プロパガンダ

仕事が山を越えたので、そろそろ週2回更新くらいのペースに戻そうかと思いまして、つべでネタ探しをぼちぼち始めています。
というわけで、今回はプロパガンダを取り上げることにしましょう。と言ってもあまりメジャーな人たちではないので、知らない方も多いでしょうけど。
彼らは名プロデューサーのトレヴァー・ホーン率いるZTTレーベルに所属していて、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドアート・オブ・ノイズに続く3枚目の看板でした。
ZTTからリリースされるアーティストは、いったいどこから探してきたんだろうと思うような、不思議な存在感や音楽性を持った人たちが多かった印象がありますが、彼らはその最右翼でしたね。面白いユニットでした。


彼らはドイツのデュッセルドルフで結成された、男女2人ずつの4人組です。
若さに似合わぬ(デビュー当時まだ19歳だった)独特の暗さを持つクラウディア・ブラッケンのヴォーカルと、実際英国マスコミに「ABBA from Hell」と例えられたというポップセンス、いかにもドイツらしい映像的で重厚なエレクトリック・サウンドが特徴で、本国のみならずイギリスやフランスでもヒットを記録しました。
またZTTのアーティストには珍しくライブにも力を入れていて、ヨーロッパのみならずアメリカでもツアーをしていました。ただし中心人物のラルフ・ドルパー(キーボード。ディー・クルップスにも在籍経験がある)は、本職が銀行員だったため業務から離れられず、一度もツアーに参加したことはなかったのですが、それはそれで面白いところではありましたね。


Propaganda - Dr. Mabuse


84年にリリースされたデビュー曲。全英27位のヒットとなり、翌年リリースされた1stアルバム『A Secret Wish』にも収められています。
フリッツ・ラング監督の映画で、世界犯罪映画史に残る古典『ドクトル・マブゼ』にインスパイアされたというピカレスク・ソングであるこの曲は、様々な音がコラージュされた実験的な色合いの濃いポップに仕上がっています。
PVはドイツ表現主義を思わせる美麗な映像で、一見の価値はあるんじゃないかと思いますね。ゴシック趣味が好きな方にはお薦めです。


Propaganda - Duel


85年にリリースされたシングル。全英では21位を記録しています。日本では『不思議の国のデュエル』という、こっ恥ずかしい邦題がつけられてしまいましたが。
どちらかと言うとモノクロームデカダンで耽美的な音を持ち味とする彼らにしては珍しい、アイドル歌謡のようなテイストもあるカラフルなポップですね。PVも『Dr. Mabuse』のゴシックな感じとは真逆な、華やかかつ妙な中華風味満載なものになっていますが、監督はウルトラヴォックスのミッジ・ユーロだと聞いてそれも納得。
ちなみにドラムの音は、ポリスのスチュワート・コープランドのドラミングをサンプリングし、一度解体してから再構成して使っているのだとか。


Propaganda - P-Machinery


これも85年にリリースされたシングル。全英では50位の小ヒットでしたが、ビルボードではダンス/クラブ・チャートで10位を記録するヒットとなりました。プロ野球千葉ロッテマリーンズにいた堀幸一選手の登場テーマとしても使われていたので、ロッテファンなら聴いたことがあるかもしれません。
骨太なビートと華麗なシンセ、派手なブラスの組み合わせたトラックに、少し陰のあるメロディとヴォーカルが乗ったエレポップで、なかなかの佳曲だと思いますね。PVもかなり面白いですし。
ちなみに作詞は元ジャパンのデヴィッド・シルヴィアンだそうです。ジャパンは好きだったんで、この名前を聞くと個人的にちょっと興奮します。


立て続けにそこそこのヒットを出して、順調に活動していくかに思われたプロパガンダですが、その後ZTTと版権問題で対立し、かねてからプロモーションの少なさなどで不満も蓄積していたこともあって、わずか2年でZTTを離れることとなります。
しかしヴォーカルのクラウディアは、後に行われたインタビューを読む限りこの離脱には反対だったようで、チェリー・レッドなどでアルバムを出していたトーマス・リアと新プロジェクトのジ・アクトを結成するためプロパガンダを脱退してしまいました。
残されたメンバー(と言ってもこの頃残っていたのは、パーカッションのミハエル・メルテンスだけだったけど)はアメリカ人女性のベッツィ・ミラーをヴォーカルに加え、他にもシンプル・マインズ(懐かしい)から2人の新メンバーを迎えて再スタートを切り、レーベルがなかなか決まらないなどの逆境を乗り越え、90年に再デビューを果たすこととなります。


Propaganda - Heaven Give Me Words


90年にリリースされた2ndアルバム『1234』からのシングル。全英で36位まで上昇しました。
初期のようなインパクトはないのですが、普通に良質なエレポップになっています。作曲はあのハワード・ジョーンズで、往年の勢いの片鱗を見せるかのようないいメロディを書いていますね。
ベッツィーのヴォーカルはクラウディアのような存在感はないのですが、なかなか軽やかで気持ちのいい感じでこれはこれで悪くない気はします。


しかしトレヴァー・ホーンという強力な後ろ盾を失ったのは厳しかったのか、新生プロパガンダの活動は長続きせず、結局自然消滅する形で活動を停止してしまいます。
90年代半ばには再結成の話が持ち上がり、実際にメンバーが集まってアルバムも製作したらしいのですが、寸前で話がこじれてお蔵入りになってしまいました。
その後09年には再度オリジナルメンバーが集結し、トレヴァー・ホーンの25周年記念コンサートで演奏するなどの活動をしていますが、製作中だったはずのアルバムは今だ発表されていないようです。


ちなみに彼らは数多くのバージョン違いやリミックスをリリースし、多彩な音世界を提示することでも知られていました。
それらは非常によくできていて、今のフロアでも十分に使えるレベルなので、未だに当時のアナログ盤を探す人も多いです。かつて時代の最先端だったZTTの面目躍如と言える現象かもしれません。