ジャパン

アイドルというと何となく明るいものを想像しがちですが、昔は退廃的な暗いアイドルというものの需要が確かにあって、結構な市民権を得ていました。
その代表格がこのジャパンでしょうか。当人たちはアイドルとか狙ってなかったと思いますし、アイドルと呼ばれるのも嫌がりそうなんですけど、日本では確実にアイドル的な人気だったので、まあ仕方ない。
ただ今になって考えると、こちらが考えるアイドルの範疇からはかなり外れているので、当時の人気がちょっと不思議だったりもします。
確かにヴォーカルのデヴィッド・シルヴィアンは美形だったんですけど、そのねちっこい歌唱といい、厭世的で人間関係を悲観的に見る歌詞といい、ファンクやレゲエをポストパンク的に再解釈した音といい、どう考えてもティーンのアイドルにはなり得ない感じだったんですが。
でも実際はどうしてどうして、デビューした年にはもう武道館公演が埋まってしまい、館内を黄色い声が支配したくらいでした。今じゃ考えられん。


理由は忘れましたが、当時渋谷陽一あたりがその音楽性をベタ褒めしており、僕もそこそこ好きではあったんですが、演奏力が未熟でコンセプトもこなれていないせいもあってか、なんかぎこちなく聴こえたのも事実です。
シルヴィアンものちにインタビューで、デビューからの2作は「失敗作だった」と自ら認めていますし。
ただ素人臭い分だけ定石にとらわれておらず、音楽上のお約束もぶっちぎり、様々な要素をごっちゃにしつつ、粘っこく妖しい不思議な音を形成していたのは、評価すべきだと思いますね。


Japan - Sometimes I Feel So Low


この曲は2ndアルバム『Obscure Alternatives』のシングルで、邦題は『孤独な安らぎ』。
「時々憂鬱になるんだ」というリフレインは、彼ららしく実に陰気ですが、ヴォーカルは妖艶な感じで悪くないかもと当時思ってました。
当時彼らが目指していた、ブラック・ミュージックとグラム・ロックの融合も、比較的うまくいっている印象です。


Japan - Automatic Gun


これも2ndアルバム『Obscure Alternatives』収録曲。
79年にベルギーのTVに出たときの映像のようですね。画質はひどく悪くて、おまけに当て振りなんですけど、珍しいんで載せてみました。
この曲はすごくパンキッシュな感じで、当時すごくカッコいいと思った記憶がありますね。
ミック・カーンの不思議なフレットレスベース捌きも、この頃の他のバンドとは明らかに違う味があって良いです。


ちなみにジャパンはこの頃は典型的な「ビッグ・イン・ジャパン」*1でしたが、後にダークでストイックな欧州耽美路線に移行し、本国でも人気が出るようになりました。
またアルバムに坂本龍一がゲスト参加したり、一時土屋昌巳がツアー・メンバーとして参加したりしていたのも話題を呼びましたが、メンバー間の不和により、82年に解散してしまいました。
91年にはレイン・トゥリー・クロウの名前で驚きの再結成を果たしていますが、軋轢は残っていたままだったらしく短期間で解消されています。
なおミック・カーンは、今年の1月に癌のために亡くなっています。合掌。

*1:「日本でしか売れていない洋楽ミュージシャン」を指す俗語。