エルヴィス・コステロ

ゴールデンウイークですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
こちらは一応カレンダーどおりに休みではあるんですが、ほとんど予定らしいものはなくて、5日に出かける以外はひたすら自宅に籠ることになりそうです。
まあ体調がいまひとつ芳しくないので、いい機会ですからゆっくり休んでおくことにしましょうか。
皆さんものんびりまったりして、骨休めをして下さいね。


今回も前回の続きでエルヴィス・コステロです。
久々に3回にも渡るようなまとまった量の文章を書いたので、さすがに今回は力尽きてしまいそうでした。とりあえず「ジ・アトラクションズとの活動まで」と区切ったんですが、正解でしたね。
彼の活動を現在まできちんと追うことにしていたら、途中で逃亡していたかもしれません。やはりこのブログは、一発屋的な存在を気軽に扱うほうが向いているなと思ったり思わなかったり。


83年になるとコステロは、クライブ・ランガー(元デフ・スクール)とアラン・ウィンスタンレーのコンビをプロデューサーに迎え、8thアルバム『Punch The Clock』をリリースします。
ランガーとウィンスタンレーと言えば、マッドネスやデキシーズミッドナイト・ランナーズとの仕事で知られる当時のヒットメイカーで、この人選はレコード会社が強くヒットを意識したゆえとも思われます。
このアルバムはTKOホーンズや黒人女性コーラスを随所に配し、前作までの沈滞した雰囲気を吹き飛ばすような華やかな雰囲気を放っていますね。
アップテンポで歯切れの良い曲をメインとしつつ、ミドルテンポ曲やバラードも巧みに配し、またメリハリの効いたアレンジもあり、なかなかのポップアルバムに仕上がっています。全英3位、ビルボード24位。
当時聴いて、久々に分かりやすい作品を作ったな、と感じたのを記憶しています。聴き易いライトなサウンドで、煌びやかさすら感じるくらいでしたから。
ただコステロはこのアルバムがあまり気に入っていないようで、後年「表面的で深みがない」「80年代的なサウンド」として批判的でした。
まあ表面的云々はとにかくとして、80年代的ってのは実際80年代の作品だから仕方ないんじゃないかという気がするんですけど、本人的にはいろいろ思うことがあるんでしょう。


The Imposter - Pills and Soap


『Punch The Clock』からのシングル。全英16位。
この曲は当時のサッチャー政権に対する痛烈な批判を伴っていて、コステロ名義ではなくジ・インポスター名義でのリリースとなり、英国総選挙前には回収されたといういわくつきの物です。
これ以降も何度か、コステロはプロテスト・ソングをジ・インポスター名義でリリースしています。そのための名前なんでしょうかね。
曲は不穏な空気を醸し出すピアノとハンドクラップに、コステロのクールなヴォーカルが乗っており、重苦しい感触になっています。


Elvis Costello & The Attractions - Everyday I Write the Book


『Punch The Clock』からのシングル。全英28位。ビルボードで36位。
モータウンやソウルの影響を強く受けた、柔らかく繊細なバラードで、この時期の代表曲だと思います。珍しくアメリカでもウケが良かったようです。
コステロはこの曲に関して、アルバムを製作する過程で息抜きになる軽い曲が必要になったので、10分で作った特に内容のない曲だと語っているのですが、愛する人の一挙一動に右往左往する健気な男の様子をコミカルに描いていて、なかなかどうして非凡な出来に仕上がっています。
PVにはチャールズ皇太子とダイアナ妃のそっくりさんが登場しています。夫に家事を任せてぶすっとしてテレビに夢中になっているダイアナの気を引こうと、チャールズが皿を洗ったりコスプレをしたり花を捧げたり日の輪くぐりをしたり、という滑稽な内容は、何かを皮肉っていたのかもしれませんが、正直よく分かりません。


