コルピクラーニ

今日はあまり体調が良くないので、ちゃっちゃと本題にいくことにしますね。
先週『タモリ倶楽部』を観ていたら、『空耳アワー』でこのバンドが使われたので、懐かしくなって取り上げることにしました。フィンランドの「森の妖精」コルピクラーニです。
コルピクラーニは基本メタルなんですが、バイオリンやアコーディオン、笛などを大胆に取り入れたユニークと言うか民謡みたいな珍妙な音で、日本でも局地的に人気のあるバンドです。
特に代表曲『Wooden Pints』(邦題は『酒場で格闘ドンジャラホイ』)は、PVのあまりのチープさと脱力加減に、ニコニコ動画でも大人気を博しています。
あと日本のレコード会社がつけた、明らかにやり過ぎ感のある独特の邦題も、一部で話題になっていますね。


コルピクラーニはヨンネ・ヤルヴェラ(ヴォーカル、ギター)を中心に結成され、99年にデビューしていたフォーク・メタルバンド、シャーマンが母体になっています。
シャーマンというバンドはラップランドで使われる言語、サーミ語を使い、ヨイク*1という音楽で使われる特殊な発声法を駆使し、伝統的な民族楽器を使うというマニアックな音だったらしいのですが、ブラジルの有名なシンフォニック・メタル・バンドANGRAの中心人物だったアンドレ・マトスが脱退して、同名のバンドを立ち上げたことにより、先行きが変わってきます。
知名度の低い彼らは混同を避けるために改名を余儀なくされ、フィンランド語で「荒野の一族」という意味のコルピクラーニに名称を変更し、03年に再出発することとなります。メンバーはヤルヴェラ、ヒッタヴァイネン(バイオリン、フルート、ヨウヒッコ*2)、ホンカ(ギター)、アルト・ティッサリ(ベース)、サム・ルオツァライネン(ドラムス)、アリ・マーッタ(パーカッション)の6人でした。
バンドはライブを重ね、04年にはアルバム『Spirit of the Forest』(邦題は『翔び出せ! コルピクラーニ』)でデビューを果たします。
このアルバムは日本でも発売されましたが、すぐに廃盤となってしまいました。しかし『Wooden Pints』のPVが、そのあまりのしょうもなさからインターネットで話題を呼び、おかげでメタルファン以外の知名度が急上昇することとなります。


Korpiklaani - Wooden Pints


これがそのPV。
いきなり小屋からうすらハゲのおっさん(ヒッタヴァイネン)が出てきて、やる気なさそうにバイオリンを奏でるオープニングからして、なんだこれって感じでしたが。
その後も『北斗の拳』の牙一族みたいなむさ苦しい人たちが暴れたり、パーカッションが必死に叩いている割には全然音が聞こえなかったり、基本的にチープでしょうもない展開となっております。
僕はこのPVを、テレ東で当時放送していた『ヘビメタさん』という番組で初めて観たのですが、番組のレギュラーだったマーティ・フリードマンが、「一緒にされたくない」と思いっきりバカにしてたのを覚えています。
まあその気持ちも分からなくはないですが、個人的にはこのバカバカしさは貴重だと思いましたねえ。真剣にやってる(と思う)のにこうなっちゃうところに、何とも言えない味を感じました。
それとPVだけが話題になりがちですけど、ダミ声のヴォーカルから放たれる分かりやすいメロディーと、民謡的なフレーバーを大胆に取り入れたサウンドには光るものがあり、単体でもなかなかいけると思いますね。


デビューアルバムのリリース後、ルオツァライネンが脱退してしまいますが、バンドは後任にマットソン(ドラムス)を加入させ、ついでにギタリストのケーンアコーディオンのユーホも迎え入れ、8人編成の大所帯となります。
新しくなったメンバーで彼らは、翌05年に2ndアルバム『Voice of Wilderness』(邦題は『荒野のコルピクラーニ』)をリリースしました。このアルバムは最初から最後まで衰えることのない疾走感と、酔っ払って歌いたくなるような楽しいメロディーが満載で、個人的には彼らの最高傑作だと思います。
このアルバムは日本でも成功を収め、彼らの知名度をさらに高めることとなりました。


