ヌスラット・ファテ・アリー・ハーン

昨日通勤中に聴いていたのがヌスラット・ファテ・アリー・ハーンです。
彼は世界的に有名なパキスタンの音楽家で、イスラムの音楽であるカッワーリーの歌い手です。
カッワーリーといきなり書かれても困るでしょうから簡単に説明しますと、イスラム神秘主義スーフィズムにおける儀礼音楽で、イスラムにおけるゴスペルみたいなものでしょうか。
正統派のイスラムでは歌謡は禁ずる傾向がありますが、むしろそれを積極的に修行の中に取り入れようとしたのがスーフィズム、ということらしいです。イスラムについてはまだ入門書を読んでいる程度の知識しかないので、詳しいことはよくわかりませんが。
彼はこのジャンルの第一人者で、その巨躯から飛び出る壮大なスケールの歌声によって、イスラム音楽の象徴的な存在となりました。
僕は80年代半ばにピーター・ガブリエルが出した、ワールド・ミュージックのコンピレーション・アルバムで紹介されたときに初めて彼の歌声に触れたのですが、その西洋音楽の規範から外れた強烈な歌に大変な衝撃を受けて、以降定期的にチェックしてきました。
大の宗教嫌いの僕ですが、これにはすんなりと入っていけましたね。それくらいインパクトがあったということでしょうか。


Nusrat Fateh Ali Khan - Dam Mast Qalander Mast Mast


Nusrat Fateh Ali Khan - Nabi Ji Naat



これらの動画を見ていただければわかるように、彼らの音楽はハーモニウムとタブラ、そして手拍子を伴奏として、ヌスラットを中心とした複数のシンガーたちが座りながら、神への崇拝と恩寵を歌うというのが基本的なスタイルです。
一人が朗々と歌い出せば、それを追いかけるようにして他の声が重なっていくのですが、その緊迫感はかなりのもので、ちょっとしたトランス状態に入りそうになってしまいます。
精神を持っていかれるというか、はまり込んだら大変なことになりそうな声とリズム。軽くトリップできる感じですね。


またイスラムというと、普通の人は割と偏狭なイメージを持っているかと思いますが、彼の場合はそういったこととは無縁で、ロックやヒップホップ系などの非イスラム文化圏のミュージシャンとも積極的なコラボレーションを繰り広げていました。なにしろアルバムのプロデュースに、あのビースティ・ボーイズやスレイヤーでおなじみのリック・ルービンを迎えたことまであるくらいですから。
他にもパール・ジャムエディ・ヴェダーサウンドトラックを共作したり、マッシヴ・アタックにリミックスをさせたりもしています。その活動はカッワーリーの保守的なリスナーからは反感を買ったらしいのですが、それを恐れずに活動していたのはさすがの貫禄です。
彼はこのようにして次々と新たな挑戦を繰り返しながら、自らの音楽性を拡げていったのですが、97年に惜しくも世を去ってしまいました。しかし彼の育て上げた後継者であるラーハット・ヌスラット・ファテ・アリー・ハーンによって、その精神は脈々と受け継がれています。
一度生で彼の歌声を聴いてみたかったなあ。