チューブス

今は覚えている人も少なくなりましたが、昔アメリカにチューブスというバンドがありました。
奇想天外で独創的でシアトリカルなステージングと、猥雑だけどパワフルで社会風刺の効いた楽曲が特徴のバンドでしたっけ。
何気にYMOとの縁もあり、YMOの初の海外公演として有名な、79年8月のLAのグリーク・シアターでのライブは、チューブスの前座としての出演でしたし、同じ年の9月のチューブスの来日公演でも、やはりYMO中野サンプラザ郵便貯金ホールで前座を務めています。


チューブスは60年代末に米国アリゾナ州フェニックスで結成され、サンフランシスコに拠点を移した後は、ミュージカルのセットをそのまま持ち込んだような、華やかで奇抜なステージングで注目を集めました。
全裸すれすれの女性たちが集団で登場したり、電気ドリルや電気のこぎりなどの雑多な小道具類を使用したり、30cm以上のヒールを持った上げ底ブーツを履いたり、ムチと鎖を使ってSMのような演出をしたりと、そのユニークさはある種の伝説でした。
系譜的にいうと、フランク・ザッパや初期のアリス・クーパーの流れをくむバンドです。彼らがデビューした頃の時代背景は、ロッキー・ホラー・ショーなどのロック・オペラが持て囃されていた頃で、とてもタイムリーなバンドでもあったわけです。
79年の来日時には、当時のエロ番組である『独占!おとなの時間』という番組でそのステージが取り上げられてました。当時中学生だったので、親の目を盗んでこっそり見たんですけど、すごく刺激的だった記憶があります。
もちろん曲のセンスもなかなか良く、ラグタイム風あり、フラメンコ風あり、プログレ風あり、もちろんロックン・ロールありのバラエティーに富んだ内容で、飽きさせない音になっていました。
パンク、ニューウェーブが現れると、いち早くそちらに目配せするような敏感さも持っていて、明らかにオールド・ウェーブのバンドでありながら、僕は斬新な印象を持ってましたね。


The Tubes - White Punks On Dope


75年のデビューアルバム『The Tubes』の収録曲。全英28位を記録しています。
ライブとはいえテレビスタジオでの収録なので、彼らを有名にした種々の演出や小道具は出てきませんが、唯一超上げ底のブーツだけは履いていて、往時を忍ばせてくれます。
しかし75年の曲なのに「Punks」というワードが入ってるのがすごいなと、今さらながらに感心。


The tubes - Prime Time


79年のアルバム『Remote Control』からのシングル。当時の邦題は『魅惑のゴールデンアワー』。全英では34位。
奇才トッド・ラングレンのプロデュースで、思いっきりポップでテクノっぽい音に接近しており、当時面白がって聴いていた記憶があります。ただPVは今観るといろんな意味でかなりキツイですが。
このアルバムはテレビを中心とした文化を思いっきり皮肉った名盤だったのですけど、ちょっと音が当時としては斬新過ぎて、逆に売れなかった(最高位はビルボードのアルバムチャートで46位)のが残念でした。


Olivia Newton John with The Tubes - Dancin'


80年公開のミュージカル映画ザナドゥ』のサントラに収録された曲。
あのオリビア・ニュートン・ジョン(この映画の主演女優でもある)とのデュエットで、ビッグ・バンドとロック・バンドの音が交互に出てくるような奇妙な作りの曲です。
最初はオリビアが軽やかにスウィングしながら歌い、その後まったく違うメロディをチューブスが歌うという、なんともつぎはぎな曲なんですが、ラストにオリビアとチューブスが一緒に歌うところになると、両者のサビが重なり合って、全然違う曲なのに一体になってしまうというマジックを見せてくれます。
コード進行もメロディラインも、計算し尽くされているんだなあと、今さらながら感心。この曲を書いたジョン・ファーラー*1の、職人芸的な技が光るすごい曲です。


その後チューブスは投資に見合った売り上げが上がらなかったため、レコード会社からの援助を受けられなくなり、彼らの最大の特色であったセットや小道具、ステージ演出などを維持できなくなりました。
その結果メンバーを整理し、代わりにTOTOのメンバーをバックに配し、名プロデューサーであるデビッド・フォスターのプロデュースを受けたところ、見事ビルボードのトップ10に入るヒットを出すという皮肉なことになるんですが、音からは毒も何もなくなっちゃって、つまらなくなっちゃいましたね。
ちなみにバンドは86年頃に一時解散しますが、90年代に入って復活し、今も不定期ながら活動を続けているらしいです。

*1:元シャドウズのメンバーでソロ歌手。のちにオリビア・ニュートン・ジョンの名プロデューサーとして、数多くのヒット曲を生み出した。