ストラングラーズ

今回は初期ロンドンパンクの大物、ストラングラーズです。
実は僕は昔、彼らのコピーバンドというものに在籍していたこともありまして、個人的には大変思い入れの深いバンドです。今回のためにわざわざニコ動に動画をアップしたくらいですからw
というわけでこちらも少し気合を入れてますし、活動歴もそれなりに長いバンドなので、4回くらいに分けて取り上げることになると思いますが、お付き合い頂ければありがたいです。


彼らの結成は74年と古く、本来のパンクムーブメントとは別個に登場してきたバンドでした。バンド名は当時アメリカを震撼させ、世界中の話題をさらっていた連続殺人者、アルバート・デサルヴォ*1のニックネーム、「Boston Strangler(ボストンの絞殺魔)」から取られているそうです。
メンバーのパーソナリティもおよそパンクのイメージとは程遠く、ヴォーカルとギターのヒュー・コーンウェルは英国の地主階級の出身で、ブリストル大学*2で生化学の学士号を取得しスウェーデンのルンド大学*3で研究に勤しんでいたインテリでしたし、ベースのジャン・ジャック・バーネルは極真空手の有段者のフランス人で、三島由紀夫を愛読する親日*4。キーボードのデイブ・グリーンフィールドは音大でクラシックを学んだ経験を持ち、ドラムのジェット・ブラックに至ってはビートルズローリング・ストーンズのメンバーとほぼ同世代(彼より年上なのは、ストーンズビル・ワイマンだけ)で、当時酒類販売会社やアイスクリーム製造会社を大規模に営んでいた実業家(初期のストラングラーズは、ジェットの会社のアイスクリーム販売用のバンを改造し、移動車として使い英国中を回っていた)だったという、他のパンクバンドとはまったく違った佇まいの一癖も二癖もあるメンバー揃いでした。
そのせいか単なる衝動的なバンクスとは違った、高い精神性やメッセージ性、コンセプチュアルな曲作りが最初から見られ、それがバンクス以外の多くのファンの心をも捉える要因となっていました。
と言うか彼らの場合、自らをもってパンクと称していたことは一度もないですし、それどころかパンク・ムーブメントの中では他のバンドと明らかに距離を保っている面もありました。しかしそういう彼らの態度や姿勢が、かえってそこらへんの二流三流のパンクスよりも遥かに強烈に「パンク」を感じさせるものだったという、ちょっとややこしいことになっていたんですけど。
またステージ上、オフを問わずに飛び出す彼らの過激な言動や、後述する暴力沙汰などの話題にも事欠かなかったことが、さらにそれを助長することになっていました。


実はパンクムーブメントの中で、最も早く商業的に成功したのはこのストラングラーズでした。英国はもちろんのこと、日本でもセックス・ピストルズザ・クラッシュ以上の人気がありまして、アルバムはオリコントップ10の常連でしたし、後楽園球場(グラウンドに張ったテント内でしたが)でライブを行ったこともあるほどです。
ただ精神的な攻撃性が非常に強かったせいもあって、人気上昇とともにアンチも増えていき、右翼団体に付け狙われて小競り合いを繰り返したり、ザ・クラッシュとの乱闘騒ぎを起こしたりとトラブルも増えていきました。
驚いたことに大御所ローリング・ストーンズの楽屋を襲撃したことすらあり、その何をしでかすか分からない暴力性は周囲に恐れられていました。日本でも初来日のときにジャン・ジャックが観客に暴行を振るったことがあります。
しかしインタビューなどを読むと、実は彼らは大変なインテリ集団であることがよくわかるんですよね。彼らの場合表の顔である暴力性や狂気と、隠し持っている知性とのギャップこそが、その魅力のひとつ(特に初期においては)であるとも言えるのかもしれません。


とりあえず彼らは77年、『Rattus Norvegicus』(邦題は『夜獣の館』)でデビューします。このアルバムは全英で4位を記録し、大ヒットしました。
この当時のサウンドの特徴は、時にドアーズを髣髴とさせるメロディアスで滑らかなオルガンの音色と、当時としては異色だったリードベースとも呼べる非常に腰の強いベースライン、そしてビンビンに伝わってくる張り詰めたような暴力的な空気でしょうか。
それといわゆるパンクと違ってサイケデリックな音使いをすることが多かったように思います。


