イッツ・イマテリアル

いつもは土曜日に更新してるんですが、今回は亡き父の三回忌があるため、金曜日に簡単な更新をしてお茶を濁します。
最近お茶を濁すことが多くないか、と思われる向きもあるかと思いますし、実際そのとおりなんですが、書くときには時間をかけてちゃんと書きますので、ご勘弁頂けるようお願い致します。
とたっぷり言い訳をしたところで、今回もスタートです。


今回取り上げるのは、ちょっとマイナーですがイッツ・イマテリアルです。
寡作ですが良質なポップを作り上げる職人的なユニットとして、ブルー・ナイルと並び称される人たちですね。まあブルー・ナイル自体あんまり知っている人がいなさそうですが、こういう人たちなので聴いて頂けると幸いです。
イッツ・イマテリアルは80年に英国リバプールで、ジョン・キャンベル(ヴォーカル)、ジャーヴィスホワイトヘッド(ギター、キーボード)、ヘンリー・プリーストマン(キーボード)の3人で結成されました。
メンバーのうちキャンベルとプリーストマンは、70年代にヨッツというバンドでデビューし、2枚のアルバムを出しています。
もしかしたら後々ネタにするかも知れませんから詳しく説明はしませんが、初期のエルヴィス・コステロによく似たパワー・ポップのバンドでしたね。
そして80年にヨッツ解散後、キャンベルとプリーストマンはホワイトヘッドを加え、3人でイッツ・イマテリアルを結成するのです。


その年のうちにシングル『Young Man Seeks Interesting Job』でインディーズからデビューした彼らは、ゆっくりとしたペースでぽつぽつとシングルを出していきます。


It's Immaterial - White Mans Hut


83年のシングル。
ヨッツの音にアコースティックな側面とエレポップ的な側面をブレンドし、独自の世界を作りかけています。
まだ詰めや練り込みが甘く未熟なサウンドではあるんですが、今聴くとその後の成長の萌芽が見えるようで興味深いです。


これらはヒットこそしなかったものの、一部のファンからの評価は高く、85年にはついにヴァージン傘下のサイレン・レーベルと契約し、メジャーデビューを果たすのです。
そして86年にリリースされた1stアルバム『Life's Hard And Then Die』は、ソウルやエスニックの要素を巧みに織り込みつつ、リリカルな世界観を形成することに成功した傑作となるのです。


It's Immaterial - Driving Away From Home


『Life's Hard And Then Die』からのシングル。全英18位のヒットとなっています。
寂しげな曲調と歌詞、基本トーキングスタイルでサビだけメロディーを歌うヴォーカルが印象的な曲です。
スパニッシュっぽいギターやピアノ、ハーモニカなどを使ったアコースティックな感覚と、打ち込みリズムによるエレポップ感覚とが絶妙な整合感で混ぜ合わさったサウンドは、非常に完成度が高いと思います。


It's Immaterial - Ed's Funky Diner(Friday Night Saturday Morning)


これも『Life's Hard And Then Die』からのシングル。全英65位。
ギャリーとラッセルのクリスチャン兄弟がゲストとして参加し、非常にソウルフルなサウンドに仕上がっています。
これはブラック・ミュージックへの憧憬が強かった、プリーストマンの色がより濃く出た作品なのかもしれません。


しかしこのアルバム作成時に出会ったクリスチャン兄弟に魅せられたプリーストマンが、彼らと行動を共にするため脱退してしまいます。
クリスチャン兄弟とプリーストマンは、後にクリスチャンズを結成してブレイクするのですが、それについては機会があったらまた書いてみたいですね。
そして2人になってしまったイッツ・イマテリアルは、ただでさえリリースが少なかったのがさらに寡作になってしまい、何をしているのかよく分からなくなってしまいます。
しかしそれでも相当難儀しつつ、90年に2ndアルバム『Songs』をリリースし、復活を果たすのです。


It's Immaterial - New Brighton


『Songs』からのシングル。
ブラック・ミュージック的な要素は影を潜め、かなり叙情的な音になっています。
特にカラフルさはかなり減退しており、音の色合いの濃淡のみで世界を表現するという、いわば水墨画のような境地に達していて、キャッチーさに欠けるところはありますが、好きな人にはたまらない世界でしょう。


It's Immaterial - New Moon


コンピレーションアルバム『Unearthed Liverpool Cult Classics Vol.1』に収録された曲。
シンプルながら叙情的かつメロディアスで、いかにも彼ららしい曲です。途中のハーモニカが魅力的ですね。


しかし2ndアルバムは商業的に不発に終わりました。世はダンサブルなマンチェスターサウンドが主流でしたから、時期も悪かったのでしょう。
その後彼らの活動は極端に少なくなり、92年頃以降は何をやっているのかまったく情報が入らなくなってしまいます。
ただ正式な解散宣言は未だにされていないため、先達のブルー・ナイルのように忘れた頃に突然新作を発表する、なんてこともあるんじゃないかと思ってしまいますね。
まあ20年以上も音沙汰がないのですから、自然消滅したと考えるのが普通なんでしょうけど、世の中ってまさかってことが時々起こりますから。期待せずに待ってます。