Korpiklaani - Hunting Song


『Voice of Wilderness』収録曲。邦題は『「狩り」こそ漢の宿命』。
同じメロディーを執拗に繰り返す単調な曲ではありますが、その異常なテンションの高さで押し切ってしまうところが、なんかバカバカしくて好きですね。
フォークソングのようなイントロから一転、いきなり木の幹の間からヤルヴェラが登場して「アヤーヤヤーヤ」と歌い出すPVも、絶妙なしょうもなさ加減があって良いです。


Korpiklaani - Beer, Beer


これも『Voice of Wilderness』収録曲。邦題は『吐くまで飲もうぜ』。シャーマン時代の曲のリメイクです。
血湧き肉踊る精力感溢れる荒々しいサウンドに、北欧の田舎を連想させるバイオリンとインパクトのあるパーカッションが絡んで、何ともいい味を出しています。
ヤルヴェラのヴォーカルがダミ声なせいで、妙にヨーロッパの酒場みたいな雰囲気が出ているのもいいですね。


その後ホンカ、ティッサリ、マーッタがまとめて脱退してしまいますが、ヤルッコ・アールトン(ベース)を補充し、コルピクラーニは6人編成となりました。
そして06年には3rdアルバム『Tales Along This Road』(邦題は『世にもコルピな物語』。この邦題は一般公募で選ばれている)をリリースしました。メンバーチェンジもものともせず、快調にアルバムを出し続けるのは、彼ららしいたくましさを感じます。


Korpiklaani - Happy Little Boozer


『Tales Along This Road』収録曲。邦題は『痛快!飲んだくれオヤジ』。
アコーディオンの奏でる湿り気たっぷりのイントロから、一転して怒涛の爆走モードに突入し、強烈なフックのあるサビを迎える展開は、あまりに単純で逆に中毒性がすごいです。
サビの「Happy little, happy little, happy little boozer」が、「はみ出ろはみ出ろはみ出ろ坊さん」に聞こえて、空耳アワーで取り上げられたこともありましたっけ。


Korpiklaani - Tervaskanto


07年の4thアルバム『Tervaskanto』(邦題は『コルピと古の黒き賢者』。これも一般公募から選ばれた)のタイトルナンバー。
クサいメロディーを撒き散らしながら爆走しつつも、ヒッタヴァイネンの吹く笛の音が哀愁味溢れていて、一筋縄ではいかない曲ですね。
サビが「ほれ、パイ毛た〜つ〜、パイ毛大量〜」と聞こえるということ(フィンランド語で歌っているので正確な歌詞は不明)で、この曲も空耳アワーで取り上げられた記憶があります。
男臭くて間抜けなこれまでから一転し、CGを使ったPVになっている(途中で火を使った曲芸もやってるけど)ところも、特筆すべきことかもしれません。


Korpiklaani - Vodka


09年リリースの6thアルバム『Karkelo』(邦題は『コルピの酒盛り』)収録曲。邦題は『ウォッカで乾杯!!』。
PVを見ると普通にカッコよくなっているので驚きますが、曲はいつものコルピクラーニ節で、特にアコーディオンのメロディは素敵ですね。


その後11年には健康上の理由で、バイオリンのヒッタヴァイネンが脱退、今年に入ってからもアコーディオンのユーホが抜けるなど、相変わらず人の出入りは激しいんですが、バンドはほとんど休むことなく活動を続けています。
最近はさすがにマンネリ感も出てきていますが、ネガティブさを一切感じさせない宴会のノリのような音は、この御時勢では逆に貴重かなと思うので、変に路線変更とかすることなく、そのスタイルを貫き通してほしいですね。

*1:フィンランド先住民族サーミ人の間で伝わる歌謡。サーミ人のシャーマンは幻覚作用のあるベニテングダケを服用して、そこから誘発されるトランス状態の中、精霊との交信を行うのだが、その状態をより深めるために歌われていたのがヨイクである。フィンランドが他のスカンジナビア人に統治される中衰退していたが、民族意識の高まりとともに復興。現在はドラムンベースアンビエント・テクノの手法を取り入れるなど、単なる民族音楽の範疇を超える活動が行われている。

*2:フィンランドの弦楽器。ネックのない弓奏楽器で、かすれたような音を出す。フィンランド叙事詩『カレワラ』の伴奏などに使われる。