アダム&ジ・アンツ

いつもは土曜日に更新しているんですが、当日ちょっと所用があって一日早く更新します。
今回は英国で一世を風靡し、日本でもティーンの女の子に人気のあったアダム&ジ・アンツを取り上げてみようかと思います。
個人的にこのバンドのデコラティブなファッションセンスや、フロアタムをズンドコ鳴らすジャングル・ビートは好きだったんですよね。
見た目が明らかにイロモノですし、どう考えても一発屋以外の何者にも見えなかったこともあって、彼らが好きと発言するとよくバカにされたものですが、絶頂期の音とファッションは斬新だったと思うんですよ。
そう考えていた人は自分以外にも多かったみたいで、マイケル・ジャクソンやプリンス、沢田研二ヴィジュアル系バンドにも多大な影響を与えています。


彼らは77年、スチュワート・ゴダードことアダム・アントを中心として結成されました。
最初の頃はグラムの要素を取り入れた、冴えないパンクバンドだったんですが、78年にあのデレク・ジャーマン監督の商業デビュー作で、現在カルト的な評価の高いパンク映画『Jubilee』(邦題は『ジュビリー/聖なる年』)に出演し、サントラにも2曲が収録されたことで注目され、79年にデビューを果たします。
当時彼らが目指したのは、パンクのシンプルで勢いのあるサウンドに、オルタナティブな音楽要素とグラマラスなヴィジュアルを織り交ぜてのシアトリカルな表現だったようです。
ただインディーズであったこと、そしてサウンドが暗かったこと、何より彼ら自身の力不足もあって、成功には結びつかなかったのですが。


Adam & The Ants - Young Parisians


彼らのデビューシングル。
妙にデカダンな香りのするアコースティック・スウィングって感じで、自分の知っているアダム&ジ・アンツの音とはだいぶかけ離れています。
グラムの影響の感じられるところなどなかなかの珍味ですが、ブレイクするような音ではないですよね。
ちなみにこの曲は、のちにバウ・ワウ・ワウで活躍するマシュー・アッシュマン(ギター)とデイブ・バルバロッサ(ドラムス)、そして後にモノクローム・セットに参加するアンディ・ウォーレン(ベース)という僕好みのメンバーで録音されています。
この曲は発売当時は売れませんでしたが、グループがブレイクした80年に再リリースされ、全英9位のヒットとなっています。


Adam & The Ants - Zerox


79年にリリースされたシングル。デビューアルバム『Dirk Wears White Sox』にも収録されています。
サーフ・ロックのようなギターリフと、いかにもニューウェーブな感じの音のマッチングが面白いですね。
色とりどりのライトをバックにアダムが踊りまくるだけのPVは、ちょっとグラムロックのパロディっぽいところもあって、安っぽいとはいえインパクトはあります。
これも81年に再リリースされ、全英で45位を記録しています。


しかし売れ行きは今ひとつパッとせず、おまけにアダムのワンマンぶりに辟易してメンバーが全員脱退してしまうなど、バンドは低迷を続けます。
これではまずいと思ったのか、アダムが白羽の矢を立てたのが、あのセックス・ピストルズの陰の立役者であり、山師と悪名高いマルコム・マクラーレンでした。
マクラーレンはまず壊滅状態だったバンドにメンバーを補充しました。そこで彼が連れてきたのが、後にアダムの片腕的存在となるマルコ・ピローニです。
ピローニはあのシド・ヴィシャスの友人でもあり、その縁でスージー&ザ・バンシーズの初期のメンバーでもあったという経歴の持ち主で、ソングライティングの才能を発揮し優れた楽曲を生み出します。
ここで導入されたサウンドは、二人のドラマーを擁したエスニックなアフリカン・ビート、ピローニの奏でるマカロニ・ウエスタンっぽいギター、野太いコーラスやかけ声という、他に例を見ない斬新なものでした。
またマクラーレンは、当時の自分の彼女だったヴィヴィアン・ウェストウッドのデザインによる、海賊ファッションに身を包むことを提案します。これを受け入れた彼らはネイティブ・アメリカンっぽいメイクも施し、ティーン向けのルックスを持ったアイドル的な外観に生まれ変わりました。
こうしてよりキャッチーでポップな路線に変貌を遂げた新生アダム&ジ・アンツは、80年リリースのアルバム『Kings of The Wild Frontier』(邦題は『アダムの王国』)で、ポップスターとして大ブレイクを果たすのです。


Adam & The Ants - Kings of The Wild Frontier


新生アンツの第一弾シングル。邦題は『略奪の凱歌』。
80年に全英48位を記録して彼ら初のチャートインを果たし、81年には再度チャートインし全英2位という大ヒットとなっています。
荒々しいジャングル・ビートと、勇ましいかけ声が印象的な曲で、聴くと今でも妙に気分が盛り上がりますね。
PVは低予算にも程があるって感じで、今見ると海賊コスプレをした男たちが、白一色の狭苦しい部屋で演奏しているだけなのが、貧乏臭くて笑えます。


Adam & The Ants - Dog Eat Dog


80年のシングル。全英4位。
『Kings of The Wild Frontier』と同系統の曲ですが、これも合いの手がカッコいいですね。
アダムのヴォーカルもワイルドで男臭いところがなかなかです。


Adam & The Ants - Ant Music


80年のシングル。全英2位。
ドラムのスティックやリムを叩いてチャカチャカとリズムを刻む、和太鼓のようにも聞こえるイントロからして好きでしたねえ。
曲自体は単純ノリノリ系ですが、トーキングスタイルを織り交ぜたアダムのヴォーカルと、ピローニのギュイーンというギターで変化をつけているところもカッコいいです。


