ハノイ・ロックス

僕には3つ年下の従妹がいます。若い頃はちょっとヤンキーっぽい感じの子で、僕みたいなオタク系は下に見られてたんですが、彼女は実はロックが好きだったため、僕がそっち方面に詳しいのが分かると、急に親しくなりました。
年の功と情報収集にかける情熱の違いもあって、基本的に僕が彼女に教える立場だったんですけど、唯一彼女に教えてもらったバンドがあります。それが今回取り上げるハノイ・ロックスです。
彼女が気に入って聴いていた『Tragedy』を耳にして、なかなかいいじゃんと思ったのを覚えています。その後池袋のWAVEだったかで、彼らがラモーンズの『Blitzkrieg Bop』を演奏しているビデオが流れているのを観て、これはマジでいいかもしれないと思ってアルバムを買ったんでした。


ハノイ・ロックスは80年にフィンランドヘルシンキで、ヴォーカルのマイケル・モンロー、ギターのアンディ・マッコイを中心に結成されたバンドです。
基本はメロディアスなロックンロール・バンドでしたが、ド派手なルックスは往年のグラム・ロックっぽかったですね。それとパンク以降のバンドらしくタイトな音作りでありながら何故かルーズに聞こえるという、矛盾した部分を持っているのが個人的に気に入っていましたっけ。
彼らは北欧と日本くらいでしか商業的には成功しなかったんですけど、のちにガンズ・アンド・ローゼズスキッド・ロウのように、彼らからの影響を公言するバンドが多く現れたり、マニック・ストリート・プリーチャーズフー・ファイターズのように彼らのファンだったことを認めるバンドも出てくるなど、解散後に高く評価されたバンドでもありました。


Hanoi Rocks - Tragedy


これが従妹が聴いていたシングルで、邦題は『白夜のトラジディ』。
81年リリースの1stアルバム『Bangkok Shocks, Saigon Shakes』(邦題は『白夜のバイオレンス』)からの先行シングルです。フィンランドだから白夜という、安直な邦題のつけ方には眩暈がしますが、曲のほうは文句なし。
マイケルのセクシーなヴォーカル、カッコいいリフ、哀愁漂うキャッチーなサビ、琴線に触れまくるメロディアスなギターソロ、なかなかいい感じのコーラスワークなど、聴き所のたくさんある名曲ですね。
まあはっきり言っちゃうと演奏は下手くそですし、歌詞もかなりしょうもない(アンディが15、6歳の頃に書いた曲らしいのでしょうがないですけど)んですけど、そんなことがまったく気にならないくらいです。


Hanoi Rocks - Motorvatin'


82年の2ndアルバム『Oriental Beat』からのシングル。邦題は『炎のドライビン』(ダサい)。
リズムがユニークでメロディーもキャッチー。サミ・ヤッファのベースもなかなかカッコいいです。
途中ちょこっとだけ入るマイケルのブルースハープも、なかなか味があって個人的には好きですね。


Hanoi Rocks - Malibu Beach Nightmare


83年の4thアルバム『Back To Mystery City』からの先行シングル。邦題は『マリブ・ビーチの誘惑』。映像は同年英国ロンドンのマーキーでのライブです。
単純で軽快かつ、ポップでキャッチーなロックンロールです。彼らの曲の中での最も勢いのある曲なんですが、サビのコーラスでそこはかとなく哀愁を漂わせるあたりは彼ららしいです。間奏のマイケルのサックスもいいですね。
「冬が終わったら仕事をさっさと片づけて、マリブ・ビーチへホリデーに行って、お姉ちゃんをひっかけよう」という頭の悪そうな歌詞も、いかにも若さ溢れるやんちゃな感じで許せてしまいます。
なおこの曲にはカリプソ・ヴァージョンなるものもあって、どう考えてもシャレで録音したとしか思えない内容ではあるものの、彼らの遊び心が感じられて興味深いものがあります。


Hanoi rocks - Don't You Ever Leave Me


84年の5thアルバム『Two Steps From The Move』からのシングル。
とても切ないバラードです。こういうのを演奏されると、ああ北欧のバンドなんだなと実感しますね。
ちなみにこの曲は1stアルバム収録の『Don't Never Leave Me』のリメイクです。元の曲も完成度こそ劣るものの、哀愁味はこれ以上でお薦めです。


Hanoi Rocks - Up Around The Bend


同じく『Two Steps From The Move』からのシングル。全英61位を記録し、唯一の英国でのチャートインを果たしています。
この曲はサザン・ロックの古典ですね。アメリカの有名なバンド、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(略称のCCRで有名)の、全米4位になったヒット曲のカバーです。
北欧出身で若くエネルギッシュなハノイ・ロックスと、泥臭いアメリカ南部っぽさが売りのCCRという食い合わせは、一見まるで相容れないように思われるんですが、案外ジャスト・フィットしているのが不思議です。
この頃になると演奏からは初期の雑さは消え去っているんですが、若々しいエネルギーや自由奔放さはそのまま残っているのが良いですね。そのへんやはり大器だったなと思わせてくれます。


順調にキャリアを積んだハノイ・ロックスは、『Two Steps From The Move』ではメジャーレーベルのCBSと契約し、全米進出も控えていました。
しかし好事魔多し。84年の12月にドラムスのラズルが、モトリー・クルーのヴィンス・ニールが無謀運転により起こした交通事故で死亡してしまいます。
バンドは元ザ・クラッシュのテリー・チャイムズを後任に迎えてなんとか活動を続けようとしますが、結局うまくいかずに翌年にはハノイ・ロックスは解散してしまいました。
今世紀に入ってからマイケルのインタビューを読んだことがありますが、彼は未だにヴィンス・ニールに対しては根に持っていましたね。まあ当然ですけど。


その後メンバーはそれぞれの道を進みますが、それほどうまくいっている印象はなかったですね。
マイケルの組んだエルサレム・スリムというバンドは、ギターにビリー・アイドルとの活動で有名なスティーブ・スティーブンスを迎え、なかなかいい音を出していたんですが、スティーブンスをソロ活動を始めていたヴィンス・ニール(悪い意味で縁があるな)のバンドに取られてしまい、アルバムリリース時には解散していた、なんていうこともありましたし。
こういった紆余曲折を経て、マイケルとアンディによってハノイ・ロックスが再結成されたのは01年でした。当時結構話題になったのを覚えています。


Hanoi Rocks - People Like Me


02年にリリースされた再結成第一弾アルバム『Twelve Shots On The Rocks』からのシングル。
かつてのグラム・ロック色のあるパンクではなく、ややハードロックに傾いた音になっていますが、疾走感やキャッチーなメロディー、カッコいいギターはそのままで、昔からのファンも満足させる出来になっています。
この人たちは根っからのロックンローラーなんだなあ、ということを再確認させられる一曲です。


再結成ハノイ・ロックスは3枚のアルバムをリリースし、何度か来日もしていますが、08年に二度目の解散をしました。
現在マイケルは自分の名前を冠したバンドを結成し、ソロ活動をしています。アンディの現在の活動はよく分かりません(てか調べるのが面倒くさかった)が、地元に銅像が建ったりして、相変らず根強い人気があるようです。
ちなみに元のメンバーのうちギターのナスティ・スーサイドは、音楽から足を洗って薬剤師になっています。ヤク中だった彼がそういう職に就いたということ自体が、相当なギャグのような気もしますけど。
ベースのサミ・ヤッファはアメリカに渡っていろんなバンドで活動しています。一時期ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツに加入し、来日までしたのにはさすがにビックリしました。まあとりあえずみんな元気そうで何よりではあります。