エルヴィス・コステロ

今回は前回の続きでエルヴィス・コステロです。
コステロについてはあと1回くらいは書くことになると思います。活動が長いので曲を絞るのが大変なんですよね。
まあ大変だ大変だと言いつつ、久しぶりに聴く曲もあったりして、結構楽しんでいるんですけど。


80年になると、コステロはジェイク・リヴィエラの設立した新レーベル、Fビートに移籍しました。
このリヴィエラという人は、元チリ・ウィリ&ザ・レッド・ホット・ペッパーズのマネージャーをしていた人で(当時の名前はアンドリュー・ジェイクマン)、コステロの才能を見出したことで分かるように有能な人なんですが、スティッフやレイダー、そして今回のFビートとレーベルをやたらと設立するのは何故なんでしょう。あのポップ・グループを輩出したYレーベルも、彼が関わっていたと聞いたことがありますし。
まあそれはそれとして、コステロは新レーベルから4thアルバム『Get Happy!』をリリースします。ニック・ロウがプロデュースしたこのアルバムは、全英2位、ビルボードでも11位を記録しています。
このアルバムはほとんどの曲が3分以下という、いかにもパンクな感じを持ちつつも、彼が慣れ親しんできたモータウンやアトランティックなどのR&Bをベースにしていて、新境地を開拓したと言えると思います。


Elvis Costello & The Attractions - I Can't Stand Up For Falling Down


『Get Happy!』からのシングル。全英4位。邦題は『フォーリング・ダウン』。
この曲はサム&デイヴのカバーで、バラードであった原曲をアップテンポに再構築しています。
失恋と挫折の曲をわざとノリのいいアップテンポに仕上げる手法は彼の得意技ですが、どうせカバーするんならこれくらいやってくれなくちゃね。


Elvis Costello & The Attractions - High Fidelity


これも『Get Happy!』からのシングル。全英30位。
60年代のソウルからインスパイアされた、なかなかノリのいい曲です。


Elvis Costello & The Attractions - New Amsterdam


これも『Get Happy!』からのシングル。全英36位。
アコギがリードする3拍子のバラードで、シンプルでありながらところどころ癖のあるメロディーが印象的です。
タイトルからしてオランダのことを歌っているのかと思っていたのですが、実は「New Amsterdam」というのはオランダ植民地時代のニューヨークの名称なんだそうですね。
要はニュー・イングランドイングランドではないのと同じ事なんですが、とにかく勉強になりました。


翌81年にコステロは、やはりニック・ロウのプロデュースで、5thアルバム『Trust』をリリースしています。
このアルバムは全体的にミドルテンポを多用していて、雰囲気も地味で陰鬱でしたね。当時のコステロはドラッグなども使用しており、コンディション的にはあまり良くなかったらしいです。
それでも一筋縄ではいかないソングライターぶりを見せてくれているのは、さすがと言うしかないんですが、そんな彼の精神状態が反映したのか、チャートアクションは全英9位、ビルボートで28位と低調でした。


Elvis Costello & The Attractions - Clubland


『Trust』からのシングル。全英60位。
当時の煮詰まり具合がよく出ている曲だと思うのですが、ギターとキーボードとヴォーカルのバランスは絶妙で、さすがコステロと思わせてくれるものはあります。


停滞状態から脱しようと考えたのか、同年にコステロはこちらをびっくりさせるような行動に出ます。
なんとカントリーの本場であるアメリカのナッシュビルに渡り、当地の敏腕プロデューサーとして知られるビリー・シェリルを招き、全曲カントリーのカバーというアルバム『Almost Blue』をリリースするのです。
カントリーへの急接近は、もともと彼がカントリー好きという理由以外にも、有名なカントリー歌手ジョージ・ジョーンズ(追記:このエントリを書いた翌日に亡くなったそうです。享年81。ご冥福をお祈り致します)のセッションに招かれたり、盟友でもあるニック・ロウがやはり高名なカントリー歌手のジョニー・キャッシュの義娘であるカーレン・カーターと結婚したりして、周囲の環境がカントリーづいていたというのもあったようです。
このアルバムの輸入盤には、「注意、このアルバムはカントリー&ウエスタンが含まれています。了見の狭い人は拒否反応をおこすかもしれません」という嫌味たっぷりの警告ステッカーが貼られるなど、聴く人を選ぶアルバムではありましたが、全英では7位に入っています。
カントリーが大好きなアメリカでは売れたんじゃないかな、と何となく思っていたのですが、調べてみたらビルボードでは50位と低調だったようですね。さすがにバラードのカバー集というコンセプトは地味すぎたんでしょうか。


Elvis Costello & The Attractions - A Good Year For The Roses


『Almost Blue』からのシングル。全英6位。
前述したジョージ・ジョーンズのカバーで、カントリーの名曲らしいです(カントリーに詳しくないのでよく知らない)。
夫婦の別れのシーンで、コーヒーカップに残された口紅から、出て行く彼女への思いを綴った内容の曲で、カントリーを知らない人でもすんなり聴けるんじゃないでしょうか。
まあカントリーだ何だと言っても、声はコステロですからね。当時カントリーのカバーだということを知らなくて、普通にコステロの作品だと思って聴いてましたっけ。


『Almost Blue』でミュージシャンとしてのエゴを出し尽くしたコステロは、今度はビートルズの『Revolver』『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』『The Beatles』(ホワイト・アルバム)『Abbey Road』でエンジニアを務めたジェフ・エメリックをプロデューサーに迎え、82年に7thアルバム『Imperial Bedroom』をリリースします。
このアルバムはエメリックならではのレコーディング・マジックが満載されるなど、ストレートなビートルズへのオマージュの要素に溢れた、ある意味実験的な作品でした。全英6位、ビルボードでは30位。
アップテンポなジャンプ・ナンバーがなく、そのため地味な印象なのは否めないですが、ジ・アトラクションズとのコンビネーションは円熟期を迎え、唸るものがありますね。


Elvis Costello & The Attractions - You Little Fool


『Imperial Bedroom』からのシングル。全英52位。
ビートルズへのリスペクトが窺えるアレンジと、いかにもコステロらしいメロディが印象的な佳曲です。
ただこの曲をシングルにするには、従来の路線を求めるレコード会社からの要請があったそうで、本人は別の曲をシングルにしたかったようなんですが。


Elvis Costello & The Attractions - Party Party


82年にコステロが映画『Party Party』のサントラ用に書き下ろした曲。全英48位。
この映画は日本で公開されませんでしたが(ビデオは出たらしいけど観てません)、サントラ自体は国内発売され、僕もコステロやスティング、マッドネス、バナナラマミッジ・ユーロ、オルタード・イメージ、デイブ・エドモンズ、モダン・ロマンス、ポーリン・ブラック、バッド・マナーズといった豪華なメンバーに惹かれて買いましたっけ。
サントラの中でオリジナル曲を歌っていたのはコステロとマッドネスだけなんですが(バナナラマセックス・ピストルズの『No Feeling』をカバーしていて、それはそれで笑えた)、両曲とも良い出来でしたね。それだけでも買った甲斐はありました。
曲はいかにもパブ・ロックらしいシンプルな演奏に乗せたコステロ節で、聴いていて安心します。


この後もコステロはアルバム毎に振幅の大きい音を出し続けていくのですが、それについてはまた次回に。