ヴェイパーズ

あまりハードロックのことばかり書いていると、ハードロックブログと勘違いされそうなので、ここらで軌道修正します。
今回は個人的に最も好きだった、80年代初期のニューウェーブです。その中でも今は日本ではもう忘れられていると思う、ヴェイパーズを取り上げてみます。


ヴェイパーズは79年、ニューウェーブ全盛の頃に英国でデビューしています。
あのザ・ジャムのブルース・フォクストンが彼らを見出し、前座に起用したことから名が売れ始めたこともあって、モッズに分類されることもありますが、実際は全然モッズじゃありません。
個人的な印象としては、とにかく奇抜なパワー・ポップ・バンドといったところでしょうか。ヒット曲『Turning Japanese』が変な曲だったこともあって、当時そういう感想を持ってしまいました。


The Vapors - Turning Japanese


この曲は彼らの2ndシングルで、全英3位の大ヒットとなりました。デビュー・アルバム『New Clear Days』にも収録されています。
とにかく「Japanese」って銘打っているのに、いきなり中国風のギターから始まる時点で、これはヤバイと当時思いましたが。
PVを見ても変な和室があって、いかにもな感じの芸者風の女性が出てきて、意味もなく刀を振り回すおっさんまで登場してきて、完璧に日本を誤解しています。
まあこっちだってたとえばイギリスとフランスの文化の区別がつくか、と言われたらまったくわかりませんし、人のことはまったく言えたものではないんで、別に憤慨したりはしないですけどね。お互い様。
それはそれとして、歌詞も最初は別れた恋人の写真を見ながら思いを語っていたはずなのに、サビで突然「ああ、俺は日本人になっちゃうよ。本当に日本人になっちゃうよ」と訴えだすという意味不明さです。
あと肝心の音のほうですけど、当時一応アルバムも聴いたんですが、ザ・ジャムXTCを足して3で割った感じで、すごく良いってわけでもないけど決してキワモノではない、という印象を持ったのを覚えていますね。
ちなみに「Turning Japanese」というのはマスターベーションの意味だという説があり、当時日本の雑誌にも書かれていて僕も思いっきり信じていたんですが、実はこれはキングス・イングリッシュの分からないアメリカ人が生み出したデマで、まったくの事実無根だそうです。


ヴェイパーズはこのあとヒット曲を出せずに見事に一発屋となり、翌年もう1枚アルバムを出しただけで解散します。
なまじ一発ヒットをしたため急激に忙しくなり、じっくり曲を作る時間が取れなくなった結果、納得のいく作品ができなくなって売り上げは急落。その後はマネージャーに逃げられたり、スタジオが勝手にキャンセルされたりするなど、ひどい結末になったそうです。まあずっと残る人はそこで踏ん張れるわけで、それができなかった時点で一発屋になるのは避けられなかったということなんでしょうけど。
しかし彼らの残した『Turning Japanese』だけは、今では古典的な地位を確立していると言っても過言ではなくて、英国ではテレビ番組で日本の話題が取り上げられるたびにかかる(あのゲーリー・リネカーの名古屋への移籍が決定したときもこの曲が使われたとか)ほか、CM(英国ではマスターカードあたりのCMで使われるレベル)や映画(『チャーリーズ・エンジェル』とか)などで何回も使われています。日本でもテレビで中華系の話題になったときに使われることがあり、先週も聴いたばっかりですし。
僕はロイヤリティーのこととか全然詳しくないんですけど、これだけ使われると印税も結構バカにならないんでしょうね。たとえ一曲でもヒットを出しておいてよかったなあ、って感じです。
ちなみにヴォーカルのデヴィッド・フェントンは、現在音楽関係の権利問題などを扱う弁護士になっているとか。きっと自分の権利も有効に使っていることでしょう。めでたしめでたし。