ストラングラーズ

前回の続きです。
『Black And White』での重戦車の如き怒涛のサウンドで、人々の度肝を抜いた彼らですが、同じ年には早くも新たな方向に進み始めます。
贅肉を全てそぎ落としたような無駄のない、暴力的なくらいストレートなサウンドから、流麗なメロディーやキャッチーなリフを満載し、そこにさらに先鋭的・実験的な要素を混ぜ合わせたような音に変貌していったのです。


The Stranglers - Walk On By


78年にリリースしたシングル。全英で21位のヒットとなっています。
これはあのバート・バカラックが作曲したディオンヌ・ワーウィックのヒット曲ですが、お馴染みのオルガンを存分にフィーチャーして、サイケデリックな味のカバーに仕上げています。


79年には4枚目のスタジオアルバム『The Raven』をリリースし、全英4位に送り込んでいます。
『Black And White』をモノトーンに例えるならこのアルバムは多色刷り、といった色合いで、ヒリヒリした緊張感を持つ前作と比べると、ユーモラスな感さえ漂う作風となっています。
またオリジナル・リリース時には、ジャケットを飾るカラスの絵に立体写真が使われていましたが、これは日本の技術によるもので、その仕上がりをチェックするために、わざわざヒュー・コーンウェルは来日までしていたそうです。


The Stranglers - Duchess


『The Raven』からのシングル。全英14位を記録しています。
軽快で耳馴染みのいい曲調とうねうね続くオルガンの音色、そして英国の身分制度を思いっきり皮肉った歌詞が面白い曲です。


The Stranglers - Nuclear Device


これも『The Raven』からのシングル。全英では36位の中ヒットでした。
非常にポップな音と、核実験やオーストラリアを皮肉った歌詞、そして脱力感すら漂う間抜けなPVが印象に残ります。


The Stranglers - Don't Bring Harry


これも『The Raven』からのシングル。全英41位。
ヒューが麻薬所持で逮捕され、実刑を食らったことから生まれた曲で、麻薬の虚しさを擬人化して歌っています(Harryは麻薬の隠語)。
美しいピアノをフィーチャーした、底なしの暗さがたまらない一曲ですね。


The Stranglers - Bear Cage


80年にリリースされたシングル。全英36位。
クラフトワークジョルジオ・モロダーらの初期テクノポップに影響されてできたナンバーで、ユーモラスな感じさえするサウンドと曲調ですが、歌詞は人生を熊の檻に例えていてなかなか重いものがあります。


The Stranglers - Who Wants The World


これも80年にリリースされたシングル。全英39位。
こちらは『Bear Cage』とはうって変わって、緊張感に溢れたいつものストラングラーズ節。定番のうねうねしたオルガンは、ファンにはたまらないものがあります。


そして彼らは81年、問題作となる『The Gospel According To The Meninblack』(邦題は『メニンブラック』)をリリースしました。
アルバムの内容は有名な映画とは関係なく、内容はほぼ全面的に強烈なキリスト教批判で覆われています。サウンドも相変らずベースの音こそ激しいものの、キーボードの音を前面に出し、ヴォーカルも抑揚なく虚無的な響きで終始歌われています。
このアルバムは日本ではまったく理解されず、セールス面ではかつてはオリコントップ10に入った人気バンドとは思えないほどの惨敗を喫しました。このアルバム以降日本での彼らの人気は急落します。
しかし本国では8位を記録し、彼らがただのパンクバンドではなく、高い思想性や精神性を持っていると再評価されるきっかけにもなっています。


The Stranglers - Thrown Away


『The Gospel According To The Meninblack』からのシングル。全英42位。
おもちゃのようなチープなオルガンの音に乗せて、ジャン・ジャック・バーネルが抑揚のない虚ろな声で「俺たちは全てを放り投げた」と歌う様は、逆に不気味な迫力があります。


このあたりでふっ切れたのか、以後ストラングラーズは初期のイメージからは考えられない路線へと進んで行くのですが、それはまた次回に持越しです。