どうもです。実は先週の土曜日にぎっくり腰をやっちゃって、まだちょっとしんどいんですよ。
毎回のようにあっちが悪い、こっちが悪いって書いてるような気がしますけど、本当にポンコツなんで、そこはご了承頂ければ、と思います。
で、今回はプラスチックス、P-MODELと来たら、やっぱヒカシューについて書かないといけないよな、なんて思ったんですが。
ただ自分はヒカシュー自体は出てきた頃結構好きでしたけど、実はあまり深くは聴いてなくて、彼ら自身もアンダーグラウンドで活動していた時期が長かったせいもあり、知識は穴だらけなんですよね。
なのでそんなに濃い内容のものは書けないのですが、一応頑張ってはみますので、読んで頂ければ何よりです。
ヒカシューは78年に結成されたバンドです。もともとはリーダーである巻上公一(ヴォーカル、ベース)が主宰する、劇団ユリシーズの公演用音楽を制作した際に、集まったメンバーが意気投合して出来たバンドらしいです。
デビューした時のメンバーは、巻上、海琳正道(ギター)、井上誠(シンセサイザー)、山下康(シンセサイザー)、戸辺哲(サックス)でした。「ヒカシュー」という不思議なバンド名は、武満徹の『ヒカ』という作品から取ったとか。
彼らは当時アンダーグラウンドで胎動していた、東京ロッカーズの面々と対バンしていましたが、当初から演劇的な要素を取り入れていて、シーンの中でも異彩を放っていました。
そして近田春夫にデモテープを送ったところ、その個性を大いに気に入られ、「ぜひプロデュースしたい」という直々の電話を受け、メジャーへの道が開けていきます。
彼らは翌79年に近田プロデュースのもと、東芝EMI傘下のイーストワールド・レコードからシングル『20世紀の終わりに』でデビューを果たします。
するとリズムボックスやシンセサイザーなどを使用していたことから、プラスチックスやP-MODELらとともに「テクノ御三家」の中に入れられ、一躍注目の的となるのです。
当時ヒカシューはリアルタイムで見ていましたが、あまりテクノポップという感じはしなかったものの、巻上の奇妙でインパクトのあるヴォーカルと異様な存在感には惹かれましたね。
ヒカシュー - 二十世紀の終りに
これがデビュー曲です。
「テクノポップ」と銘打たれていましたが、今聴くとそんなにテクノな要素は強くなく、とにかく変な曲だなという印象が強いです。
この変さこそが彼らの味だと僕は思っていたんですが、これを否定的に捉える向きも多くて、この曲が校内放送で流れた時、同じクラスの女子が「何このふざけた曲」と怒っていたこともありましたっけ。
なおこの曲を演奏する際、彼らは64年の東京オリンピックの日本選手団の制服を身に付けていました。そんなところもインパクトありましたね。
これがその制服姿です。3分15秒からヒカシューは演奏してますね。
この映像は80年1月に放映された、NHKの『600こちら情報部』という番組で、テクノポップ特集ということでP-MODEL、ヒカシュー、プラスチックスが一堂に会しています。
他のバンドの演奏もとても面白いので、全部観るのをお薦めします。
あとこの曲は、とても意外な人がカバーしていたりもします。
本木雅弘 - 二十世紀の終りに
動画を探していたときに偶然見つけたんですが、これはさすがにひっくり返りましたね。あのモックンがヒカシュー歌ってるんですから。
アレンジがロック調になっている以外は、原曲に忠実なカバーなんですけど、ヒカシューの曲で女の子たちが盛り上がっているのを見ると、なんか不思議な気分になりますね。
しかしモックンはセンスいいなあ。シブがき隊の中で一人だけクリエイティブな方向で成功したのも、理解できるような気がします。
80年2月には、彼らはデビューアルバム『ヒカシュー』をリリースします。
このアルバムは予算の都合で買わなかったのですが(のちにCDで買った)、FMを巡って必死に全曲聴いた記憶がありますね。
ヒカシュー - モデル
『ヒカシュー』収録曲。シングルにはなっていませんが、何故かPVはありました。
言わずと知れたクラフトワークの名曲のカバーですね。原曲は歌ものテクノポップって感じですが、このカバーはバンドっぽくて違った感触が楽しめます。
ヒカシュー - 白いハイウェイ
80年リリースのシングル。クラリオンのCM曲として、結構テレビで流れていましたっけ。
この曲は彼らに似合わず結構カッコいいと思うんですよね。「パノラマパノラマパノラマ」のところは本来の彼ららしさが出てますが。
とにかく耳に残る曲で、ヒカシューの作品の中では一番分かりやすいんじゃないでしょうか。
彼らは7月には早くも2ndアルバム『夏』をリリースします。
2枚目にしてコンセプト・アルバムという大胆な試みをしており、脱テクノポップの兆しも見られる作品となっています。
ヒカシュー - パイク
『夏』からのシングル。ホラー映画『チェンジリング』のイメージソングでした。
「○○なパイク」と延々繰り返すリフレインのせいか、じわじわ来る不気味な曲に仕上がっています。
この年彼らはあのザ・ベンチャーズと、渋谷公会堂でジョイント・ライブも開いています。
当時かなりビックリした記憶がありますが、これは当時加藤和彦がザ・ベンチャーズのアルバム・プロデュースを手がけ、ヒカシューも近田春夫らとともに参加したのが縁で、ということらしいですね。
