ニック・ギルダー

どうもです。最近すっかり涼しくなりましたけど、皆様いかがお過ごしでしょうか。
僕は自分が中高生の頃に聴いていた、今では忘れられかけたポップスを改めて聴くことにはまっていて、毎日記憶の中からいろんな曲名をひねり出してきて、YouTubeで聴き直している毎日です。
公称している自分のバックグラウンドは「10歳の頃からディープ・パープルなどのハード・ロックを聴き始め、その後パンクやニューウェーブの洗礼を受けて現在に至る」となっていて、それは嘘でも間違いでもないのですが、やはり中高生の頃って感性が柔軟ですから、実際はラジオでかかっていた洋楽を、ジャンル問わずに何でも聴いていたんですよね。
大人になると暇がなくなったことと感性の老化もあって、いろいろ理屈をつけて食わず嫌いをするようになったんですけど、そうなる前のほうが楽しかったのかもしれませんね。いろいろ無知でしたけど、その分何でもいいところを見つけて受け入れてましたから。
今回はそんな時期に初めて聴いて、今でも結構気に入っている曲を取り上げてみます。


とりあえずこれを聴いてみて下さい。ニック・ギルダーの『Hot Child in the City』(邦題は『ホット・チャイルド』)です。


Nick Gilder - Hot Child in the City


78年にリリースされ、ビルボードで1位を獲得した大ヒット曲です。
1位になったのは1週だけなんですが、チャートに初登場してからそこに到達するまで20週もかかっており、これは当時の記録だったはずです。じわじわと火がついて結果的にヒットした典型ですね。
この曲はアメリカでは珍しいグラムロック調のけだるい雰囲気が素晴らしい、ミドルテンポのポップ・ナンバーなんですが、それよりも何よりも特徴的なのはギルダーの声でしょう。
中性的で男なのか女なのかよく分かりません。つーか僕は最初女性だと思ってたくらいです。女性なのに「ニック」って名前はおかしいだろ、ってすぐに気づいたんですが、それでも写真を見るまでは男という確信が持てなかったですから。
ルックスもトム・ペティをイケメン風味にした感じで線が細く、その独特の声も相まって好き嫌いは分かれると思うんですけど、個人的には結構好きでしたっけ。
それと今聴くとサウンドには、ちょいニューウェーブに目配せしたようなところもあって、そんなところも憎めないなと思ってます。


さて、この曲を歌っているニック・ギルダーですが、本名をニコラス・ジョージ・ギルダーといい、1951年に英国ロンドンで生まれ、幼少期にカナダのバンクーバーに移住しそこで育っています。
彼は学生時代からスローム・ホーティスというバンドに加入して歌い始め、ローカルではかなり知られた存在であったようです。まああの声ですから目立つでしょうしね。
そんな彼の特異なヴォーカルに目をつけたギタリストのジミー・マカロック(ポール・マッカートニー&ウイングスのギタリストとは同姓同名の別人)に誘われ、71年にスウィーニー・トッドというバンドを結成し、カナダで人気を博しました。
このバンドは英国で流行っていたグラムロックにもろに影響を受けた音楽性だったようで、派手でけばけばしい化粧をし、フラッシュライトやスモークを多用したけれん味たっぷりのステージングをしていたそうです。
とりあえずスウィーニー・トッド時代の代表曲を一つ紹介してみましょう。


Sweeney Todd - Roxy Roller


この曲は75年にシングルカットされ、カナダで1位を獲得した他、ビルボードでも90位を記録しています。
またスージー・クアトロ(懐かしい名前)が77年にカバーし、自ら出演する日本のCM(確かお酒のCMだった記憶が)でも披露していますので、オールドファンなら聞いたことはあるかもしれません。
やっぱりこれも声がすごく印象に残りますね。いかにもグラムロックっぽい妖しい感じがして、B級の音が好きな人ならたまらないんじゃないかと思います。
僕はこれを聴いてすぐにT.レックスを思い出しました。思いっきりマーク・ボランしてますもんね。


