クラウス・ノミ

今回はオペラとロックの融合を試みた異形のカウンターテナークラウス・ノミです。


彼はドイツ出身で、本名はクラウス・シュペルバー。マリア・カラスに憧れてソプラノ歌手を志し、ベルリンの音楽学校を卒業します。
その後ニューヨークに渡ってホテルでパティシエをしながら音楽活動を続け、オペラ、ニューウェーブ、ディスコ、ダンスなど多岐にわたるスタイルで注目を集めました。
そして79年にはデヴィッド・ボウイのバックコーラスを務めて脚光を浴び、81年と82年にはフランスのレーベルからではありますがアルバムもリリースしています。
80年代前半には日本でも『スネークマンショー』で『The Cold Song』が紹介されましたし、楽器店のイメージキャラクターにも使用され、江口寿史も『ひのまる劇場』で彼の姿をまるまるパクったキャラを出すなど、局地的に知られた存在でした。
しかし商業的成功を得る前にエイズに罹り、83年に死去しました。当時のエイズに対する偏見もあって、誹謗中傷に晒される中での悲惨な死であったようです。


Klaus Nomi - The Cold Song


ノミの代表曲。日本でも『スネークマンショー』のLPで紹介され、衝撃を与えました。
この映像は死の半年前に撮影されたもので、心なしか体はやせ細り、足元もおぼつかないように見えます。
ソプラノボイスで歌われる「どうか私が再び死に至るほど凍りついていくのを許してほしい」という歌詞が悲痛です。
彼は『Death』という曲でも「私のことを忘れないでほしい。でも私の辿った運命については忘れてほしい」と歌っています。自らの身体を蝕む病を知り、死を予見していたのでしょう。


Klaus Nomi - Total Eclipse


こちらは元気だった頃のノリノリのライブ。僕が初めて動いているノミを見た映像でもあります。
とにかく見た目のインパクトがすごいですね。一発で忘れられなくなりましたから。
白塗りの顔に奇妙な髪型、三角形の眉毛に謎の逆三角形タキシードという異様な風体で、ロボットみたいなカクカクした動きで踊りながら、ドイツ訛りの英語でのオペラ歌唱を見せるというムチャクチャさは、何とも言えないキワモノぶりです。
間奏に出てくる黒人の女性ダンサー2人も、いい味を出しています。


日本では後にその死を悼むようなかたちでアルバムがリリースされました(僕もそのときに買いました)が、それもやがて廃盤となり、完全に忘れられた人になっていました。
しかし6年前に『ノミ・ソング』というドキュメンタリー映画が公開されたことによって、アルバムも再販され再評価も進んでいます。