ポール・マッカートニー

今日も肘がちょっと痛いので、短めの更新になりますが御了承下さい。
まあ前回もそんなことを言っておいて、後で見たら結構な量を書いていたんで、あまり当てにはならないんですが、極力短くするように努力はしますので。


前回超大物がニューウェーブテクノポップに接近した、と書きましたが、それは誰かと言いますと、あのポール・マッカートニーです。
このブログを読んでいる人で、ポールを知らない人はさすがにいないんじゃないでしょうか。それくらい有名な人です。ローリング・ストーンズと並ぶリビング・レジェンドですね。
そのポールがニューウェーブを多分に意識したであろうアルバム、『McCartney II』をリリースしたのは80年の5月です。
この年の1月、ポールはウイングスとして来日した際、成田空港の税関で大麻取締法違反の現行犯として逮捕されるという、何ともみっともない事件を起こしています。このアルバムはその名誉挽回か、と当時思っていたんですが、実際は前年にプライベート・スタジオで、たった一人で録音したものなんだそうですね。
このアルバムはポールの10年ぶりのソロアルバムという話題性もあり、英国で1位、ビルボードでも3位の大ヒットとなったんですが、内容は正直賛否両論でした。
理由は前述したようにニューウェーブテクノポップの影響下にあったからでしょうね。保守的なファンからは「よせばいいのに」と言われ、批判的な人々からは「そうまでして売りたいか」という反応が出ましたから。
ただ個人的にはジョン・レノンのように何もしてなくても、伝説のアーティストとして一生左団扇で暮らせるはずなのに、あえてこの路線に挑戦するというところに、ポールの音楽家としての矜持と強い好奇心を感じ、今までどちらかと言うとアンチポール派だったのが支持派に回ったんですが。


Paul McCartney - Coming Up


80年リリースの先行シングル。全英2位を獲得しています。
なおビルボードでは1位に輝いているんですが、それは実はウイングスによる79年のライブ演奏バージョンなので、厳密には彼のソロではなかったりします。
実はポールがソロ名義でビルボード1位を獲得しているのは、このシングルだけ(スティービー・ワンダーマイケル・ジャクソンとのコラボでは2回1位を記録している)なんですが、そのへんどうなるんでしょう。複雑ですね。
曲は何とも軽妙でとぼけた感じに仕上がっています。ヴォーカルにエフェクターがかかっているところが、ポール流のテクノの消化なのかもしれませんね。
それとあのジョン・レノンがこの曲を非常に気に入っており、これを聴いて再起への意欲を燃え立たせていたそうです。いろいろ言われる二人の関係ですが、こと音楽に関しては双方認め合うライバルであったということなんでしょう。
あと特筆すべきところは、PVに異常に力が入っているところでしょうか。ポール以外の登場人物は11人いますが、当時の奥さんのリンダ以外は全部ポールが有名ミュージシャンの扮装をしています。
バディ・ホリーフランク・ザッパジンジャー・ベイカー、アンディ・マッケイ(ロキシー・ミュージック)、ロン・メイル(スパークス)あたりをノリノリで演じているポールは微笑ましいですね。
処理技術は今の目で見ると稚拙なところもありますが、相当手間はかかっているんじゃないでしょうか。当時MTV大賞があったら、受賞は間違いないんじゃないかと思います。


Paul McCartney - Waterfalls


『McCartney II』からの2ndシングル。全英9位のヒットとなっています。
とにかくメロディが非常に美しく、ポールの数多ある曲の中でも上位に入るであろう叙情的な曲です。エレポップっぽいシンプルなアレンジも、メロディーの良さを際立たせています。
個人的には80年代のポールの曲では、この曲が一番好きなんですよね。これを言うと必ず「地味だ」って言われちゃうんですが。


Paul McCartney - Temporary Secretary


『McCartney II』からの3rdシングル。英国で2万5千枚限定でリリースされた12インチシングルで、チャートには入ってません。
これはもうどこからどう聴いてもテクノポップですね。ここまで露骨にテクノポップするとは思ってなかったので驚きでした。
印象的な16分音符のシーケンスパターンは、もともとポールが使っていたシンセサイザーにプリインストールされていたものをそのまま使ったそうですね。これがドラッギーな効果をもたらしてくれます。
しかしアコースティック・ギターのパートを聴くと、パワーポップのようにも聞こえますし、なかなか不思議な曲です。


前に挙げた三人は、ニューウェーブやテクノに挑んで玉砕した感じですが、ポールの場合は見事なくらいマッカートニー・サウンドとして消化していて、まったく違和感なく聴けるのがすごいです。
最新の方法論とポップが見事に融合している感じなんですよね。このへんは稀代の天才ミュージシャンでありコンポーザーであるポールの才能の成せる業なのかもしれません。
以後の彼には個人的に興味はないのですが、この頃のポールは才能と普遍性と進取性を兼ね備えた、唯一無二のものすごい存在だったですよ。
この頃のポールをリアルタイムで体験できて、本当に幸運だったと思っています。