イーター

どうもです。さっきまでクリスマスイブでしたけど、特に関係なく過ごしていましたよ、ケーキは食べましたけど。皆様はいかがだったでしょうか。
イブの日はまる一日休みだったんですけど、病院のハシゴして疲れてしまったんで、またまた簡単な内容です。御了承頂ければ何よりです。
あ、体調のほうは徐々に快方に向かっているって感じですね。神経関係のほうはまだまだ長い付き合いになりそうですけど、内臓のほうはあと一、二度病院に通うくらいで済みそうです。
来年はもう少し健康になればいいな、と思ってます。年二回の入院はさすがに多過ぎたので。


さて今回は久しぶりにロンドン・パンクをいってみましょうか。
一応リアルタイムで体験したムーブメントなので、愛着はひとしおです。確かに初期衝動のみですぐ消えてしまったバンドが多かったですけど、その後に及ぼした影響の大きさを考えると、軽く見ることはできないと思いますね。
というわけでイーターを取り上げてみましょう。パンク・ムーブメントの波に乗って颯爽と現れ、一瞬話題になっただけですぐに消えてしまったバンドです。
このバンドの最大の特徴は、音とかじゃなくてメンバーがリアルにガキだったところ。4人のうち3人が16歳、ドラマーに至っては14歳でしたから、本当に子供でした。
演奏ははっきり言って下手ですし音もスカスカなんですが、いかにもガキらしいフリーダムなやりたい放題感だけは十分伝わってきます。


イーターは英国ロンドン北部のフィンチレイで、1976年に結成されました。バンド名はT.レックスの『Suneye』(70年リリースのアルバム『T. Rex』に収録)の歌詞の一節「Tree wizard puretongue, The digger of holes, The swan king, The Elf lord, The eater of souls. Lithon the black, The rider of stars, Tyrannosaurus Rex, The eater of cars」から取られているそうです。
メンバーはハイスクールの学友だったアンディ・ブレイド(ヴォーカル。エジプト系の英国人で、本名はアシュラフ・ラドワン)、ブライアン・シュベット(ギター。本名はブライアン・ハドック)、イアン・ウッドコック(ベース。この人だけステージネームはなし)、そして近所のジュニア・ハイスクールの生徒だったディー・ジェネレイト(ドラムス。本名はロジャー・ブレン)の4人です。ほとんど学生バンドのノリですね。
このバンドはマンチェスターで行われたバズコックスのライブのサポート・アクトとして、76年の11月に公式なデビュー・ライブを行っています。ロンドンの学生バンドが何故マンチェスターで、しかも当時結構名の知れていたバズコックスのサポートとしてライブデビューを行えたのか、そのへんの事情は謎なんですがいろいろ人脈があったんですかね。
その後彼らはロンドンのロキシー・クラブで主に活動し、ダムドやシャム69らの前座を行っています。この間にジェネレイトが14歳であることがばれ、パブやクラブでの演奏が不可能になってしまうというアクシデントもあったんですが、結局ドラムスがソーシャル・デミス(本名はフィル・ローランド)に代わって活動は続行されます。


Eater - No Brains


珍しいジェネレイト在籍時のライブ映像。
とにかく下手で、ほとんど学園祭のようなノリですが、妙な切迫感のようなものは伝わってきます。


そして77年になると彼らは、セックス・ピストルズの『Never Mind the Bollocks』(邦題は『勝手にしやがれ!!』)でレコーディング・エンジニアを務めたデイブ・グッドマンの設立したレーベル・レコードと契約し、同年3月にシングル『Outside View』でデビューを果たすのです。


Eater - Outside View


デビューシングル。
下手ですし音もしょぼいんですが、パンクとしてはかなりいけてると思います。ベースが結構カッコいいですね。


Eater - Thinking of the USA


同年6月にリリースされたシングル。
しょぼい音なりに必死に疾走している感が、なかなかパンクしていていいなと思います。


Eater - Lock It Up


同年10月にリリースされたシングル。邦題は『パンクでぶっとばせ』。
ここで紹介した3曲の中では一番出来のいい曲だと思います。てか16歳でこれを作れるのならなかなか才能あるでしょ。


