ギャング・オブ・フォー

レッチリのデビュー・アルバムのプロデュースをしたアンディ・ギルが在籍していたギャング・オブ・フォーというバンドは、現在の日本での知名度こそ低いものの、ポストパンク以降への影響力、という点で大きな役割を果たしたバンドです。


彼らは77年にヴォーカルのジョン・キング、ギターのアンディ・ギルらを中心として、英国リーズで結成されました。そのバンド名は権力闘争に明け暮れた、悪名高き中国の四人組から取られています。
バンドの特徴はなんと言ってもメロディ弾きを廃して徹頭徹尾リズム・カッティングにこだわった、ギルのドライなプレイでしょう。律動的なファンク・ビートに乗った恐ろしく切れるプレイは、ロックにまつわる曖昧な情緒性や湿った感情移入を徹底的に切り捨てたことにより、現実と対峙するヒリヒリしたリアリティを獲得していました。
また過剰なドラマ性を排除し、贅肉を全てそぎ落とし、リズムの骨組だけがギシギシと鳴っているようなサウンドは、素っ気ないほどシンプルな録音や、時の政治を強烈にアジテートした歌詞と相まって、異様なほどの生々しさと緊張感を生んでいました。


Gang of Four - I Found That Essence Rare


79年のデビュー・アルバム『Entertainment!』に収録されていた曲。
この曲を初めて渋谷陽一のFM番組サウンドストリートで聴いて、そのカッコよさとギリギリの緊張感に衝撃を受けました。
当時クラスでパンク系の音を聴いてした友達は1人しかいなかった(だいたいはニュー・ミュージックを聴いていたし、洋楽を聴いている人もたいていはハード・ロックを聴いていた)んですが、翌朝その彼と「昨日のはすごかった」「カッコよ過ぎる」と盛り上がったのを覚えています。


Gang of Four - Damaged Goods


同じく『Entertainment!』に収録されていた曲。当時は『いたんだ物体』という、確かに間違ってはいないけどそれはちょっとないんじゃないのという邦題がついてました。
映像は80年の米国アトランタでのライブです。音も画質も非常に悪いですが、バンドの本質は感じ取ってもらえるかと思います。


Gang of Four - He'd Send In The Army


同じく『Entertainment!』に収録されていた曲。邦題は確か『軍隊を送り込んだ男』だった気が。
映像は81年の英国ロンドンでのライブです。僕が83年ごろ、初めて動いている彼らを見た映像でもあります。
この曲もキモはギルのギターですね。ソリッドでシャープ、そしてまったく装飾のない剥き出しの音がこちらへ迫ってきます。
あとベースのデイブ・アレンがヴォーカルを取っていて、本来のヴォーカリストであるジョン・キングがよくわからないパーカッションらしきものを振り続けているのが印象的です。


しかしバンドの頂点はこの時点まででした。
はっきり言ってギルの力量だけが突出しているのは明らかなバンドでしたが、メンバー間のバランスを考え始めたセカンド以降一気にテンションが失せていき、アルバムを出すにしたがってファンク・ビートだけは強調されるものの、全体的な緊張感は薄れていきました。
そして83年には一度解散していますが、87年、04年の二回再結成し、05年にはオリジナル・メンバーでフジロックにも来日しています。
なおニルヴァーナの故カート・コバーンR.E.M.のマイケル・スタイブ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーなどは彼らの大ファンで、その縁でギルは84年にレッチリのアルバムのプロデュースを行いましたが大不評でメンバーを怒らせたというのは、前日書いたとおりです。