プライマス

前回名前をちょこっと出したので、今回はアメリカきっての変態的な音を出すバンド、プライマスを取り上げてみることにします。
とにかく異常な音なので、どん引きする人も多いかと思いますが、気にせず書くことにします。何故なら自分はこのバンドが大好きなんですよ。
類は友を呼ぶといいますか、自分の友人にもこのバンドが好きな人が2人います。まったくと言っていいくらい大衆性のない音なのに、狭い関係性の中(友達少ないもので)に3人好きな人がいるというのは、かなりすごいことなんじゃないかと思っているのですが。
このバンドの特徴は、レス・クレイプールの放つ非常識なくらいのベースプレイ(上手過ぎてメタリカのオーディションを落とされたという逸話もある)とひしゃげた声、そしてそこから生まれる歪んだユーモアと狂気じみた雰囲気でしょうか。
彼らはオルタナのムーブメントから出てきたバンドではあるのですが、ベース、ギター、ドラムともそのテクニックは抜群でなおかつプレイがユニークなので、プログレの一種に分類してしまうことも可能でしょう。
しかしプログレのように堅苦しくもったいぶったところはなく、どちらかというと飄々としているのが良いですね。知性とバカバカしさを兼ね備えた独特の不思議な音は、フランク・ザッパあたりの血を引いているのかもしれません。


プライマスはクレイプール(ベース、ヴォーカル)を中心として、84年にカリフォルニア州バークレーで結成されました。
もともとはPrimateという名前だったのですが、同名のバンドがいるということで、プライマスラテン語で「僧侶」という意味だそう)という名前に変更しています。
メンバーは最初流動的だったのですが、活動しているうちにスラッシュメタルバンドで活動していたラリー・ラロンデ(ギター、あのジョー・サトリアーニの弟子らしい)、ティム・アレキサンダー(ドラムス)というラインナッブが固まり、ベイエリア中心に活動範囲を広げていきます。
そして89年にインディーズから『Suck On This』(ライブアルバムで、しかも1曲目からあのラッシュのカバーというものすごさ)でデビューし、好評を得ました。
このアルバムで個性が認められ、ワーナー傘下のインタースコープ・レコードと契約し、91年にはアルバム『Sailing the Seas of Cheese』でメジャーにも進出することとなるのです。


Primus - Tommy The Cat


『Sailing the Seas of Cheese』に収録された、彼らの代表曲。
6弦ベースでのスラッピング、タッピングなど、クレイプールの異常なベースプレイが存分に味わえる曲ですね。これを聴けばプライマスがどんなバンドなのか、すぐ分かるのではないでしょうか。
またベースばかりが語られることが多いですが、メタルの影響を受けているのが明らかなラロンデのギタープレイも何気にものすごく、アレキサンダーのドラムもしっかりツボを押さえていて、三者のアンサンブルが驚愕の音世界を作り上げています。
なおこの曲は、同年のアメリカ映画 『Bill & Ted's Bogus Journey』 (邦題は『ビルとテッドの地獄旅行』)のサウンドトラックにも収録されています。


Primus - Jerry Was A Race Car Driver


これも『Sailing the Seas of Cheese』からのシングル。ビルボードオルタナチャートで29位を記録しています。
異様なリズムとパーカッシブなベースプレイが光る、オリジナリティ溢れる曲です。


Primus - Making Plans For Nigel


92年のカバーアルバム『Miscellaneous Debris』からのシングル。ビルボードオルタナチャートで30位。
この曲は言わずと知れた、XTCの『がんばれナイジェル』のカバーですね。これをカバーするセンスからして素晴らしい。
基本的には原曲に忠実なんですが、ベースは終始ブリブリ言ってて、ああプライマスだなあと思わせてくれます。原曲を殺すことなく、自分たちの個性も十分に主張しているのはさすがですね。
なお彼らはカバーに定評があり、ピーター・ガブリエルの『Intruder』『The Family and the Fishing Net』、ピンク・フロイドの『Have a Cigar』、XTCの『Scissor Man』、ポリスの『Behind My Camel』、メタリカの『The Thing That Should Not Be』、レジデンツの『Sinister Exaggerator』など、渋いところをカバーしています。


Primus - My Name Is Mud


93年のアルバム『Pork Soda』からのシングル。ビルボードオルタナチャートで29位。
この曲もいかれたベースとギターが大爆発しており、ユニークさはピカイチですね。


Primus - Mr. Krinkle


この曲も『Pork Soda』からのシングル。
コントラバスを使ってノイズを引き出している、コミカルなような暗いような不思議な曲です。
サーカス仕立てのPVも、摩訶不思議で面白いです。


