ホルガー・シューカイ

ちょっと今日は時間がなくて、簡単な更新になってしまいますがご了承下さい。
今回取り上げるのは、前々回のコメレスでちょっと名前を出したホルガー・シューカイです。出したついでに改めて聴いてみたら、素晴らしさを再確認しましたので。


シューカイはあの現代音楽の巨匠カールハインツ・シュトックハウゼンに師事していた経歴を持つ人物で、60年代後半にロックバンド、カンを結成し、ベースや作曲で活躍しました。
ちなみにカンについて簡単に説明しますと、もちろん『愛は勝つ』の人ではなくて、ロック、フリー・ジャズ、現代音楽、電子音楽民族音楽プログレなど様々な要素をごった煮にしたような、クラウト・ロック*1というジャンルの代表格として知られるドイツのバンドです。一時期日本人ヴォーカリストダモ鈴木が在籍していたことでも知られています。
そのカンが79年に解散後、シューカイはソロ活動を開始し、アルバム『Movies』を80年にリリースするんですが、これがもうすごかった。当時衝撃を受けました。


Holger Czukay - Persian Love


『Movies』に収録されている彼の代表曲。PVはないようなので、これで音だけでも聴いてみて下さい。
日本ではスネークマン・ショーのアルバム『死ぬのは嫌だ、恐い。戦争反対!』に収録されて話題となり、その後サントリー角瓶のCMに使われてそれなりのヒットになりました。ちなみにCMはこちら。



この曲を聴いてまず耳につくのは、クリアな主旋律に絡む、ノイズ混じりのラジオから聞こえてくるコーランの響きでしょうか。
これはシューカイが短波ラジオをいじっていて偶然コーランを流している放送をキャッチし、それをテープに録音して楽曲の中に取り入れたものです。いわばサンプリングの元祖のような手法ですね。
当時はサンプラーがなかったので、往年のブライアン・イーノのようにテープを切ったり貼ったり、オープンリールを使ってループさせたりと、手作業でテープコラージュを行っています。そのためよく聴くと微妙に音がずれているところもあるんですが、そのせいで逆にデジタルにはないぬくもりや人間味が感じられるような気がするのが面白いところです。
こう書くとなんだか実験的で小難しい音を想像されてしまうかもしれませんが、実際に聴いてみると決してそんなことはなく、美しいギターと浮遊感のあるサウンドが気持ちいい、ポップな仕上がりとなっているのが分かると思います。
様々に変化するリズムと声をコラージュしためくるめく展開、そして過激な手法をポップスとして成立させてしまうクールな構成力が見事です。ぜひ御一聴を。
シューカイって見た目はなんだかおじいちゃんみたいな人なんですが、そんな人がこんな音楽を作ってしまうなんて本当にすごいなと思いますね。


Holger Czukay - Cool in the Pool


これも『Movies』収録曲。PVがあったので驚きました。
とぼけた味のある脱力系ファンクなんですが、曲中に使われているテープ・コラージュは手が込んでいて、後のアート・オブ・ノイズを思わせる出来となっています。


その後シューカイはカンの再結成に参加するほか、U2のエッジや元PILのジャー・ウォブル、元ジャパンのデヴィッド・シルヴィアンマーズ・ヴォルタらとコラボレーション・アルバムを出すなど活躍しました。POLYSICSのリミックスもやってましたね。
もう70歳を超える高齢なんですが、時々はクラブイベントなんかに顔を出しているらしいです。とりあえずお元気そうで何より。

*1:60年代末から70年代初めにかけて西ドイツに登場した実験的な音楽性を持つバンド群、およびその音楽をさす言葉。カン、タンジェリン・ドリーム、アモン・デュール、アシュ・ラ・テンペルファウストなど多くの先鋭的なバンドを生み出した。初期のクラフトワークもこれに含むことがある。