The Stranglers - (Get a) Grip (On Yourself)


彼らのデビューシングル。77年に全英44位を記録し、89年にはリミックスがリリースされて33位を記録しています。無論1stアルバム『Rattus Norvegicus』にも収録されています。
この曲を最初聞いた時は衝撃でしたね。腰の強いベースに乗せて、「自分を律しろ」と苛立ったように吐き捨てるトーキング・スタイルのヴォーカルが炸裂し、しかもそれとは全然関係ない感じでキーボードがうねうね鳴っているのが妙にツボに入りました。


The Stranglers - Peaches


『Rattus Norvegicus』収録曲。彼らの2ndシングルで、全英8位を記録しています。
この曲は女性蔑視っぽい歌詞(初期の彼らにはそういう歌詞が多かった)に問題ありとして、BBCでは放送禁止になっているんですが、何年か前に日本でAdidasのCMに使われてびっくりした記憶がありますね。歌詞がわからないというのは強い。ちなみにこの映像では多少歌詞を変えて歌ってます。
リズムは今聴くとちょっとレゲエっぽいようにも思えますが、気のせいかもしれません。


The Stranglers - Go Buddy Go


『Peaches』と両A面でシングルリリースされた曲。
曲自体は案外オーソドックスなロックンロールですが、歌詞はやっぱり猥雑です。のちにサイコビリーメテオスもカバーしていましたっけ。


The Stranglers - Hanging Around


これも『Rattus Norvegicus』収録曲。静かなる暴力性を感じさせてくれる曲ですね。


続いて同年、彼らは2ndアルバム『No More Heroes』をリリースします。このアルバムは全英で2位のヒットになっています。
サウンド的には『Rattus Norvegicus』の延長線上と言えるかもしれませんが、よりパンク的な要素は取り入れているように感じましたね。


The Stranglers - Something Better Change


No More Heroes』からのシングル。全英9位を記録しています。
この曲については逸話があります。初来日した際彼らは熱狂的に迎えられたのですが、ライブで何を思ったのかこの曲を2回連続で演奏したのです。
しかし客は怒る様子もなく嬉しそうにノッているため、彼らは3回目を演奏し始め、それでも客が怒らないのを見てついにキレて演奏を中断してしまいました。
このときジャン・ジャックが言ったという
「Don't smile so much.It can make you blind」(そんなにニコニコしてるんじゃねえよ。盲目になっちまうぜ)
なる言葉は、今でもオールド・ファンの間では語り草になっています。


The Stranglers - Straighten Out


『Something Better Change』と両A面でシングルリリースされた曲。
この曲は個人的にとても好きですね。イントロのベースといい、途中でぐねぐねと弾かれるオルガンといい、もう最高だなと思うのですが。


The Stranglers - No More Heroes


No More Heroes』のタイトルナンバー。シングルカットもされ、全英8位となっています。
ショットガンのようにベースが炸裂するイントロを聴いただけで、「これは」と当時思いましたね。それくらいインパクトの強い曲でした。
今もパンクムーブメントを代表する曲として、その類のオムニバス盤には必ず収録されているナンバーですね。


この後ストラングラーズはさらに音楽的に過激になっていくのですが、それは次回に書くことにします。

*1:アメリカのシリアルキラー。62年から64年の間に13人の女性を絞殺し、300人以上の女性を強姦した。終身刑を宣告されて刑務所に送られるが、73年に刑務所内で他の囚人に刺殺される。犯人は未だに判っていない。

*2:イギリスの公立大学。1876年創立。卒業生・在籍者・教職員から13人のノーベル賞受賞者を輩出する伝統ある名門校であり、またさらにイギリス大手企業がもっとも求める人材を輩出する大学トップ3に選ばれているなど国際的に影響力の高い大学。

*3:1666年創立とスウェーデンでは二番目に古い大学。スウェーデン屈指の名門大学として知られ、学術研究分野において質・量ともに優れた大学と国際的に評価されている。

*4:日本のバンドであるリザードのプロデュースをしたり、あのARBの助っ人メンバーになったり、日本のアニメ『巌窟王』の音楽を担当したり、士道館空手のロンドン支部長を務めたりと、非常に日本との縁も深い。