このライブはそれぞれが演奏したあと、最後にジョイントで演奏したらしいです。さすがに映像はありませんでしたが、音源はありました。動画サイトすごい。
The Ventures feat.ヒカシュー - パイク
ギターの音は確かにベンチャーズなんですが、シンセ等はヒカシューな感じで、なんとも不思議な出来に仕上がっています。
最後に巻上も歌ってますね。普通にいい声しています。
ヒカシュー - ガラスのダンス
81年リリースのシングル。テレビドラマ『加山雄三のブラック・ジャック』のエンディングでした。
テレビ番組とのタイアップということもあるのか、『白いハイウェイ』と並んで癖のあまりない楽曲に仕上がっています。とは言えよく聴くとヒカシュー以外の何者でもないのですが。
ちなみに『加山雄三のブラック・ジャック』は、オープニングから温泉のショーみたいな女の人たちが踊り狂い、加山雄三があのメイクで登場するという怪作で、今は黒歴史みたいになってるんじゃないでしょうか。
これですもん(笑)
どうでもいいことですが、脚本はジェームス三木、ナレーションは田中邦衛でしたっけ。あと第3話の助監督は、当時横浜放送映画専門学院に在籍していた、あの三池崇史が務めているそうです。
この年の5月には、彼らは3rdアルバム『うわさの人類』をリリースしています。
このアルバムはトッド・ブラウニング監督の映画『フリークス』*1に感銘を受けて作られたもので、完全に脱テクノポップを果たし、演劇的な構成がより強調されています。
なおこの頃からドラムスに元8 1/2、ハルメンズの泉水敏郎が加入し、さらに演奏の幅も広がっています。
ヒカシュー - うわさの人類
3rdアルバムのタイトル曲。これはライブバージョンです。
プログレやフリージャズを思わせる変則的で奇妙な展開と、変に楽しいサビのコーラスの対比が印象的な曲ですね。
この年に戸辺が脱退しますが、バンドは充実した活動を続けていきます。
翌82年には巻上がソロアルバム『民族の祭典』をリリース、その他にもヨーガン・レールのファッションショーの音楽や、映画『俗物図鑑』の音楽を担当(出演もしている)するなど、活躍の場はどんどん広まっていきました。
またこの年にはベーシストとして坂出雅海が加入し、巻上はヴォーカルに専任することになります。
ヒカシュー - 私はバカになりたい
83年リリースのシングル。
とにかく蛭子能収が描いたジャケットがインパクトありますが、音楽としても異様な個性が渦巻いていて、決して蛭子さんの絵に負けてません。
この年には山下も脱退しますが、彼らはコント赤信号や、浪曲師の京山幸枝若 (初代)とも共演し、さらにそのフィールドを広げていきます。
そして翌84年にはメジャーを離脱し、スピノザという自主レーベルを設立しました。このレーベルは2年で閉鎖しますが、自由な活動を求めるうえで必要な事だったのでしょう。
ヒカシュー - 日本の笑顔
84年にリリースしたシングル。これは買った記憶があります。
割とのんびりした曲調ですが、徐々に巻上のヴォーカルのパワーに巻き込まれていく感じがして、個人的にはかなり好きな曲です。
ちなみに間奏の「ダリダリダ」というコーラスは、戸川純が担当しています。
85年には巻上が、『都に雨の降る如く』というコンピレーション・アルバムをプロデュースしています。
このアルバムはローザ・ルクセンブルグ、パパイヤ・パラノイヤ、原マスミ、グレイト・リッチーズ、ピッキー・ピクニックなどが収録されていて、巻上のセンスに唸った記憶がありますね。お薦めアルバムですが、今は入手できるのかな。
この後僕は彼らの活動を追わなくなったのですが、ジョン・ゾーンやデヴィッド・バーン、坂田明、遠藤賢治らとジャンルを超えた競演をしたり、バレエ音楽やアニメ音楽を担当したり、欧州でツアーしたりと、いろいろ頑張っているようです。
メンバーチェンジは頻繁で、元RCサクセションの新井田耕造(ドラムス)、元モダンチョキチョキズの吉森信(キーボード)、ノイズ・ミュージックで有名な大友良英(ギター、ターンテーブル、サンプラー)といったメンバーが出入りしていましたが、初期のメンバーである巻上、三田超人(海琳正道から改名)らは現在も残っています。
ついでですから、以降の活動のうちで知っている曲も載せておきましょう。
ヒカシュー - 人間の顔
88年リリースのアルバム『人間の顔』のタイトルナンバー。このアルバムは小林克也の紅白レーベル(クラウンレコード)からリリースされています。
いきなり「人間の顔は面白い」というストレートな歌詞で始まるところが、なんとも印象的です。
ヒカシュー - 丁重なおもてなし
90年リリースのアルバム『丁重なおもてなし』のタイトルナンバー。このアルバムはVAPからリリースされました。
なんともシニカルな歌詞なんですが、そこを踏まえてあえて「丁重なおもてなしをしよう」と歌っちゃうのが、なんとも巻上らしくて深いですな。
メジャーな活動からは遠ざかって久しいですが、巻上のユニークなヴォーカリゼーションと、様々な要素が共存するユニークな音楽性は、再評価されるべきだと思っています。
最近は実験音楽に近くなっているらしいので敷居は高そうなんですが、僕も時間ができたら過去の作品を聴き直してみたいですね。
*1:32年制作のアメリカ映画。旅回りの見世物小屋で繰り広げられる復讐劇を描いたものだが、本物の奇形者や障害者を大量に使ったため非難轟々で、監督のトッド・ブラウニングは事実上映画生命を断たれた。