ピンク・フロイド

昨日の続き。
ピンク・フロイドが79年にリリースしたアルバム『The Wall』は、全世界で3,000万枚以上という驚異的なヒットを記録したモンスター・アルバムです。
ロック・スターである主人公ピンクの人生がストーリー形式で進行していき、そこから人間心理を描き出すという手法を取ったコンセプト・アルバムで、彼の人生の過程の中で感じる、社会の中での抑圧・疎外感を「壁」に例えています。
当時僕は中学3年生だったのですが、日本語盤に入っていた訳詩を一通り読んで、文字通り戦慄しました。それほどショッキングな内容でしたから。
今でもロック・ミュージックの歌詞の中で、最高峰の部類だと思っています。


Pink Floyd - Another Brick In The Wall Part.2


アルバムからの先行シングル。
閉塞的な学校教育への反発を掲げた「教育なんていらない」「思想のコントロールなんかいらない」「先生、生徒たちを放っておいて」「とどのつまり人は、壁の中のレンガのひとつに過ぎないんだ」といった反社会的な歌詞を、子供たちのコーラスによって歌わせるというショッキングな手法は、当時賛否両論と言うより非難囂々でしたっけ。
おかげでBBCなどでは見事放送禁止処分にもなったのですが、それが逆に話題になったせいもあり、英米を始めとする世界各国のチャートでは1位を獲得しました。
僕は当時受験生で、しかも世は詰め込み教育の全盛期でしたから、管理教育の閉塞を歌ったこの歌詞は「わかるなあ」って共感しましたね。今じゃとても「教育なんていらない」なんて言えませんけど。


Pink Floyd - Comfortably Numb


これは2枚組アルバムの2枚目A面ラストの曲。
物語の後半、成功から来るプレッシャーによる精神疲弊とドラッグで、心身ともにぼろぼろになった主人公ピンクが、薬物注射の助けを借りてステージに上がっていく情景を描いた曲で、聴いていてすごくやりきれない気分になります。
あのマリリン・マンソンがこの曲をライブ後の追い出し曲に使用していた、という話を聞いたことがありますが、それが本当なら彼も苦悩しながらステージに上がり続ける一己の人間であり、そんな自分をピンクになぞらえている。そう感じました。
それとデヴィッド・ギルモアのギター・プレイも、神がかっていると言っても過言ではないくらい素晴らしいんですよね。彼の数多いプレイの中でもトップと言える名演ではないでしょうか。


ピンク・フロイドはその後ロジャー・ウォーターズが脱退したこともあり、なんだかよく分からないスタジアム・バンドへと変貌を遂げてしまい*1、かつての精神性・哲学性は微塵も感じられなくなってしまいました。
しかしこの名作『The Wall』の輝きは、永遠のものだと思っています。


なお『The Wall』はアラン・パーカー*2監督、ボブ・ゲルドフ主演で、『Pink Floyd The Wall』というタイトルで映画化もされています。
日本では興行的に失敗したようですが、個人的には割とちゃんとした作品だと思いましたし、興味のある方にはお勧めします。

*1:ライブで客席上を飛行機が飛んで、ステージ横に激突して爆発するというギミックがあったりする。

*2:英国の映画監督。主な作品に『ミッドナイト・エクスプレス』など。また『小さな恋のメロディ』の原作・脚本も担当している。