ウルトラヴォックス

前回の続きで、ジョン・フォックス脱退後のウルトラヴォックスの顛末を書いておきます。
フォックス在籍時のウルトラヴォックスのほうが好きだと前回書きましたが、その後のウルトラヴォックスも最初の頃は結構好きだったんですよ。この手の80年代テクノポップは、少年の頃の僕の大好物でしたし。


フォックスとギターのロビン・サイモン(マガジンに加入後、フォックスのソロ活動をサポートした)脱退後、残されたメンバーのクリス・クロス(ベース)、ウォーレン・カン(ドラムス)、ビリー・カーリー(キーボード)は、フロントマンとして元リッチ・キッズのミッジ・ユーロを迎え、新しいスタートを切ります。
ユーロは79年に脱退したゲイリー・ムーアの代役を務めるため、シン・リジィの一員として来日したことがあったり、あのヴィサージに参加していた(そもそも彼がウルトラヴォックスに加入したのも、ヴィサージ参加時にカーリーと知り合った縁から)りということでも分かるように、様々な音楽性に順応できるという稀有の才能を持っていました。
そんな新フロントマンに率いられた彼らは、メンズ・ファッション誌から抜け出してきたようなダンディな出で立ちに身を包み、より洗練されて耳当たりがよくポップな方向性に舵を切っていきました。
そして80年にリリースされたアルバム『Vienna』は、当時のテクノポップブームにもうまく乗り、それまでとは比較にならないくらいのセールス的な成功を収めることとなるのです。


Ultravox - Sleepwalk

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『Vienna』からの第一弾シングルで、全英29位まで上昇し、初めてチャートインし成功を収めたヒット曲となりました。
ジョン・フォックス在籍時の音に通じるようなメカニカルな感触を残しつつも、非常にポップでダンサブルな音に仕上げています。
個人的には新生ウルトラヴォックスの曲でこれが一番好きですね。全体的にハイテンポでカッコいいですし、アープ・オデッセイ*1を駆使した空間をねじ曲げるようなエフェクティヴな間奏も好き。


Ultravox - Passing Strangers


これも『Vienna』からのシングル。全英57位。
シャープなギターとシンセの絡みを前面に押し出したアレンジは、初期のウルトラヴォックスを思わせます。
メロディがちょっと演歌がかっている気もしますけど、陰影があってなかなか悪くないですね。


Ultravox - Vienna


『Vienna』のタイトルナンバー。
シンセ中心に構成された荘厳な音世界が印象的な曲で、全英2位の大ヒットを記録しています。
後半テンポが上がり、程よく抑制されたバイオリンのソロにシンセのストリングス音がかぶり、その音すらピアノに飲み込まれると徐々にテンポが下がっていき、主題に回帰していくという、この楽曲の構築美は見事としか言いようがないと思います。
このへんにはプログレッシブ・ロックからの影響も感じさせて非常に興味深いですが。


Ultravox - New Europians

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これも『Vienna』からのナンバー。
サントリー角瓶のCMソングに使われて、オリコンでも36位にまで上がるヒットとなった曲です。当時日本では無名に近かったウルトラヴォックスの知名度は、これでぐんと跳ね上がりました。
とにかくイントロのギターのカッティングが非常に印象的(CMで使われたのもこの部分)で、ミッジ・ユーロがかつてシン・リジィで助っ人ギタリストをやっていたという片鱗を見せてくれます。
後半のリフっぽいギターソロのあとで入る、薄く冷たいシンセストリングスと低い低音の矩形波、そして最後に押し寄せる哀愁のピアノの波状攻撃もなかなか良いです。


Ultravox - The Voice


81年のアルバム『Rage Of Eden』からのシングル。全英16位。
非常にポップで整合性のある音になっていて、前作からのシングルよりもさらに聴きやすくなっています。
ただ個人的にはソフィスティケイテッドされすぎで、毒や陰影が薄まってしまったのがちょっと不満ではありますが。


その後ウルトラヴォックスは、ビートルズのプロデューサーでもあったジョージ・マーティンを迎えてアルバムを製作するなど、よりコマーシャルな方向を強調していくようになります。またユーロはあのバンド・エイドの『Do They Know It's Christmas?』の作曲も担当しました。
しかしあまりに時代に迎合し過ぎ、通俗的になり過ぎたせいか次第に飽きられてしまい、またメンバーの相次ぐ脱退もあって活動は滞るようになり、87年にはついにユーロもソロになるために脱退したため、バンドは解散してしまいます。
これは80年代ポップの共通する問題点でしたね。売れるにはソフィスティケイテッドされる必要がありますが、それは均質化されて個性を失い消費されることにもつながる諸刃の剣でしたから。
そのせいで当時のテクノ、エレ・ポップ系のバンドは、長く続ければ続けるほどつまらなくなるバンドばっかりだった気がします。一発屋もメチャメチャ多かったですし。
それはとにかくとして、ウルトラヴォックスはのちにカーリーのソロ・プロジェクトとして再結成され、活動を続行します。そして09年には全盛期のメンバーが集結してライブツアーが行われ、今年になってからはアルバムもリリースしています。
現在のメンバーの写真も見ましたが、ほんの少し老けてはいるものの、太ってもなく皺だらけになってもおらず、往時とそんなに変わっていなかったのはすごいと思いましたね。

*1:アープ社が1975年に発売したシンセサイザーの名器。当時最大シェアのミニ・ムーグと価格はほぼ同じながら、性能はより高く音色のバリエーションも充実していた。独自のオシレーターシステムから発する「キュイーン」という音はあまりに独特で、現在のシンセにもこの音をサンプリングしたプリセットが入っている機種が多い。