とにかくどれもキャッチーでスピード感があってシンプルでストレート。まあそれしかできなかったんでしょうけど、初期パンク特有の衝動性と勢いだけは十分に感じます。
予算の都合なのか音はスカスカなんですけど、この当時のパンクのレコードってセックス・ピストルズ以外は全部スカスカな音*1でしたから、そのへんはまあ仕方ないんじゃないでしょうか。
これらのシングルが好評だったのか、同年11月にはデビュー・アルバム『The Album』(邦題は『パンクでぶっとばせ』)もリリースしています。このアルバムは当時日本でも話題になりましたっけ。まあ話題といっても音楽性じゃなくて年齢のことについてがほとんどでしたけど。
そう言えばダイナソーJr.のJ・マスシスが、一番聴いたアルバムはこの『The Album』ってインタビューで答えてましたっけ。確かに彼のキャラクターにピッタリのアルバムかもしれません。
あとこれは余談ですが、当時三浦友和がロンドンに行って、何故かイーターとスタジオセッションをした写真が当時の芸能雑誌に載ったそうです(僕は見てません)。何を考えてこういうコーディネートをしたのか理解不能ですが、三浦友和も当時バンド*2をやってましたから、そのへんから企画されたことなんでしょうか。
そう言えば三浦友和忌野清志郎の高校の同級生で、その縁から初期のRCサクセションの曲でボンゴを叩いたり、原発を批判して一時発売中止になったアルバム『COVERS』にも参加したりしてましたね。今では紫綬褒章をもらうくらいの人になりましたけど。


Eater - Waiting for the Man


『The Album』収録曲。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカバーですね。かなりスピードを上げてやんちゃな仕上がりになっています。
彼らはアルバムでやはりヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『Sweet Jane』、デヴィッド・ボウイの『Queen Bitch』、アリス・クーパーの『I'm Eighteen』(歌詞を「Fifteen」に変えて歌ってます)を、シングルのB面ではT.レックスの『Jeepster』をカバーしています。
バンド名の由来もそうですが、そういうところでルーツが透けて見えると言うか、高校生のコピーバンドみたいで微笑ましいですね。あとグラム・ロックとパンクはやはり近い存在なのだなということも実感します。


さて、若さもあって将来を嘱望されたイーターですが、翌78年には2枚のシングルを出しただけで活動は停滞、そして79年の初めにはあっさり解散してしまいます。
なんでもブレイドの父親が校長をやっているお堅い人で、彼から学業に専念するように諭されたというのが解散理由なんだそうで。体制や既存の価値観に対する反逆の音楽だったパンクも、怖い父親には敵わないってことなんですね。
まあ情けないと言えば確かに情けないですが、子供のバンドらしい逸話で微笑ましいんじゃないでしょうか。


その後ブレイドは80年代にはソロ活動をするためいろいろ試みたようですが、レコード会社との契約を得ることはできませんでした。ちなみに当時の彼のアパートのルームメイトが、のちにザ・カルトでギタリストを務めたビリー・ダフィーだったとか。
そして96年になると、イーターは『Holidays in the Sun Festival』というパンク・フェスティバルに参加するために再結成され(当時のメンバーで参加したのはブレイドとシュベットだけですが)、03年くらいまでちょこちょこ活動していたようですね。97年にはライブDVDも出してます。
バンドはいつの間にかまた解散し、ブレイドはソロでブルース系のような音を出していたんですが、06年にはバズコックスの30周年記念ライブに出演するため一夜限りのイーター再結成を果たし、ライブデビューの時と同じようにサポートを務めたそうです。
またブレイドは05年に、イーターの活動とその当時のパンクシーンのことを書いた『The Secret Life of a Teenage Punk Rocker』という本も出版しています。


The Secret Life of a Teenage Punk Rocker: The Andy Blade Chronicles

The Secret Life of a Teenage Punk Rocker: The Andy Blade Chronicles


Cherry Red Books』ってあのチェリー・レッドの書籍部門らしいですね。チェリー・レッドと言えばネオアコが連想されますが、デッド・ケネディーズやライバッハのレコードを出したことがあるなど、実はパンクやインダストリアル系にも理解のある会社です。


今年はこれが最後の更新となります。いつも読んで下さっている皆様、どうもありがとうございました。ちょっと早いですけど良いお年を。
次回は予定通りに行けば元日に更新ってことになるんですかね。正月早々暇なのかよと思われるのも癪なので、もしかしたら8日になるかもしれませんけど。
何について更新するかはまだ決めてないですが、多分久々のエレポップ系になる予定ですので、読んで頂ければ幸いです。

*1:唯一セックス・ピストルズだけは、プロデューサーのクリス・トーマスがギターサウンドを何重もオーバーダビングしたため、重厚で迫力がある音に聞こえるが、そのせいで当時ザ・クラッシュのファンなどからは「あんなのハードロックと変わらん」と言われた。

*2:三浦友和と仲間たち』というめっちゃアットホームな名前で、77年にはアルバム『赤頭巾ちゃん秘密だよ』がオリコン1位になっている。メンバーにはやはり俳優の山本伸吾、沢田勝美もいた。また三浦は80年代にもAGAPE HOUSEというバンドを組んで、シングルとアルバムを各1枚リリースしている。