ウルトラヴォックス

久々にパンク、ニューウェーブ時代に戻って、今回はウルトラヴォックスです。
ウルトラヴォックスと言えば、日本では80年代に入ってからエレポップ路線でヒットを連発した頃のことを思い出される方が多いと思いますが、個人的にはそれ以前の、ジョン・フォックスがリーダーだった頃のほうが好きだったのですね。
というわけで、今回は初期のウルトラヴォックスに限定して書くことにしたいと思います。


彼らの始動はかなり早く、前身バンドのタイガー・リリーは73年に英国ロンドンにて結成されています。そこで1枚のシングルを出した後、75年にウルトラヴォックスと改名しました。
ちなみに初期の名前は「Ultravox!」でしたが、これはハンマー・ビートを多用したことで知られるドイツのロック・バンド、ノイ!へのリスペクトなんだそうです。
彼らはパンク・ムーブメントによって注目を集め、77年2月にブライアン・イーノとスティーブ・リリーホワイトの共同プロデュースによる1stアルバム『Ultravox!』でデビューします。
この頃の音の特徴は、グラムロックをルーツとするパンキッシュなロックンロールを基調としつつも、ダダイスティックで実験的なエレクトロニクスを多用し、さらに初期のロキシー・ミュージックを思わせるようなキッチュな欧州っぽいロマンティシズムも導入したものでした。
そのサウンドは斬新かつ奇抜で、来るべきテクノポップ時代のオリジネーターとしての萌芽を感じさせるに十分でしたね。このへんはフォックスの才気でしょう。


Ultravox! - Dangerous Rhythm


Ultravox!』収録曲。彼らのデビューシングルでもあります。
重たいリードベースと氷のように冷たいフォックスのヴォーカル、レゲエを意識したかのようなリズムが印象的なクールなナンバーです。


Ultravox! - My Sex


Ultravox!』収録曲。デビューシングルのカップリングでもあります。
テクノっぽい簡素なサウンドに乗せて、あくまで淡々と語るように歌われる曲です。初期のイーノに通じるところもあるかもしれませんね。
また日本のバンドP-MODELが、この曲のメロディラインをそのまま流用したオマージュ曲『オハヨウ』をリリースしていることは有名です(2ndアルバム『ランドセル』収録)。


Ultravox! - Wide Boys

D


これも『Ultravox!』収録曲。
電子的な処理を施されてひしゃげたヴォーカルと、ニューヨーク・ドールズを思わせるロックンロールがうまく融合しています。


このアルバムは一部プレスには絶賛されましたが、セールス的には失敗に終わりました。日本でもこのアルバム以降は、リアルタイムでリリースされなくなりましたし。
しかしバンドはさらに過激化とエレクトロニクスの導入を進め、結果孤高の道を突き進むこととなります。


Ultravox! - Young Savage


77年5月にリリースされたシングル。彼らにとって非常に重要な曲ですが、オリジナルアルバムには収録されていません。
突っ走るような、早い展開をみせるかなりソリッドな作品です。後のウルトラヴォックスにはない、焦燥感に溢れた攻撃的な部分が若さを感じさせます。
特にライブではフォックスの舌が回らないほどの速さで演奏され、そのノリのよさからか定番曲となっていました。


そして77年の10月、彼らは驚異的なくらいのペースで2ndアルバム『Ha!-Ha!-Ha!』をリリースしました。
彼らをパンクバンドとして認識していた人たちは、ここまではギリギリついてこれたんじゃないかと思います。非常に攻撃性の強い音でしたし。


Ultravox! - Rockwrok


『Ha!-Ha!-Ha!』収録曲。彼らの3rdシングル。
ノイジーでキレのいいギターが目立つ、初期ロキシー・ミュージックをパンキッシュにしたような曲ですね。


Ultravox! - Hiroshima Mon Amour


これも『Ha!-Ha!-Ha!』収録曲。
内省的で、クラフトワークロキシー・ミュージックがジョイントしたような不思議な感覚を味わせてくれる曲です。
その後彼らが進んでいく、エレクトリックな路線の前兆でもあります。


ウルトラヴォックスの評価を決定づけたのは、78年に発表された3rdアルバム『Systems Of Romance』でした。
クラフトワークやカンなどとの仕事で知られたコニー・プランクをプロデューサーとして迎え、ノイ!やハルモニアなどのジャーマン・プログレが始めたエレクトロニクスとの取組みをさらに発展させたサウンドを展開したこのアルバムは、70年代パンクがいかに80年代テクノポップへ移行していったのかを、象徴的に見せてくれる歴史的重要作となりました。
シンセサイザーを中心として構成された音作りや、シンセやリズムマシンと生楽器との絡ませ方などは、後発のグループに多くの影響を与えています。YMO細野晴臣坂本龍一にこのアルバムを聴かされて強い影響を受け、『ソリッド・ステイト・サバイバー』のベース音を録り直したというのは有名な逸話です。
このアルバムも当時国内盤が出なかったので、お小遣いを貯めて初めて輸入盤を買いましたっけ。


Ultravox - Slow Motion


『Systems Of Romance』収録曲。シングルカットもされました。当時ポルタメントを効かせたイントロがとても印象に残りましたっけ。
内向的で陰影に満ちたヨーロッパ的なデカダンが結実した曲ですが、エッジの効いたギターにはパンクっぽい攻撃性が残っています。


Ultravox - Quiet Man


これも『Systems Of Romance』収録曲。彼らのラストシングルでもあります。
リズムマシンにシンセベース、カッティングギター、ヴォーカルでほぼ成り立っているシンプルな音なのに、えらくカッコいい曲ですね。


しかしこのアルバムもあまりにも時代の先を走り過ぎたのか、商業的な成功にも高い評価にも結びつきませんでした。さすがにショックを受けたフォックスは
「もうウルトラヴォックスで僕がやれることは何も残っていない」
という言葉を残し、78年の全米ツアー後に脱退してソロに転向してしまいます。
中心人物の脱退で窮地に立たされたウルトラヴォックスは、元リッチ・キッズのミッジ・ユーロを新しいフロントマンとして迎え、方向性をよりコマーシャルにして成功しますが、それはまた次回に。