bloodthirsty butchers

前回「今週も誰か好きなミュージシャンが死んだらどうしようと戦々恐々としていたのですが、幸い誰も亡くならなかったようで何よりでした」と書いたのですが、発表されていなかっただけで亡くなっていました。


bloodthirsty butchers吉村秀樹が逝去 - 音楽ナタリー


bloodthirsty butchers(以下ブッチャーズ)のヴォーカル、ギターの吉村秀樹氏が、先月27日に急性心不全で亡くなっていました。享年46。
一般には30日に発表されたので、前回のエントリを書いている時は亡くなっていることを知るよしもありませんでした。一日発表が早かったら、三週連続追悼記事になっているところでしたね。
ブッチャーズは80年代末か90年代初頭くらいだったかに何度かライブを観たことがあって、結構気に入っていたんですよ。その時はトリオ編成で、マーチのようなリズムを多用した、変則的なハードコアみたいな音でした。
その後彼らは音楽性をよりエモーショナルな轟音系に変化させていったんですが、個人的にはさらにしっくり来るようになって、アルバムは結構聴いてましたね。
確かに轟音なんですけど、哀感のようなものが奥底に感じられるところが好きでした。


ブッチャーズは87年に北海道留萌市で結成されたバンドです。初期にには現在怒髪天のメンバーである上原子友康氏も在籍していたとか。
彼らは札幌を中心に活動する他、たびたび上京してライブを行っていました。僕がライブを観たのも、この頃だったようです。
そして91年末にフガジと共演したのを機に、活動の拠点を東京に移し、精力的に活動を開始します。
93年と94年にはアメリカツアーも敢行し、高い評価を得たようです。ベックやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが彼らのことを気に入り、共演に指名したくらいですから相当なものでしょう。他にもロケット・フロム・ザ・クリプト、ダイナソーJrのJ.マスシスなどとも共演を果たしています。
また商業的な成功とは無縁でしたが、日本での影響力も強く、多くの同業者から尊敬を集めていました。ミュージシャンズ・ミュージシャンといったところでしょうか。


いくつか代表曲を紹介して、追悼の代わりにしましょうか。


bloodthirsty butchers - 7月


96年のアルバム『kocorono』に収録された、彼らの代表曲です。
ノイジーでありながら心揺さぶられる演奏で、聴いていて感情の高ぶりを抑え切れません。
「溢れるくらいたくさんの星の下、溢れる涙を必死に抑えている。星も泣いてる。僕も涙止まらない。ゆすらないでくれ。触らないでくれ」
という歌詞も、言いようのない感情をかき立ててくれます。
この映像では最後にギターをステージ外に放り投げていますが、その後のギターからの残響音までが音楽になっている感じで、ちょっとすごいです。


bloodthirsty butchers - ファウスト


99年のミニアルバム『「△」SANKAKU』に収録された曲。
もともとはタワーレコード限定のシングルとして発売された曲で、なんと浅野忠信とのデュエットでした。その音源も捜したんですがなかったので、4人になってからのライブ映像を載せておきます。
渾身の演奏で、聴いていて心の奥底を揺さぶられる感があります。


03年には解散したナンバーガールのメンバーだった田渕ひさ子(ギター)が加入し、音はさらに分厚く、エモーショナルになっていきます。
吉岡氏と田渕氏はいつの間にか結婚していましたね。公式には発表されていなかったので、それを知ったのはずいぶん後でしたが。確か子供さんはまだ小学生だったはず。


bloodthirsty butchers - Jack Nicolson


04年のアルバム『birdy』収録曲。
PVは全編アニメーションでストーリーとスピード感があり、演奏のグループ感とも相まって、非常に面白いものになっています。
「僕はどんどんと歳をとっていくわけで、作るものはだんだんと色褪せる」
「このスピードを保っていたい。このバンドで踏み込んでいたい。行くさ」
という歌詞も非常に良いですね。


bloodthirsty butchers - ロケットにのって


06年のトリビュート・アルバム『A Tribute to Shonen Knife - Fork and Spoon』に収録された曲。
少年ナイフの初期曲のカバーですね。日本で活動している時の少年ナイフは好きで、この曲も結構聴いていたんで懐かしいです。
音は少年ナイフのようなぺなぺなな音ではなく、ブッチャーズらしいエモコア風になっています。でも吉村氏が「水金地火木土天海冥」と歌ってるのを聴くと、なんかユーモラスな感じがして笑えます。
そう言えば今は冥王星は、太陽系の惑星からは外されて準惑星という扱いになったそうですね。そういう意味でも時代を感じます。
なお映像はPVではなく、ファンがいろんなフッテージを集めて自分で作ったものらしいです。


CHARA - タイムマシーン


これはブッチャーズの曲ではありませんが、作曲に吉村氏が携わっています(名越由貴夫氏との共作)。
寂しいメロディーも印象的ですが、それよりも自分の中のパンドラの箱を開けてしまったかのような、二面性のある奥深い歌詞がすごいですね。
PVに当時のCHARAの夫だった浅野忠信氏(09年に離婚)が出演しているのも、観ていてしみじみします。


吉村氏の死は本当に突然だったようです。ツイッターを見ると亡くなった当日にも元気にツイートしていて、死の陰が迫っていることを一切感じさせません。
何しろ最後のツイートが「またプラモを塗り直してキッチンへ向かえ!負けるな!ひで子さん!」ですから、この日に亡くなるとは誰一人として思わなかったでしょう。もちろん本人ですらも。
急性心不全というものの恐ろしさを、思い知らされますね。吉村氏は結構な大酒飲みだと聞いていましたから、それも影響があったのかもしれませんが、今となってはそれを言っても詮無きことですし。
自分と近い年齢の人が亡くなると、本当にショックです。今も正直引きずっていますから。とにかくご冥福をお祈りしたいです。安らかにお眠り下さい。


kocorono [DVD]

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時間ができたら久々にこれを観てみようかと思います。彼らのドキュメンタリー映画ですね。
バンドを続けていくことによって発生する様々な葛藤や、それを生業にすることの厳しさが描かれていて、観ていて息苦しくなるような生々しい部分もたくさんあるのですが、観終わった後は何かポジティブなメッセージを受け取ったような気になって、後味は悪くないです。
バンドを組んでいたことがある人、音楽で飯を食いたいと一瞬でも思ったことのある人には、お薦めできますね。良い作品です。