アンテナ

個人的に動画投稿サイトが発達して一番ありがたいのは、昔見られなかったPVがいつでも見られることですね。
僕が若い頃は、地上波の音楽番組でしかそういうものを見る機会がなかったですし、当然そういう番組は売れるもの中心の構成になるのでマイナーなものは流れませんでしたし。
ですから20歳くらいに聴いていた音楽のPVを、40歳を越えた今になって初めて観るということはしばしばです。
なかにはこの曲にもPVがあったのか、という驚きの発見もあったりして、検索していると飽きません。
この曲もまさかPVもあるとは思ってなくて、ダメもとで検索してみたら出てきたものです。


Antena - The Boy From Ipanema


アンテナはベルギーのクレプスキュール・レーベルから、81年にデビューしたフランスのグループです。
このレーベルはネオアコ系レーベルの先駆け的な存在で、またフレンチポップスやミニマル・ミュージックなんかも出していて、YMOのメンバーやムーンライダーズ鈴木慶一あたりも注目していましたっけ。
当時クレプスキュール・レーベルのレコードは、まだ日本のレコード会社とライセンス契約をしておらず、レコード店新星堂が、輸入盤に簡単な日本語のライナーを挿入する形で販売していました。アンテナはそこで紹介されたユニットです。
この曲は元ウルトラヴォックスのジョン・フォックスのプロデュースによるもので、当時ジョンのファンだった僕は新宿の新星堂で速攻で購入し、興味津々で聴いたのですが、もっとエレクトリックな音を想像していたのに妙にふわふわした音だったので驚いた記憶があります。
あまりにも有名なボサノヴァのスタンダード、『The Girl From Ipanemaイパネマの娘)』のカバーなのですが、コード進行がマイナーに変更されてているのと、ボーカルに過剰なくらいのディレイがかけられていることによって、暗くて浮遊感を感じさせる不思議な曲に仕上がっています。
安いキーボードとギターがあれば簡単に作れちゃうような、あまりにもシンプルでスカスカな音なんですけど、このメジャー・レーベルではあり得ない、手作り感覚の素朴な雰囲気が逆に癒されちゃうんですよね。


ちなみにアンテナは当時3人組でしたが、今はイザベル・アンテナソロ・プロジェクトになっています。
一時はホーンセクションを導入して、ダンサブルなアプローチをしていた時期もあったんですが、今はアンニュイな雰囲気を前面に押し出した、ジャジーボサノヴァ路線を展開しています。
おしゃれな大人の音楽って感じで、ちょっと僕には敷居が高くなっちゃったんですが、3人組だったときの曲は適度にチープで今でも好きなんですよね。
特に夏場に聴くとなかなか気持ちいいです。ネオアコテクノポップ、フレンチ・ボッサなんかが好きな人にお薦めします。