SPK

今となってはあまり知っている人もいないかとは思いますが、オーストラリアにSPKというユニットがありました。
シドニーの精神病院に勤務していた看護人のグレアム・レベルと、彼の患者であったニール・ヒルで結成されたという恐ろしいユニットで、インダストリアルのはしりのような音を出していました。


僕がこのユニットをはじめて聴いたのは高校を卒業した頃だったと思いますが、桁外れに異常なサウンドに、とにかくものすごいショックを受けましたっけ。
悪夢のようなおぞましいインダストリアル・ノイズサウンド、何かにとり憑かれたかのような狂気(何せ本物ですし)と怒号に満ちたヴォーカル、ありったけの暴力衝動を叩きつけたメタル・パーカッション、聴いてるだけで鬱に沈み込むノイズのカオスなど、とにかく耳障りでうるさい音が展開されていて、マジで頭がおかしいのかと思いましたから。
この手の音楽に理解のない人には雑音としか思えないでしょうし、僕も聴いていて結構苦痛だったんですが、それと引き換えのマゾヒスティックな興奮や、人間の精神の暗部を覗き見るような快感みたいなのが確かにあって、時々魅入られたように聴いてました。
それからスロッビング・グリッスルキャバレー・ヴォルテールポップ・グループ(こちらはフリー・ジャズに近かったですが)なんかも聴くようになったんでしたっけ。


ちなみにSPKとは何の略かと言いますと、レコードをリリースするたびに変わっていて、


・Socialist Patients Kollektiv(社会主義患者集団)


・System Planning Korporation(システム計画社団法人)


・Surgical Penis Klinik(ペニス外科クリニック)


・SePpuKu(切腹


など様々なヴァージョンがあります。こういう言葉遊びも彼らの真骨頂でした。


SPK - Mekano


79年にリリースされたシングル。
彼らの曲にしては驚くほど聴きやすいです。何しろきちんと楽曲として成立していますから。
音の使い方とかは、ある種テクノポップを思わせる部分もあるくらいです。入門者用。


SPK - Slogun


こっちはヤバいほうのSPK
歪みまくって暴走するハーシュ・ノイズのカオスに、常軌を逸したニール・ヒルのヴォーカルが合わさり、思わず戦慄してしまうほどに凶悪な曲になっています。
載せといてこういうことを書くのもなんですが、ノイズやミュージック・コンクレートなどに耐性のない人は聴くべきではないと思いますね。いやマジで。


しかし84年についに精神的に限界になったのか、ニールが自殺してしまいます(自殺する前に音楽性の相違でSPKを脱退していたらしいですが)。
残されたグレアムは、中国系の女性ヴォーカル、シナンをフロントに据え、メタル・パーカッションをサウンドやパフォーマンスに大幅に取り入れて「らしさ」を残しつつ、シンセのみでダンス・ミュージックを作り出しました。
ところが著しく大衆に迎合する路線に走ったことで、当然以前のファンからは非難囂々となり、おまけに新しい層からも結局は受け入れられず、新生SPKは失敗に終わりました。
一応スタジオライブがあったので、載せておきます。


SPK - Metal Dance


SPKだと思わなければ、そんなに悪くないかもしれないというのが個人的な感想です。
ダンス・ミュージックに接近したアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンみたいですし。まあ売れなさそうですけど。


なお現在グレアムは、多数のハリウッド映画においてサウンドトラックを作成・担当しており、音楽界で成功を収めているそうです。