クリス・スペディング

暑くなったり涼しくなったりの繰り返しで、すっかり体調を崩しています。
こんな時は長文を書くのがしんどいので、今回はちょっと色物っぽいものを取り上げてみましょう。
とりあえず今日はクリス・スペディングでいってみたいと思います。一曲ぜひ聴いてもらいたい珍曲があるんですよ。


まず彼の名誉のために言っておきますが、クリス・スペディング自体は色物でもなんでもありません。
英国で最も知られたセッション・ギタリストの一人であり、60年代から現在までコンスタントに活動している数少ないミュージシャンです。
ただそのキャリアの割には、大物臭とか全然しない人なんですが、そのへんについてはおいおい説明していきましょう。


スペディングは1944年に、英国ダービーシャーで生まれています。
なんでも最初はピーター・ロビンソンという名前だったのですが、生家の事情で里子に出され、養父母の姓を取ってクリストファー・ジョン・スペディングと改名したんだとか。
彼は25歳の時にフランク・リコッティ・カルテットというジャズバンドのレコーディングに参加することで、プロとしての第一歩を踏み出しました。
そして確かなテクニックを持ちつつも、それをこれ見よがしに出さずに堅実なプレイをするという、いかにもセッション・ギタリストらしい特質を生かしてあちこちで活躍する事になります。
彼の特徴は、ジャンルに拘らず仕事も選ばず、何でもやってしまうところでしょうか。
最初はジャズ・ギタリストとして注目され、「ジョン・マクラフリンの再来」みたいに言われていたのですが、だんだんロックやポップスに接近していくようになり、ジャック・ブルース(元クリーム)やハリー・ニルソン、ジョン・ケイル(元ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)、ブライアン・フェリー(ロキシー・ミュージック。初来日公演では彼がギタリストを務めた)、ロキシー・ミュージックエルトン・ジョンブライアン・イーノ、ニック・メイスン(ピンク・フロイド)、ドノヴァン、ギルバート・オザリバン、ジンジャー・ベイカーアート・ガーファンクルビリー・アイドルトム・ウェイツムーディー・ブルースローリー・アンダーソン、バーニー・ウォレル、フィル・マンザネラ(ロキシー・ミュージック)、ポール・マッカートニー、ゴールデン・イヤリング、ディーディー・ラモーン(ラモーンズ)、マリアンヌ・フェイスフル、アントン・フィグなどのレコーディングやツアーに参加しています。
もう来た仕事は全部請けてるんじゃないかと思うくらい、様々な顔触れが並んでいますね。日本のシーナ&ザ・ロケッツやモッズとも仕事をしていますし。
また意外なところでは、セックス・ピストルズの最初のデモテープのプロデュースもしており、『Problems』『No Feelings』『Pretty Vacant』のレコーディングに関わっています。さすがに初期パンクにまで関わっているのは驚きでした。
なおスペディングは再結成セックス・ピストルズのプロデュースもしており、彼らとは縁があるみたいです。
あとベイ・シティ・ローラーズの演奏の一部を担当しているという噂もあるんですが、これについては確認が取れませんでした。でもあれだけ多種類の仕事をしていれば、やってても不思議はない気がしますね。
とにかくこの仕事選ばない感が、彼をキャリアの割にあまり大物に見せないところなんじゃないかと思います。いろんなことやり過ぎ。


仕事を選ばないと言えばスペディングは、70年代中盤に『ウォンブルズ』という子供番組に着ぐるみをかぶって出演し、バンド演奏をするというものすごい仕事もやっています。
この頃の彼はあちこちに引っ張りだこの売れっ子でしたし、こういう仕事をした理由が正直よく分からないのですが、とにかくやっちゃうのはさすがと言えばさすがですね。


