中村とうよう氏のこと

自殺されたということを数日前に知って、驚きました。
他に書くところがないので、この場を借りてちょっとだけ。




僕は若い頃、それこそ中学高校くらいの頃からミュージック・マガジン(最初はニュー・ミュージック・マガジンだったかもしれない)を読んでましたが、氏のクロス・レビューにはよく腹を立ててました。
クロス・レビューといっても、ファミ通みたいに大手から出たものは全部高得点みたいな甘っちょろいヤツではなく、歯に衣着せず思いっきりぶった切っていて、自分の気に入らないものには容赦なく低い点数をつけてましたっけ。
なにしろドアーズもピンク・フロイドパブリック・エナミートム・ヴァーラインもソフト・セルもニュー・オーダージーザス&メリー・チェインもロックパイルもトム・ウェイツも全部0点(トム・ウェイツに至っては-10点)でしたから、それらが好きでかつ若かった僕が怒ったのも当然だったというか。
もっともマイケル・ジャクソンの『スリラー』を、「黒人のもっともダラクし果てた姿」と喝破し0点をつけた(その前の『オフ・ザ・ウォール』は10点だった)り、ラップのことを黒人音楽衰退の元凶で黒人民族の敵と断言したりするところなんかは思わず笑っちゃって、その罵倒ぶりを楽しんだりもしていたのですが。
あとサイキックTVに0点をつけつつ(僕もサイキックTVはどう評価していいのか分からない)も、その前身であるスロッビング・グリッスルの『20ジャズ・ファンク・グレイツ』のことは「西洋音楽の歴史の中でも最も革命的なもの」と大絶賛するあたりはさすがの見識で、ただの偏屈な黒人音楽至上主義の頑固ジジイじゃないと思わせてもくれました。
だから僕の氏への評価は、基本的に自分と意見は合わないけれどいくつかの部分では意外と近いし、また大人の事情で自分の考えを曲げることがなく、その意味では信用できる人というものでした。まあ渋谷陽一氏との論争のときや大韓航空機撃墜事件のときのコラムのように、この人ボケてるのかなと思わせることも多々ありましたけど(苦笑)
それと氏自身は偏った評論家でしたが、雑誌は自分の好き嫌い関係なしに、ジャンルごとにライターを置いて総合音楽誌であるよう努めていたというのも、今考えると好感が持てますね。
本来雑誌とはそうあるべきなんだと思いますけど、今は編集長と似た趣味のライターが集まっただけの、偏った音楽雑誌しか無いですから。


氏から強く影響を受けた面もあります。それは世界各国、各時代の音楽を聴くようになったことです。
氏の編集したコンピレーション『大衆音楽の真実』や著書『ポピュラー音楽の世紀』がなければ、僕の音楽に対するスタンスは今よりもずっと狭いものになっていたでしょう。そういう面では感謝してもし足りないくらいです。
音楽は違うジャンルから互いに影響を受けたり与えたりしていて、辿っていくとすべて繋がっています。一点だけ見ていたら分からないこともたくさんあります。
それを氏、そしてミュージック・マガジンには教わりました。正直ロッキング・オン(まだ投稿誌だった頃の)より影響は受けたかも。


自殺とかそういう類のことからは縁遠い人だと思ってましたので、正直まだ驚いてはいるのですが。
長年集めてきた膨大なコレクションを大学に寄付するなど、いろいろ身辺整理をしていた節もあったので、覚悟の自殺だったのでしょう。
僕にはその心境を窺い知ることはできませんけど、とにかく今は安らかに眠って欲しいという気持ちが強いですね。
お疲れさまでした。そしてありがとうございました。


MUSIC MAGAZINE増刊  クロス・レヴュー 1981-1989

MUSIC MAGAZINE増刊 クロス・レヴュー 1981-1989


これ、買いました。大人になってから読むと、いろいろ笑えたり考えさせられたりする、味わい深い内容でした。