しかしカナダのローカルスターであることに飽き足らなかったのか、ギルダーとマカロックは77年にスウィーニー・トッドを脱退し、米国ロサンゼルスに移住します。
ちなみにスウィーニー・トッドギルダーの後釜に迎えたヴォーカリストが、当時15歳だったブライアン・アダムスだったというエピソードもあるのですが、それはまた別の話。
ロサンゼルスに移ったギルダーとマカロックは、さっそくクリサリス・レコードと契約して、ソロデビューアルバム『You Know Who You Are』をリリースしました。
これは残念ながら不発だったんですが、ここで重大な転機が訪れます。彼らは有名なプロデューサーのマイク・チャップマンと出会うのです。
チャップマンと言えば先に述べたスージー・クアトロを始め、スウィートやブロンディ、ザ・ナック、パット・ベネターらを成功に導いた有能な人物です。やり方が強権的なので、毀誉褒貶も多い人ですが。
それはとにかくとして、彼の全面プロデュースによって制作された2ndアルバム『City Nights』(邦題は『未来派紳士』)と、そこからカットされたシングル『Hot Child in the City』は、ちょっと時間はかかりましたけど結局大ヒットしたのです。


この後ギルダーは『Here Comes the Night』『(You Really) Rock Me』という2枚のシングルを、ビルボードにチャートインさせます。
しかし前者は44位、後者は57位に終わり、残念ながら『Hot Child in the City』クラスの成功を収めることはできませんでした。
アメリカではシングル1曲だけがビルボードのトップ40に入ったミュージシャンを、ワンヒット・ワンダーと呼んで一発屋的な扱いをするのですが、ギルダーも見事にその仲間入りをしてしまったわけです。
まあワンヒット・ワンダーの中にはジミ・ヘンドリックスジャニス・ジョプリンショッキング・ブルー、フリー、T.レックス、デレク&ザ・ドミノス、ルー・リード、フォーカス、ドクター・ジョンマイク・オールドフィールドシン・リジィランディ・ニューマンパティ・スミスニック・ロウゲイリー・ニューマンディーヴォロジャー・ダルトリーザ・フーのヴォーカル)、リー・リトナーヴァンゲリス、ソフト・セル、デキシーズミッドナイト・ランナーズ、トーマス・ドルビーなど、ロックやポップミュージックの歴史に燦然と輝く大物たちがごろごろしているので、そんなに恥じることではないのですが。


Nick Gilder - (You Really) Rock Me


一応この曲も紹介しておきます。
軽快なノリを持つポップ・ロックですが、『Hot Child in the City』のようなインパクトには欠けるかな。


この結果を受けてか80年代に入ると、ギルダーはソロ活動をしつつソングライターとして、いろんな人に作品を提供するようになりました。
提供相手はスージー・クアトロやパット・ベネター、ベット・ミドラーなど女性が多いようですが、ジョー・コッカーなんて渋い人にも曲を書いています。
またパティ・スマイス(あのリチャード・ヘルと同棲して子供を生み、今は元テニスプレイヤーのジョン・マッケンローの奥さん)を擁するスキャンダルに提供した『Warrior』は、84年にビルボードで7位まで上昇する大ヒットとなり、BMIエアプレイ賞の栄誉ももたらすことになりました。
これでまた自信をつけたのか、ギルダーは90年代半ばにバンクーバーに帰り、再度スウィーニー・トッドを率いて現在もツアー活動をしているようです。
とりあえず現在の動画も見てみたんですが、胴回りこそ太くなっているものの、ブロンドのロングヘアーやはだけたシャツは当時を思わせるものがあって、なかなか元気なようです。
もう一花咲かせるのはさすがに難しいでしょうけど、声だけでもお金が取れる人ではあるので、楽しんで音楽活動をしてくれればいいと思いますね。