ソフト・セル

昨日の続きになります。
マーク・ボランの愛人で、死亡事故の際に車を運転していたグロリア・ジョーンズは、ソウル・ミュージックの歌手でした。
そんな彼女が64年にリリースした曲に『Tainted Love』というのがありました。この曲は全然売れなかったんですが、のちにこれをカバーして大ヒットさせたユニットがあったんですね。それがソフト・セルです。


ソフト・セルはヴォーカルのマーク・アーモンドと、バッキング担当のデイブ・ポールの二人組ユニットです。
サウンドは基本的には当時流行ったテクノポップの範疇なのですが、同時代の誰もが持ち得なかった大きな特徴を持っていました。
それは盛り場の路地の薄暗がりがよく似合う、猥雑で妖しくセックスの匂いがする存在感です。この人間臭い濃厚さが彼らを、妙に無機質な感じだった当時のシーンの中で際立たせることとなります。
社会生活における葛藤、ドラッグ、同性愛などを題材にした退廃的な歌詞と、チープだけどキャバレー的な虚飾に満ちた煌びやかなサウンド、そしてそれに絡む倦怠感溢れるヴォーカルは、他のエレ・ポップと比べても群を抜いて個性的でした。


Soft Cell - Tainted Love


81年にリリースされたデビュー・アルバム『Non-Stop Erotic Cabaret』からのヒット曲。
全英で1位を獲得したほか、ビルボードでも最高8位まで上昇し、43週間チャートインするという当時の記録も作っています。ただしこの曲以外はビルボードのトップ40に入ったことがないので、見事にワン・ヒット・ワンダーとされていますけど(英国では他にいくつかヒットを出している)。
サウンドは薄っぺらい電子音(このPVはアルバムヴァージョンよりさらに薄い音になっている)なんですが、どちらかと言うとヘタウマな部類に入るであろうマークのヴォーカルが乗ると、途端にソウル的な肉体性が表出するところが面白いと思います。
ちなみに「Tainted」は「腐った」とか「汚染された」という意味ですが、日本では『汚れなき愛』というまったく正反対の意味の邦題がつけられていました。


ソフト・セルは3枚のアルバムをリリースして、84年に解散します。マークはソロで活発に活動し、主にアンダーグラウンド界で「暗黒王子」と呼ばれて評価されていました。
なお彼らは01年に再結成し、トランス色の強いアルバムを発売しましたが、現在は主だった活動は行っていないようです。