ダーク・スター

どうもです。
実はちょっと疲れちゃってるんです。病気のために出勤回数が制限されていたんですが、おかげさまで多少は快方に向かっているので、段階的に制限を緩和しようということになりまして、今週はいつもより多めに仕事に出てるんですけど、やはり最初はなかなかしんどくてですね。もうぐったりです。
だけど更新は休みたくはないな、と思いまして、ならちょっとだけしか活動していないマイナーなバンドについて書こうと考えたわけです。そうすれば書く分量が少なくて負担も小さいですから。
そうなるとやはり書くのはNWOBHMになっちゃうわけなんです。これほど「幻のバンド」「知る人ぞ知る」みたいなミュージシャンを山のように輩出したジャンルって他にないですからね。
一応説明しておきますと、NWOBHMというのは「New Wave of British Heavy Metal」の略でして、70年代末から80年代前半にかけて、パンクやニューウェーブのカウンターとして英国で勃興した、ヘヴィメタルのムーブメントです。
ただ商業的に成功したかと言われると、アイアン・メイデンデフ・レパード、サクソンなどの例外はあるものの、基本はインディーズどまりだったので成功とは言い難いでしょうね。メジャー・レーベルは新しいメタル・バンドに対して腰が引け気味でしたし、たとえ若いバンドを青田買いしたとしても、すぐに売れたもの以外はあっという間にポイ捨てしてましたから、育つものも育たなかったというのが大きいでしょうか。
ただこのムーブメントに刺激を受けて、パンクらの煽りを受けて逼塞していたブラック・サバスジューダス・プリーストらのベテラン・バンドは次々と息を吹き返しましたし、メタリカのようにNWOBHMに大いに影響を受けたミュージシャンも多かったですし、後にNWOBHMアメリカからの回答とも言えるL.A.メタルが世界中を席巻しましたしと、ハードロックやメタルを語るうえで絶対に無視できない動きではありました。
NWOBHMはインディーズの泡沫バンドが非常に多かったため、忘れられた音源がたくさんあって今でもマニア受けはすごいんですよ。今日はその中でも「幻のバンド」の代表格、ダーク・スターを取り上げることにしましょう。もうバンド名からしてB級っぽいと言うか、メタルでしかありえないネーミングだと思うんですが、音自体はメタルのような荒々しさがなく、かなり聴きやすいと思います。


ダーク・スターは78年に英国バーミンガムウォルバーハンプトン説もあり)で、リック・スタインズ(ヴォーカル)、デイブ・ハリソン(ギター)を中心として結成されました。
二人はそれまでスウェッティ・ベティなるバンドや、スーサイドというパンク・バンドみたいな名前のハードロック・バンドを組んでいたのですが、解散後にスウェッティ・ベティで一緒だったボブ・キー(ギター)、そしてローカルバンドで活動していたマーク・オスランド(ベース)、スティーブ・アトキンス(ドラムス)を迎え、バンドとしての体裁を整えます。彼らは初めベルリンという名前で活動を開始しますが、すぐにメタルっぽいダーク・スターに改名して地元中心にライブを行いつつ、デモテープも制作していました。
この頃すでにアイアン・メイデンらが活発に活動していて注目を集めており、それに追随するような形で若いメタル・バンドが次々と誕生し、それらの受け皿となるメタル専門のインディーズ・レーベルもいくつか登場していました。ダーク・スターはその中の一つであるアバター・レコードにデモを送るとそれが認められ、80年にシングル『Lady of Mars』でデビューすることとなります。


Dark Star - Lady of Mars


80年にリリースされた彼らのシングル。
軽快なリフとリズム(UFOの名曲『Doctor Doctor』にちょっと似てます)にのっていかにも英国らしい湿り気のあるメロディーを、くぐもった声質で歌い上げるヴォーカル、郷愁を誘う切なくも美しいツイン・リード、何気に盛り上げる役割を果たしているスペーシーなシンセ、ギターのリフとマッチしたコーラスが印象的な、ドラマチックな名曲ですね。
実際当時のメタルシーンでの評価は非常に高く、ファンの間ではアンセムとして崇められていたようです。
NWOBHMのバンドはパンクの影響を受けた、スピーディーで荒々しい音が多かったんですが、この曲は正統派のブリティッシュ・ハードロックという感じで、これはこれでなかなかいけます。
実は僕はこの曲をリアルタイムでは聴いてなくて、伊藤政則氏の編集したコンピレーションで初めて聴いたんですよね。幻のバンドとして当時存在だけは知っていたんで、CDで聴くことができて感激した記憶がありますね。伊藤氏にはお世話になることが多くて、今でも感謝しています。
また有名なNWOBHMのコンピレーションである『Metal for Muthas Vol.2』にも収録されていますので、この曲だけは割と簡単に聴くことが可能でした。


