ディジー・ミズ・リジー

90年代初頭にグランジオルタナが勃興すると、それまで人気のあった正統派のハードロックやヘヴィメタルは、一部の例外を除いては時代遅れの音楽として揶揄されるような存在になりました。
70年代後半のパンクムーブメントの頃も、一時的にそういう状況になったこともありますが、あのときはすぐにパンクのアンチテーゼとしてアイアン・メイデンらが出てきました。でも今回はそういう存在がついに出ることがなく、そのまま現在に至っています。
あの頃はメタルバンドがよせばいいのにグランジっぽい音に接近しようとして、見事に恥を晒す結果になったという惨状をいくつも見てきました。そうせざるを得ないくらい、ジャンル全体が追い込まれていたんですね。
そんな状況だった95年、日本で「ハードロック/ヘヴィメタルの救世主」として一躍話題になったバンドがありました。それがディジー・ミズ・リジーです。


彼らはデンマークのバンドで、94年にデビュー・アルバム『Dizzy Mizz Lizzy』をリリースし、本国だけで22万枚を超える売り上げを記録しています。22万枚って一見たいしたことなさそうですけど、デンマークは人口が550万人くらいの小国ですから、それを考えるとものすごいヒットです。
日本でも伊藤政則が彼らを気に入ってプッシュしていましたが、その甲斐あってか10万枚以上のセールスを叩き出したそうです。欧州の新人バンドにしては、出来過ぎなくらいでしょう。
当時僕もアルバムは買いました。メタルの救世主とかそういうのは別に興味なくて、単にバンド名がビートルズの曲からとっていて(原曲はラリー・ウィリアムズですが)、そこに惹かれたからなんですが。
家に帰ってから聴いてみて、「これはメタルよりむしろUKギターロックとかに近いかも」と思ったんですけど、その転調や変拍子を多用した不思議な味のあるメロディと、トリオゆえに生じるはずの音の隙間をまったく感じさせない絶妙のアンサンブルにはセンスを感じましたね。


Dizzy Mizz Lizzy - Glory


デビューアルバム『Dizzy Mizz Lizzy』に収録されている彼らの代表曲。
ユニークだけどどこか翳りのあるメロディ、切れ味鋭いギター、体にまとわり付くような粘着質のグルーブが非常に印象的でした。
一音下げたヘヴィなチューニングなど、明らかにグランジオルタナを通過しているんですが、ギターソロのスタイルとかはハードロックの、キャッチーなメロはUKロックの影響を感じさせて、すごく面白い曲だなと思いましたっけ。


Dizzy Mizz Lizzy - Silverflame


これも『Dizzy Mizz Lizzy』に収録されている曲。
個性的かつ印象的な、なんとも物悲しいメロディと、じりじりした感情を解放しているかのようなドラマティックなギターソロが素晴らしい、美しい泣きのバラードです。
物憂げでどこか虚ろなティム・クリステンセンのヴォーカルも、なかなかの味を出しています。


彼らは96年に2ndアルバムをリリースし、来日もしましたが、98年に突如解散してしまいました。もっと活躍できるはずだったのにと、とても残念に思ったのを覚えています。
その後ヴォーカルのティムはシンガーソングライターに転進し、本国でヒット曲を出すなど活躍しているそうです。
またバンドも去年期間限定で再結成し、2度の来日を果たしていますが、現在はまた解散しています。