The Wombles - The Wombling Song


これがウォンブルズのシングル。74年に全英4位を記録しています。
フライングVを持っているのがスペディング(キャラ名はウェリントン)らしいですね。着ぐるみですから顔は当然見えないのですが、なんか楽しそうにやってるのはよく分かります。
ちなみにウォンブルズはスペディングの他にも、シンガーソングライターのマイク・バットがソングライティングとプロデュースを担当し、トーネイドーズのドラマーだったクレム・カッティーニ、エルトン・ジョンのバンドでパーカッションを演奏していたレイ・クーパー、ルー・リードのアルバムにベーシストとして参加経験もあるレス・ハードル、フランク・シナトラジーン・ケリーナット・キング・コール、ビリー・ホリデーなどとの活動経験のあるサックス・プレイヤーのエディ・モーデュ、ビートルズの『I Am the Walrus』や『Within You Without You』などでバイオリンを弾いていたジャック・ローススティーンなどというメンバーが参加し、初期エレクトリック・ライト・オーケストラのメンバーだったロイ・ウッドも曲を提供するなど、子供向け番組とは思えないほど本格派のメンバーが集まっています。
そのため当然音楽としての質も高く、74年に全英トップ10へ4曲を叩き込み、アルバムも好事家たちの垂涎の的となっていたみたいですね。今世紀に入ってからも、リバイバルみたいな形で活動をしたらしいです(メンバーが同じかどうかは不明)。


The Wombles - Wombling Merry Christmas


これもウォンブルズのシングル。74年にクリスマスソングとして発売され、全英2位を記録しています。
いい感じにのどかで、大人も子供も楽しめそうな曲ですね。


75年に彼はソロアルバム『Chris Spedding』(邦題は『天才クリス・スペディング』)をリリースするのですが、その中に世紀の迷曲『Guitar Jamboree』(邦題は『夢のギター・ジャンボリー』)が収録されています。これが紹介したかった曲なんですよ。
僕は80年代に、渋谷陽一のラジオでこの曲を初めて聴いたのですが、あまりのことに笑いを堪え切れなかった記憶がありますね。


Chris Spedding - Guitar Jamboree


早い話が「ギター・ジャンボリー」という一大フェスに、名ギタリストたちが勢ぞろいしてセッションをするという体の曲です。
ギタリストの名前が呼ばれると、スペディングがそのギタリストの物真似をしてフレーズを弾くというものなのですが、その顔触れがすごい。
アルバート・キングチャック・ベリージミ・ヘンドリックスジャック・ブルース(この人はベーシストだけど何故か登場)、ピート・タウンゼントザ・フー)、キース・リチャーズローリング・ストーンズ)、ジョージ・ハリスン(元ビートルズ)、エリック・クラプトン(元クリーム、デレク&ザ・ドミノス)、ジミー・ペイジレッド・ツェッペリン)、ジェフ・ベック(元ヤードバーズジェフ・ベック・グループ)、ポール・コゾフ(フリー)、レスリー・ウェスト(マウンテン)、デイブ・ギルモア(ピンク・フロイド)と来るのですから笑っちゃいます。
で、これがまた何気に特徴を捉えていて、思わず納得しちゃうんですよね。音色も結構似せていますし、芸としてはかなり高い水準なんじゃないでしょうか。特にアルバート・キングなんかは、チョーキングや音の伸ばし方が絶妙に似ています。このへんは彼のテクニックが生きているんでしょう。
なおライブでは興が乗るとどんどんギタリストが増えていくらしくて、スティーブ・ハウ(イエス)やロバート・フリップキング・クリムゾン)あたりも出てくるらしいです。これは生で聞いてみたいなあ。


ちなみにこのアルバムからは、彼の唯一のヒットも出ています。


Chris Spedding - Motor Bikin'



75年のヒット曲。全英14位。
バイクをモチーフにした曲で、スペディングもリーゼントに黒い革ジャンと、バイカー・スタイルで決めています。
曲はまあ普通ですが、なんか微笑ましいところがあって、個人的には憎めないですね。


最近スペディングはメジャーな舞台にはあまり出てきませんが、現在もセッション・ギタリストとしてたくさん仕事をしているようです。
またソロでもエルヴィス・プレスリーの没後30周年を記念してカバーアルバムを出したり、ロバート・ゴードン(ストレイ・キャッツの元祖みたいな人)と組んでツアーもしたりしているようです。