このシングルの好評を受け、バンドは翌81年にアバター・レコードからデビュー・アルバム『Dark Star』(邦題は『暗黒の星屑』)をリリースしています。
しかしアバターの力が弱かったせいでしょうか、アルバムがそれほど出回ることのないまま、彼らは地味な活動に甘んじることを余儀なくされました。日本でも一応リリースされましたが、すぐに廃盤になっています。後にCD化もされた(それも日本だけ)んですが、それもほどなく廃盤になりましたっけ。
そのため『Dark Star』は完全にレアアイテム化して、一時は中古市場で結構な高値が付いていました。昔御茶ノ水ディスクユニオンだったかで見たことがあるんですが、とてもじゃないけど手が出なくて諦めたこともありましたから。
しかし待ってみるもので、09年頃から輸入盤で復刻されてぽつぽつ出回るようになり、日本でも12年には紙ジャケット仕様でリマスター盤が再発されたため、今では容易に聴くことができます。無論僕も買いました。
聴いた感想ですが、思い入れを抜きにすると正直微妙でしょうか。曲の出来はまあまあなんですけど、ブルース・ロックだったりメロディアスなハードロックだったりアメリカン・ハードロックっぽかったりと音楽性がとっ散らかってて、散漫な印象を受けたんですよね。何をやりたいのかよく分からない感じ。
ただ全体的に牧歌的かつおおらかで、肩肘張らずに聴けますから、決して悪いアルバムではないんですけどね。それに名曲『Lady of Mars』が入っているという事実だけで、もう十分だというのもありますし。


Dark Star - Lady Love


『Dark Star』収録曲。
これはブギーですね。思わずZZトップステイタス・クオーを連想してしまいました。
脳天気に盛り上がっていて、多分アメリカで成功したかったんだろうなと推測できるんですが、ツインリードの音質には英国らしさが少しにじみ出ています。このへんのギャップを上手く消化できていれば、デフ・レパードみたいになれたかもしれないですね。


その後のダーク・スターについてはほとんど知られていないんですが、一応85年までは活動しています。
彼らは地道にライブを続けつつ、83年には2ndアルバムのためのレコーディングも開始するんですが、すでに時代の趨勢はNWOBHMから去っており、所属していたアバター・レコードも消滅してしまいました。
それでもバンドはレコーディングを続けましたが、そのうちメンバー間の意見の相違が大きくなり、85年になると未完成のテイクを残したまま解散してしまいます。ヴォーカルのスタインズは短期間だけソロ歌手になった後、音楽の道を諦めマネージャーに転向し、パワーメタル・バンドのマーシャル・ロウ(マニアしか知らないレベルの知名度でしたが、結構いいバンドでした)などを担当しています。
他のメンバーはポーカー・アリスなるバンドを結成したそうですが、これは短命に終わっています。その後キーはジャック・ダニエルズ、オスランドはポーカー・ジャックというバンドに加入しているらしいんですけど、マイナー過ぎて詳細はよく分かりません。


日本ではこれらのニュースは報じられることもなくすっかり忘れられていたんですが、87年になると突然2ndアルバム『Real to Reel』のリリースが発表され、古手のファンを狂喜させました。先の伊藤政則氏もめっちゃ興奮した記事を書いてましたっけ。
このアルバムですが、解散前に録音していた未発表のテイクにFMリボルバーというレーベルが目をつけ、解散していたダーク・スターが一時的に集まって一部を録り直してアルバムという形にしたもののようですね。
しかしこのアルバムはまったく別のバンドのようなソフトな音になっており、人々を失望させるだけの結果に終わりました。まあ『Lady of Mars』から7年も経っていますから、音楽性が変化することは仕方ないことだとは思うんですが、その歳月が伝説をより強化していた側面もあるわけで、ファンのがっかりする気持ちも分かります。このへんの機微は難しいですよね。
実は『Real to Reel』は聴いてなかった(あの悪評を聞いて金を出す気になるほうがすごい)んですけど、YouTubeには音があったのでせっかくですから何曲か聴いてみました。


Dark Star - Only Time Will Tell


『Real to Reel』収録曲。
うーん、これは微妙ですね。『Lady of Mars』みたいなのを期待するとそりゃがっかりするんじゃないでしょうか。
ポップでキャッチーな嫌味のない大人のアメリカン・ロックって赴きですし、演奏もコンパクトでしっかりしているんですけど、バンドならではの個性のようなものが感じられず、かなりありきたりな感じに聞こえてしまいます。
まあ別なバンドだと思えばそれほど悪くない気もしますから、メロディックなロックが好きな人は先入観を排して聴いてみるといいかもしれません。


良い楽曲を作る力はあったと思いますので、NWOBHM全盛時にメジャー・レーベルと契約できていたら、また違った未来もあったのかもという気もしますけど、歴史にifはないですし、こればかりは言ってもどうしようもないですよね。
完全に『Lady of Mars』の一発屋だったわけですが、その一発すらないバンドが多いのが現実ですから、彼らはまだ恵まれていた方なのかもしれないと思うしかないのかもしれません。