スクリッティ・ポリッティ

ゴールデンウイーク?なにそれおいしいの?状態で、自宅に閉じこもっております。
体調も相変らず今ひとつなんですが、まあなんとかなるだろうと無理やり自分に言い聞かせ、頑張って更新します。


今回取り上げるのは、懐かしのスクリッティ・ポリッティです。
80年代半ばに『Wood Beez』や『Perfect Way』などのヒットを連発しましたので、当時洋楽を聴いていた人の中にはご存知の方も多いのではないでしょうか。
ただ僕が好きなのはそのへんではなく、82年にリリースした1stアルバム『Songs To Remember』なんですよね。せっかくですので大ヒットの陰に隠れてあまり語られることのない、この時期の彼らについて書きたいと思います。


その前にとりあえずスクリッティ・ポリッティについて簡単な説明をしておきましょう。
彼らはウェールズカーディフ出身のグリーン・ガートサイドを中心として、77年に英国のリーズで結成されました。
その風変わりな名前はイタリア語で「政治的書簡」という意味を持っています。なんでもイタリアのマルクス主義者、アントニオ・グラムシの著作のことを指しているんだとか。このへんはパンク世代の尻尾が見えるみたいで微笑ましいです。
もともとグリーンは大学生の頃にパンクムーブメントに触発されて、F・GANGSなるパンクバンドを結成しますが、グリーンの病気により解散、9ヶ月の療養生活の間にR&Bやファンク、レゲエなどを聴きまくり、それらの影響を受けて回復後にスクリッティ・ポリッティを結成したそうです。このへんの顛末は、ヴィニ・ライリーがドゥルッティ・コラムを結成した経緯を髣髴とさせるものがありますね。
最初スクリッティ・ポリッティのメンバーは8人編成でしたが、メンバーは常に流動的で、結局はグリーンのワンマンバンドというかソロユニットのようになっていきました。これは音を聴く限り、グリーンのコントロールが細部にまで行き届く結果になっているので、良い方向に働いたのではないかと思っています。
彼らは当時英国で旋風を巻き起こしたインディー・レーベルのラフ・トレードと契約し、数枚のシングルを発表しました。その頃のシングルはずいぶん後になって聴くことができましたけど。


Scritti Politti - Hegemony


この頃はもろにポスト・パンクみたいな音だったんですね。正直驚きました。
引っ掻くようなギターにうねうねしたベース、ダブっぽい処理を施したドラムは、ア・サートゥン・レシオあたりを思わせます。
面白い音ではあるんですが、これは売れなさそうですね。このサウンドのままだったら、後のブレイクはなかったんじゃないでしょうか。


そんなふうに試行錯誤していたグリーンですが、自分のルーツに正直でいたいと思ったのか、その後ソウルやファンクに対する強い憧憬を、瑞々しく解き放った音になっていきます。
僕が彼らと出会ったのはそんなときでした。FMでシングル『Faithless』を聴いて、その確かにソウルフルなんだけど思いっきりニューウェーブしている音に、ブラックミュージックとテクノの融合を見てショックを受けましたっけ。
当時日本でも徳間ジャパンのディストリビュートで、ラフ・トレードのアルバムが出ていたので、その後しばらくしてから彼らの1stアルバム『Songs To Remember』を買いました。
これは傑作でしたね。当時のラフ・トレードのミュージシャンって、アズテック・カメラやザ・スミスのような例外はあったものの、たいていは大向こう受けしなさそうな人たちばっかり(ポップ・グループとかヤング・マーブル・ジャイアンツとかヴァージン・プルーンズとかキャバレー・ヴォルテールとかザ・フォールとかスウェル・マップスとかレインコーツとか)だったのですが、このアルバムはラフ・トレードらしい先鋭性を持ちながらも、どこに出しても通用するようなポピュラリティを兼ね備えてましたから。
実際このアルバムは英国では12位まで上昇し、インディー・レーベルのラフ・トレードとしては望外のヒットになったようです。


Scritti Politti - Faithless


これが僕が衝撃を受けたシングル。82年にリリースされ、全英56位を記録。むろん『Songs To Remember』にも収録されています。
バックをよく聴くと安っぽいテクノのような音なんですが、本格的なゴスペル・コーラスとファンキーなベースを組み合わせることによって、ソウルにしか聞こえないように仕上げています。
アイズレー・ブラザーズがテクノをやったら、こんな風になるんじゃないかと思いましたから。当時もう時代遅れになりかけていたボコーダーを、コーラスのアクセントとして使うところも心憎いですし。
ブラック・ミュージックを独自の解釈(と予算の制限の中)で表現した、ひとつの結晶だと思います。そのくらい素晴らしい。


Scritti Politti - The Sweetest Girl


『Faithless』より前の81年にリリースされたシングル。全英64位。これも『Songs To Remember』収録曲です。
よく聴くとレゲエのようなリズムを刻んでいる淡々とした打ち込みと、チープなキーボードしか使っていない骨組みだけのサウンドなのに、メロディーがいいせいかとても豊潤でソウルフルな音に聞こえるのがすごいです。
それと何気にキーボードにダブっぽい処理を施しているんですよね。このあたりクールでセンスあるなと感心しますね。
ちなみにキーボードを弾いているのはあのロバート・ワイアットです。当時彼はラフ・トレードから作品をリリースしていたんで、そのつながりなんでしょうか。心なしか当時のワイアットの作品にも近い味がある気もします。
それとマッドネスがこの曲をカバーしてましたっけ。懐かしい。


Scritti Politti - Asylums In Jerusalem


82年リリースのシングル。全英43位。『Songs To Remember』にも収録。
レゲエ調のリズムにソウルフルな女性コーラスを乗せて、ソフィスティケイテッドされたポップに仕上げているんですが、どこか座りの悪いところがあってそこが味になっている気がします。
真面目なことを言っているようで、それでいて人をおちょくったような歌詞は、ヒップホップの影響なのかきちんと韻を踏んでいて、そういうところも知性的だと思いますね。
まあそういうこと以前に、カッティングを多用しワウペダルも使ったギターサウンドと、うねるベースラインが気持ちいい曲です。


彼らの代表作といえば、間違いなくよりサウンドの洗練された次のアルバム『Cupid & Psyche 85』なんでしょうが、このアルバム『Songs To Remember』の磨きがかかる前のゴツゴツした手作り感覚も、個人的には捨てがたいですね。と言うかむしろこっちの方が好きです。
ちなみに「無人島にレコードを一枚だけ持っていくとしたら?」という有名な問いの回答として、コーネリアスこと小山田圭吾氏が挙げていたレコードもこれだったりします。他にも同じ考えの人がいて嬉しい限りですね。


その後グリーンはさらに音楽的な追求を続け、ブラック・ミュージックへますます接近しつつ独自の解釈を加えていきます。
結果2枚のアルバム『Cupid & Psyche 85』『Provision』を大ヒットさせることになりますが、それはまた次の機会に書くことにしましょう。