的・挑発的なもので、アムステルダムに対する敵意だけは存分に伝わってきます。


Euromasters - Fuck DJ Murderhouse


『Amsterdam Waar Lech Dat Dan』収録曲。
彼らの曲にしては普通に聴きやすいですね。まあ他の曲に慣れちゃうと、物足りなく感じるのは否めないんですが。


Euromasters - Oranje Boven


93年リリースのシングル『Oranje Boven』のタイトルナンバー。
調子っぱずれのヴォーカル(と言えるのかどうか分かりませんが)が入っていて、神経は高ぶるのにどこか脱力感があるという、何とも不思議な出来になっています。


Euromasters - Noiken In Die koiken


『Oranje Boven』収録曲。彼らの曲としては日本では最も有名かもしれません。
初っ端からoiパンクみたいな「オイオイオイオイ」という威勢のいい掛け声が入り、その後「テッテケテッテッテテテッテッ」と歌い続けているため、強制的に乗せられてしまうという困った曲です。
あまりにもアホらしいんですが、余計な知性を削ぎ落としてバカに徹したおかげで逆に中毒性は高くなっています。


なおこの年エルスタックは、電気グルーヴのリミックス・アルバム『FLASH PAPA MENTHOL』に参加し、『カフェ・ド・鬼』のリミックスを行っています。


電気グルーヴ - カフェ・ド・鬼(かなりおもしろい顔MIX)


当たり前ですがまんまロッテルダムテクノですね。リミックス前に比べるとかなりシンプルかつヘヴィな作りになってます。


Euromasters - Euromasters are Cool


94年リリースのシングル『Hardscore』収録曲。
さすがに過去曲の焼き直し感は否めないんですが、煽情効果だけは不変ですね。そういう意味では機能性が高い音楽なのかもしれません。


この後ユーロマスターズの活動は散発的、断続的になっていきます。
理由は詳しく知りませんが、過激さゆえに飽きられるのも早かったということなんじゃないでしょうか。最初のインパクトが強過ぎて、結局それを超えることができなかったのが大きいかと。
いかにも初期衝動だけで作っている音っぽかったですもんね。そういう点でパンクを連想させるところもあるかもしれません。
しかしパンクと同じく後発に与えた影響は大きかったようです。あまりテクノ系は詳しくないのですが、アタリ・ティーンエイジ・ライオットなんかは明らかにロッテルダム・テクノを下敷きにしているように思えますし。
その後エルスタックとファブリーはそれぞれのソロ活動を中心に行っていますが、時々ユーロマスターズとしても活動しているようです。ロッテルダム・レコーズは手放してしまったようなんですけど。



2007年のユーロマスターズ結成15周年ライブの映像です。
ただひたすらブンブン鳴らしてるだけで、もはや曲なのか何なのかすらよく分かりませんが、聴いていると自然と神経が高ぶってくるのは以前と変わってません。