Elvis Costello & The Attractions - Shipbuilding


『Punch The Clock』収録曲。クライブ・ランガーとの共作曲で、ロバート・ワイアットに提供した曲のセルフ・カバーです。
この曲はフォークランド紛争を造船を生業とする都市の住民の視点から描いたもので、「自分たちの造った船で人が死ぬかもしれない」と思いながら、生活のために造船工場へ向かう人々の姿を淡々と歌っています。
正直に言うとワイアットのバージョンの方が良いと思うのですが(これは曲がワイアットの声に合っているというのが大きい)、コステロヴァージョンもなかなかの味がありますね。
またトランペットには、ジャズミュージシャンのチェット・ベイカーが参加しています。


翌84年には、前作のヒットを受けランガーとウィンスタンレーが続投し、9thアルバム『Goodbye Cruel World』がリリースされました。
本作自体は前作の流れを引き継いだポップ路線で、非常に切れ味のいいソリッドさを持っており、個人的には良い作品だと思っています。
ただ当人はこの当時離婚の危機(実際この後最初の妻メアリーと離婚し、86年に元ポーグスのケイト・オリオーダンと再婚している)や破産の危機を抱えていて、精神状態は最悪だったうえ、商業的な理由でオーバー・プロデュース気味になったこと、そしてその割には大ヒットと言うほどには売れなかった(全英10位、ビルボード35位)こともあって、この作品に対しては批判的です。
何しろ再発盤についていた本人のライナーノーツに、「おめでとうございます。あなたは我々のワーストアルバムを購入しました」なんて書いたくらいですから、よほど気に入ってなかったのでしょう。
さすがに傑作とは言えないものの、単純に良い曲が多くなかなかの作品だと思うのですが、なかなか難しいものです。


The Imposter - Peace in Our Time


『Goodbye Cruel World』からのシングル。全英48位。
この曲も反戦プロテスト・ソングで、ジ・インポスター名義でリリースされました。
現在もギター弾き語りで披露されることも多い、隠れた名曲ですね。


Elvis Costello & The Attractions - I Wanna Be Loved


これも『Goodbye Cruel World』からのシングル。全英25位。
この曲はカバーで、もともとはティーチャーズ・エディションというシカゴのR&Bバンドの、70年代に出したシングルのB面だったそうです。さすがコステロらしいマニアックな選曲ですね。
サックスとキーボード、コステロのヴォーカル、そしてスクリッティ・ポリッティのグリーン・ガートサイドのバックコーラスが程よく混じりあい、何とも心地良いサウンドとなっております。
またゴドレー&クレームが担当した、低予算だけどアイディア満載のPVも印象的です。今までの映像は実は孤独な男の妄想だった、と明かされるラストは味がありました。


Elvis Costello & The Attractions - The Only Flame in Town


これも『Goodbye Cruel World』からのシングル。全英71位。ビルボードで56位。
ダリル・ホールとのデュエット曲です。PVにもホールが登場するという豪華っぷりで、相当お金はかかっていると思うんですが、意外と売れてないんですね。
曲は軽快なサックスとキーボードに乗った、80年代溢れるサウンドですね。ブルー・アイド・ソウルに接近していて、ホール&オーツで歌ってもさほど違和感ないかもしれません。


この後コステロとジ・アトラクションズとの関係は悪化し、続く『King of America』『Blood and Chocolate』では1曲のみの参加となり、そこで完全に袂を分かってしまいました。
8年の時を置いて彼らは、94年の『Brutal Youth』で再び共演することになり、両者のコンビネーションが復活することも期待されたのですが、それは諸事情で上手くいかず、ジ・アトラクションズとの共同作業は、96年の『All This Useless Beauty』が最後になってしまいます。
ただドラムのピート・トーマスとキーボードのスティーブ・ナイーブは、その後もジ・インポスターズとして時折コステロのバックを務め、02年の『When I Was Cruel』、04年の『The Delivery Man』、08年の『Momofuku』がエルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ名義でリリースされています。
また03年にはエルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズ名義でロックの殿堂入りを果たすなど、多くのファンから未だにこのコンビネーションは愛されているようです。