ちょうどニュー・ロマンティックのブームと合致したのが幸いしたのか、アルバム『Kings of The Wild Frontier』は全英で12週連続で1位になるほどの大ヒットになり、彼らは一躍時代の寵児と目されるようになりました。
日本でも女の子を中心に人気があり、ミュージック・ライフ誌が彼を主人公にした少女マンガを載せたくらいでしたから。自分はそれを見てこの雑誌に見切りをつけましたけどね。
こうしてスターダムにのし上がったアダム&ジ・アンツですが、ここでマクラーレンがバウ・ワウ・ワウ結成のためにメンバーを引き抜くという挙に出ます。
これを機にアダムはマクラーレンと手を切るのですが、もともと超ワンマンで自分大好きなナルシストのアダムと、彼らを手駒としてしか考えていなさそうな曲者マクラーレンでは関係が長続きするとも思えず、どのみち決別は避けられなかったでしょうね。
アダムとピローニはメンバーを集めて新生アンツを結成します。その中にはヴァイブレーターズやロキシー・ミュージックで弾いていたゲイリー・ティブス(ベース)もいましたっけ。
こうして陣容を立て直したアダムは、海賊ファッションからヨーロッパ中世の王子様チックな扮装に改め、81年に3rdアルバム『Prince Charming』をリリースしました。


Adam & The Ants - Stand And Deliver


新生アンツの第一弾シングル。81年に全英1位を記録しています。
まだ前作の路線を引きずっているアフリカン・ビートと、ポップなメロディーがうまくマッチし、彼らの曲の中では最も聴き易いのではないでしょうか。
PVも急に予算が増加した感じで、映像がクリアかつゴージャスになっています。まあ悪趣味なところも倍増していますけど。


Adam & The Ants - Prince Charming


81年のシングル。これも全英1位の大ヒットとなっています。
この曲になるとサウンドも新しい路線になっています。大仰でグラマラスなところは変わっていませんけど。
PVはアダムによるシンデレラ・ストーリーという、最高にバカバカしい逸品ですね。
後半クリント・イーストウッドアリス・クーパーアラビアのロレンス、怪傑ゾロ(だと思う)と次々にコスプレしていくアダムは見ものです。


Adam & The Ants - Ant Rap


これも81年のシングル。全英3位。
なんとアダムがラップに挑んでいます。まあ彼のヴォーカルはもともとトーキング・スタイルを多用する側面もあったのですが、ここまで全面的に導入するのは当時としては斬新でした。
しかしこれもサウンドよりもPVのものすごさが印象に残ってしまいますねえ。もうここまでくるとギャグとしか思えないレベル。
前にも紹介したテンポール・チューダーを髣髴とさせる中世の甲冑からアメフト・スタイル、そしてブルース・リーへと意味不明の変身を見せるアダムがバカ過ぎてたまりません。


人気絶頂だったアダム&ジ・アンツでしたが、82年に入るとすぐに解散してしまいます。
その理由は知る由もありませんが、もとよりあのスタイルが長続きするわけはないというのは、利口なアダムなら分かっていたでしょうし、なら先手を打って新しい方向へ、と考えたのかもしれません。
とにかくアダムはピローニの協力を得て、ソロシンガーへと転向します。


Adam Ant - Goody Two Shoes


82年リリースのソロ第一弾。これもやはり全英1位となった他、ビルボードでも12位を記録しています。
この曲が彼のソロデビュー曲と公式にはされていますが、実は初期ロットはアダム&ジ・アンツ名義になっていました。ここから分かるように、バンドはかなり急に解散したようですね。
サウンドはアンツの頃のジャングル・ビートから一転して、ロカビリーの要素を取り込んでアメリカ受けを狙っている感じがします。
個人的には物足りないサウンドですが、より幅広い層からの人気を得るためには、当然の選択だったのでしょうね。


【追記】

SMAPが出てるソフトバンクのCMに、『Goody Two Shoes』が使われてますね。
本文では物足りないサウンドと書きましたが、改めて聴くとなかなかカッコいいです。


その後アダムは音楽活動を続けつつ俳優としても活躍し、英米で多くの映画やテレビドラマなどに出演していましたが、やがて活動は収縮していきます。
ただいつからか双極性障害を病み、02年にはロンドンのパブでピストルを振り回して暴れたため、警察に拘束されて精神病院に入れられたのですが、そこからわざわざ自分でサン誌に電話して
「警察は僕の頭がおかしいと思って、『不思議の国のアリス』病棟にぶち込みやがった。やつらはまたしても僕を誘拐していった」
などと意味不明な訴えをしたことで、再び話題となりました。
その後もキリスト教徒に対し差別的発言を行なうなどトラブルは絶えず、昨年はあのリアム・ギャラガーともトラックの使用をめぐって揉め(内容を調べてみると、アダムの被害妄想である可能性大)、毒舌で知られるリアムから
「メイクをするような野郎は好きじゃないんでね。特に頭のおかしいやつはなおさらだよ。だからこう言っとけよ、『頭のおかしいやつなんざ、てめーだけじゃねえんだよ。やるんならやるぞ、いつでも来いよ、このカウボーイ野郎』ってな」
と思いっきり言われてしまいました。
それでも愛する娘のために病気と懸命に戦い、体調の良い時には精神病患者のスポークスマン的な発言もしているのですが、薬の影響か現在は見る影もなく太っていて、写真を見ると悲しくなります。