Primus - Wynona's Big Brown Beaver


95年のアルバム『Tales from the Punchbowl』からのシングル。ビルボードオルタナチャート35位。
タイトルを見た時は、また何とも卑猥な、と思ったものですが。何しろ「Beaver」は女性器のスラングですから、ウィノナのでかくて浅黒いおま×こって意味に取れますし。
またご丁寧なことに、歌詞もダブル・ミーニングを使って、卑猥な意味に受け取ろうと思えばそれが可能になっています。
当時「Wynona」というのは、当然誰もがウィノナ・ライダーのことだと思った(男癖が悪いので有名でしたし)んですけど、クレイプールはスペルが一文字違うとして、それを否定しています。
しかし当時のライダーのボーイフレンドだったソウル・アサイラムのヴォーカリスト、デヴィッド・ビルナーは、さすがに怒ってコンサートでこの歌を、『Les Claypool's A Big Fucking Asshole』に変えて歌うという反撃に出ていましたっけ。
もう一つ余計な話をしますと、昔日本にもhide with Spread Beaverなんて名前のバンドがありましたね。この名前は絶対海外では発売できないだろ、と当時思った記憶があります。まあhideは海外用にzilchというユニットも組んでましたけど。ちなみに自分はX JAPANには興味ないですが、hideのソロは好きでした。
と話が飛びまくってしまいましたが、この曲はブラックユーモアのようなものを感じる変なサウンドと、カラフルな悪夢のようなPVが印象的です。


『Pork Soda』が全米7位、『Tales from the Punchbowl』が全米8位を記録するなど、彼らの音楽はその大衆受けしそうもなさそうな感じからは、とても信じられないくらいヒットします。
96年にはドラムスがブライアン・マンティアに交代しますが、その後もアニメ『South Park』にテーマソングを提供するなど、順調に活動していきます。


Primus - The Devil Went Down To Georgia


98年にリリースしたシングル。前回取り上げたチャーリー・ダニエルズ・バンドの『悪魔はジョージアへ』のカバーですね。
あまりにも原曲に忠実なカバーで、彼らの最大の特徴である変態的なベースが入っていないので、逆に拍子抜けします。
でもPVは質のいいクレイアニメで、観ていて面白いですが。


Primus - Poetry and Prose


98年のコンピレーション・アルバム『The Beavis and Butt-Head Experience』に収録された曲。
一応説明しておきますが、『Beavis and Butt-Head』というのはかつてMTVで放送されたテレビアニメです。
このアニメはビーバスとバットヘッドという二人の悪ガキが、挿入されるいろんなPVを独断で褒めたり、めちゃくちゃにけなしたりするという内容でした。
そのあまりの無軌道ぶりに一部ではかなり顰蹙を買ったのですが、歯に衣着せぬ毒舌には人気があり、映画化もされましたっけ(日本語版吹き替えはロンドンブーツ1号2号がやってた記憶が)。
プライマスの曲はこのために書き下ろされたものなのか、歌詞でも『Beavis and Butt-Head』に言及しています。
疾走感があって、個人的には気に入っている曲ですね。


Primus - Lacquer Head


99年のアルバム『Antipop』からのシングル。
ミクスチャーに寄った感じのサウンドですが、ベースはやはりプライマス節ですね。


しかしついにバンド活動に飽きたのか、プライマスは00年に解散(クレイプールは「昼寝」と表現した)してしまいました。
クレイプールのその後の活動から察するに、バンドという枠組みに退屈してしまったというのが一因なんだと思います。


その後クレイプールは様々なミュージシャンとセッションしたり、ソロ名義で活動したりしていました。
一時は元ポリスのスチュワート・コープランド(ドラムス)、フィッシュのトレイ・アナスタシオ(ギター)と、オイスターヘッドというジャム・バンドも結成していました。


Oysterhead - Oz Is Ever Floating


これがオイスターヘッドのスタジオライブです。
個人的な印象ですが、グレイトフル・デッドっぽいプライマスって感じですね。コープランドハイハットを多用するドラミングも健在です。



これはガンズ・アンド・ローゼズでの活動でも有名なギタリスト、バケットヘッドとの共演です。
仮面をしてケンタッキー・フライドチキンのバーレルを被り、オール黄色の服というバケットヘッドの風体があまりに異常なのでそっちに目を奪われがちですが、音もかなりイッちゃってる感じがしますね。
ちなみにドラムスはプライマス時代の仲間であるブライアン・マンティア、キーボードはパーラメントトーキング・ヘッズなどでの活動で知られるバーニー・ウォーレルのようです。


こうしてあちこちで活動していたクレイプールですが、またモチベーションが甦ったのか、03年にはラロンデとアレキサンダーを呼び戻し、プライマスを再結成させました。
10年にはドラムスがジェイ・レイン(バンド創成期のメンバーだった)に交代しますが、活動自体は活発で、11年に復活作『Green Naugahyde』をリリースする他、ベスト・アルバムやライブDVDもリリースしています。