タコ

今回はちょっとキワモノ系です。キワモノの割合が結構高いんじゃない?という声もあるとは思いますが気にしません。
これはでも日本でも売れたんで、知っている人もいるんじゃないかと思います。タコです。タコと言っても山崎春美とは一切関係ありません。そっちはそっちでかなり強烈ですけど。


タコは80年代に『Puttin' On The Ritz』(邦題は『踊るリッツの夜』)というヒットを出したシンガーです。タコって芸名だろと思われるでしょうが、実はこれはれっきとした本名で、タコ・オカースさんという人なんだそうです。
オランダ人の両親との間にインドネシアで生まれた西ドイツ国籍の人、というコスモポリタンな経歴を持っている彼は、最初ドイツのハンブルグでブティックを経営していたともミュージカルの振り付けをしていたとも言われていますが、趣味で20年代や30年代の歌を歌っていたのをスカウトされ、この道に入ったのだとか。
そしてスタンダード・ナンバーをテクノポップのアレンジでカバーするという、ちょっと企画ものっぽいコンセプトでデビューし、フレッド・アステアのカバーである『Puttin' On The Ritz』を大ヒットさせることになります。


Taco - Puttin' On The Ritz


これがタコバージョンの『Puttin' On The Ritz』。83年にビルボードで4位に入るほどの大ヒットとなりました。
低く甘く脱力した独特の歌声(聴きようによってはかなり気持ち悪い歌い方な気もしますが)と、間奏に挿入されるタップの音が印象的です。音はめっちゃチープですが、ちょっと怪しげな感じもしてなかなかの珍味ではあります。ロックのビートに疲れて、バラードにも飽きたときには、こういうのもいいかもしれません。
何でこの曲がそんなに売れたのかは不明ですが、往年の名曲(それも相当古い曲)をテクノっぽくリメイクするという方法論が、当時はある意味斬新にとらえられてウケたんでしょうね。意外とヒットってそんなもんだったりしますし。
彼はアルバム『After Eight』でも、同じくフレッド・アステアの『Cheek To Cheek』やジーン・ケリーの『Singin' In The Rain』(あの有名な『雨に歌えば』)、ナット・キング・コールの『I Should Care』、エディット・ピアフの『La Vie En Rose』(『バラ色の人生』)などの名曲を、臆面もなくカバーしています。当時アルバムを聴いたんですけど、そのあまりにスタンダードな選曲ぶりに逆に感心した記憶がありますね。
またこの曲は日本でもいすゞジェミニのCMに使われてヒットし、彼もプロモーションのため来日しています。そして出演したテレビ番組では、やっぱりお約束でタコを食べさせられるという伝説も残しました。ちなみに彼はタコが大好物だったとか。


しかしこのあとヒットは出ず、彼は思いっきり一発屋の烙印を押されることになります(正確には『Singin' In The Rain』が英国で98位を記録してはいますが)。
84年には『SAYONARA』なる曲を引っさげて東京音楽祭にエントリーもしますが、これが日本人女性のナレーションが入っているところが唯一の聴き所という凡曲で、最優秀歌唱賞こそ受賞したものの(ちなみに金賞は故ローラ・ブラニガン、銀賞はリマールだった)、彼はそのまま日本でも忘れ去られていきました。
その後は何をしているのか全然知りませんでしたが、調べてみたところドイツ国内でテレビタレントとして活動しているそうです。
99年には全曲ラテン語という、どこを狙っているのかよく分からないアルバムも出しているなど、その奇妙なセンスは健在のようで何よりです。