シン・リジィ

今回もハードロックで申し訳ないです。シン・リジィです。このバンドはすごく好きだったので、どうしても書きたくて。
シン・リジィは解散後30年近く経つ現在でも、「アイルランドの英雄」として讃えられるバンドで、そのケルト・ミュージックを取り入れた哀愁のメロディと、ギブソンレスポールによる必殺のツイン・リード・スタイルが特徴のバンドでした。
それと故フィル・ライノットの物語を紡ぐように歌われるヴォーカル・スタイルも本当にいいです。彼はアイルランド人とブラジル人のハーフなんですが、そのせいでアイリッシュ訛りなのに声質は黒人という稀有の特質を持っていて、そこがまたなんとも言えない魅力を醸し出していましたね。
ライノットは詩人としても定評があり、ダンディズムを前面に押し出した美しい歌詞は、独自の世界観を持っていてなかなか味わい深いものがあります。
また彼はU2ブームタウン・ラッツなど、アイルランド出身の若手ミュージシャンを発掘して世に送り出す(そのへんも英雄と言われる所以)など、アイルランドの音楽界の重鎮としても知られていました。


Thin Lizzy - The Boys Are Back In Town


76年リリースの6thアルバム『Jailbreak』(邦題は『脱獄』)に収録された彼らの代表曲。
一回聴けば覚えられるキャッチーなサビ、素晴らしいメロディのツイン・ギター、ライノットの独特の歌い回しと、どれをとっても素晴らしい曲です。
おそらく彼らの中では最も有名な曲で、ボン・ジョヴィやヒューイ・ルイス&ザ・ニュース(こっちはライブだけだけど)もカバーしていましたね。
ツイン・リードを弾いているのはスコット・ゴーハムとブライアン・ロバートソンのコンビ。ゴーハムは現在もシン・リジィに関わっている、バンドと非常に縁の深い人物です。
ロバートソンは後にモーターヘッドにも加入しています。ただモーターヘッドの荒々しい音楽性と、ロバートソンのメロウなスタイルはまったく噛み合わず、ファンから大不評のうえ脱退することになるのですが。


Thin Lizzy - Still In Love With You


78年リリースのライブアルバム『Live And Dangerous』に収録されたバラード。
ハードロックのバラードは、ともすればワンパターンになりがちなものなんですが、この曲はヴォーカルもギターも気持ちが入っていてエモーショナルです。
こんなにも感情が溢れ出している曲は滅多にありません。見事に世界観を表現しきっている大人の曲です。
特に途中のロバートソンのソロは素晴らしい。「泣きのギター」とはこういうのを言うんでしょう。


Thin Lizzy - Waiting For An Alibi

D


79年リリースのアルバム『Black Rose: A Rock Legend』(邦題は『ブラック・ローズ』)からのシングル。このアルバムは超名盤でした。
とにかくツイン・リードが心地よいハーモニーを奏でるところと、イントロのベースが大変カッコよく、当時中学生だった僕は結構ヘビーローテーション(当時そんな言葉はなかったけど)してました。
この頃のゴーハムの相棒は、のちにブルースをルーツとする哀愁味あるプレイを持ち味とした、玄人受けするタイプのギタリストとして成功したゲイリー・ムーアです。僕の世代で速弾きというとエドワード・ヴァン・ヘイレンか彼でしたっけ。
当時このラインナップで来日もするはずだったんですが、ドラッグが蔓延するバンドの状況にムーアが愛想を尽かして抜けてしまったため実現せず、バンドはウルトラヴォックスのミッジ・ユーロとマンフレッド・マンズ・アース・バンドのデイヴ・フレットを補充して来日しました。



Thin Lizzy - Do Anything You Want To


これも『Black Rose: A Rock Legend』からのシングル。邦題は『やつらはデンジャラス』。
リズミカルなドラミングから始まり、ツイン・リードがライノットのベースに絡んでくる出だしのあたりは特にカッコいいですね。
メロウで哀愁漂うのが基本的なシン・リジィの作風ですが、こういうキャッチーで陽気な感じのシン・リジィもなかなかいいなと思います。


Thin Lizzy - Chinatown


80年リリースのアルバム『Chinatown』からのシングル。
このアルバムはファンからの評価が低いんですが、この曲はいいと思いますね。イントロのギターとその後のクールなリフ、そしてツイン・リードがやっぱり好き。
確かに歌メロは若干単調ではありますが、それを補って余りあるほどインスト部分が充実しているように思います。
この頃のゴーハムの相棒は、ピンク・フロイドピーター・グリーンなどのセッション・ギタリストを務めていたスノウィー・ホワイトです。本来根っからのブルースマンなのでバンドにはあわない面もありましたが、この曲ではバッチリはまっています。


Thin Lizzy - Thunder And Lightning


83年のラスト・アルバム『Thunder And Lightning』のオープニングを飾る曲。
バンドはこの年限りの解散を決めていたのですが、ここでは最後の一花とばかりに充実した演奏を繰り広げています。今までにはないくらいヘヴィな音が印象的です。
この時のゴーハムの相棒は、元タイガーズ・オブ・パンタンのジョン・サイクス。後にホワイトスネイクに加入して大成功し、その後はソロとしても活躍したギタリストです。
NWOBHMの影響を強く受けているように感じるのは、おそらく若いサイクスの加入による刺激もあったんでしょうけど、個人的にはメロディックシン・リジィが好きだったので、ちょっと複雑な気持ちがしたのを覚えています。いい曲ですけどね。


バンドが解散を決めた原因は、主にライノットのドラッグ問題にありました。
彼は悪い意味での典型的なロック・ミュージシャンで、アルコールやドラッグへの耽溺具合がひどい人物でした。特にコカインに溺れていて、あまりに吸引し続けたため鼻骨が溶けて崩れ、代わりにプラスチックの整形板を入れて形を整えていたなんて話もあるくらいでしたから。
ただバンドはアイルランドの伝説的存在でしたし、ライノットも後にダブリンに銅像が立つくらいの英雄でしたから、周囲が解散状態のまま放っておくはずがなく、事実ライノットに恩義のあるブームタウン・ラッツボブ・ゲルドフの仲介により、85年のライヴ・エイドでの一日限りの再結成も計画されていました。
しかし結局それは実現せず、翌86年にライノットはヘロインの過剰摂取により敗血症を引き起こし、わずか36歳で亡くなってしまいました。


現在シン・リジィはゴーハムを中心として再結成されているのですが、ライノットのいないシン・リジィとかあり得ないだろ、と思いますね。
ゲイリー・ムーアはそのバンドのことを「ジミ・ヘンドリックスのいないジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスみたいなものだ」と言ってましたが、まさにその通り。