フィータス

今回はフィータスです。80年代に突如現れた、ノイズ・インダストリアルの先駆者と言うべき人物ですね。
彼は作品ごとに名義を変える(前にもそんな人について書いた記憶があるけど)ので有名な人で、様々な名前を持っているんですが、いちいちそれに従っているとわけが分からなくなりそうなんで、ここではフィータスで統一します。日本では「ジム・フィータス」名義で表記されていた時期もありましたっけ。


彼の本名はジム・サールウェル。オーストラリアのメルボルンに生まれ、70年代末に英国に渡り、本格的な音楽活動を開始します。
そしてニューウェーブのネタも尽きかけたと思われた80年代前半に、突如として後のインダストリアルを先取りするかのような斬新な音作りと、その圧倒的なパワーとテンションで旋風を巻き起こすことになりました。
当時先物買いみたいな感じで彼の12インチシングルを買って聴いてみましたが、その工場から出てくる廃棄物のように飛び交うジャンクなノイズと、脳内に響き渡るような暴力的なメタルビートに強烈な衝撃を受けましたっけ。
他にメタルビートを使っているバンドを聴いたことがないわけではなかったんですが、彼の場合サンプリングなどを多用して、膨大な情報量を高速で処理し、高密度、高音圧の世界を作り出しているところが斬新だと感じました。
彼自身は商業的な成功とは無縁でしたが、後進のインダストリアル勢に与えた影響は非常に大きく、彼の存在なくしてはミニストリーナイン・インチ・ネイルズも出てこなかったと断言してしまってもいいかと思います。


Foetus Art Terrorism - Calamity Crush


84年にFoetus Art Terrorism名義で出された唯一のシングル。僕が初めて買った12インチもこれです。
当時流行っていたスクラッチなどを巧みに取り入れたある意味ヒップホップ的な曲ですが、暴力的なヴォーカルとハードコアなエレクトロトラックが、ジャンクな風味を高めてくれて、今でもなかなかいけます。


Scraping Foetus Off The Wheel - Clothes Hoist


同じ年にScraping Foetus Off The Wheel名義でリリースされた、3rdアルバム『Hole』に収録されていた曲。
叩きつけるようなメタル・パーカッションと打ち込みから繰り出されるビートに、疾走するスラッシュ・ギターが絡んで、非常に攻撃的な音が作り出されています。
ヒップホップ的な要素はほとんど感じさせず、どちらかというとハードコアに接近した路線となっていますね。


Scraping Foetus Off The Wheel - Satan Place


同じく『Hole』に収録されていた曲。
基本的にはサンプリングを多用したガシャガシャしたハードコアなんですが、ここにミスマッチ的にビーチ・ボーイズ風コーラスを挿入することによって、異様にポップな味を持たせることに成功しています。
インダストリアルの先駆者でありながらそのスタイルに固執することなく、雑多な音楽性を自在に吸収してしまう縦横無尽なミクスチュアリズムを持ち続けるところが彼の偉大さなんでしょうね。


You've Got Foetus On Your Breath - Wash It All Off


映像はかなりグロいので、自己責任で見て下さい。まさかPVじゃないと思う(ドナルドとかこんなのに出す許可下りるわけないし)んですが、なかなかな映像。
これも同じ年にYou've Got Foetus On Your Breath名義でリリースされたシングルです。この時期の彼はものすごくテンションが高く、立て続けに強烈な内容の作品を出していました。
音自体はむちゃくちゃ速くてカッコいいですね。ヴォーカルのジャンクさもあって一見粗雑に聴こえるんですが、実は各要素が破綻しないよう巧みに調整されたバランスを保っていて、なおかつハイテンションに疾走しています。圧巻です。


The Foetus All-Nude Revue - Diabolus In Musica


87年にリリースされた、The Foetus All-Nude Revue名義での唯一のシングル。
インダストリアルとドラムンベースミニマル・テクノ・ノイズを融合させるという、斬新な試みがなされた曲です。
ヴォーカルがないんで個人的には物足りないところもありますが、この時期にこの音を出していたというのは素直に感心しますね。


僕の場合彼と出会うことによって、攻撃的な音とはギターである、という思い込みが吹っ飛ばされたのが大きいですね。
打ち込みの音に込められたエネルギー、憎悪、破壊力がこんなに強烈なものになるとは、思ってもみませんでしたから、すごくショックでした。
あとおかけで後にインダストリアル系の音が雨後のタケノコのように出てきたときも、彼を物差しとして冷静に聴くことができた、という側面はありますね。


フィータスはカルトなファンの支持を受けて活動を続け、ニューヨーク・アンダーグラウンドの女王リディア・ランチやニック・ケイブ、マーク・アーモンドらとコラボしたり、ナイン・インチ・ネイルズをはじめとする膨大な量のリミックスをこなしたりして、現在も精力的に活動しています。
音楽性は僕が紹介したものとはかなり変わっていて、攻撃性を抑える代わりにダークでカオティックな世界を顕現していますが、その独創性は健在です。
その衰えない創作意欲と、作品に向かう初期衝動を忘れない精神力の強靭さには敬服するものがありますね。