エイジアン・ダブ・ファウンデーション

今回は「闘う音楽集団」エイジアン・ダブ・ファウンデーション(以下ADF)です。
彼らは音楽教育センター「コミュニティ・ミュージック(ADFの中心人物ドクター・ダスが主宰)」で集まった在英インド・バングラデシュ系のメンバーによって構成されていて、ドラムンベースやラガ、ヒップホップなどを、東洋的な土臭い雰囲気をもったメロディとグルーヴで昇華し、既存のダンス・ミュージックの快楽主義に真っ向から対峙しながら、人種差別や階級闘争に対し辛辣かつ強烈なメッセージを発信するスタイルを持っています。
名前にも入っているようにダブを基調としつつ、バングラビートやジャングル、レゲエにヒップホップ、さらにパンク・ロックまで幅広い音楽性をクロスオーバーさせた無国籍なサウンドは、しばしば『ミクスチャー・ダブ』などという言葉で語られています。


僕は98年のフジロックで一度だけ彼らのライブを観ています。
音は今よりもずっとダブ色が強かったのですが、闘争心をむき出しにしたパフォーマンスは圧倒的で、オーディエンスを飲み込むような不思議なリズムのうねりもあって、凄く気持ちよかったのをよく覚えています。
当時の曲のPVが全然見つからない(ないのかも)ので、とりあえずその頃の音だけでも。


Asian Dub Foundation - Free Satpal Ram


98年にリリースされたアルバム『Rafis Revenge』の収録曲。
ダブ色の強い仕上がりになっていますが、攻撃的な姿勢はこの頃から非常に強かったというのがわかります。
ちなみにサトパル・ラムとは、英バーミンガムで人種差別的暴力にあったエイジアンの若者で、襲撃してきたグループの一人を刺殺して殺人罪に問われた人です。
普通に考えると「正当防衛」なのに殺人罪になるというのは、やはり彼が白人ではないからということで、この曲でADFは冤罪を訴えて、彼の解放を訴えていました。その甲斐もあってか2002年に仮釈放されたそうですが。


その後彼らは、どんどんヒップホップ、エレクトロニカ、ロック色を強めていきます。


Asian Dub Foundation - Real Great Britain


00年にリリースされたアルバム『Community Music』からのシングル。
イギリスの社会を激しく風刺した曲で、初めて全英でヒットを記録し彼らの出世曲となりました。
現在は脱退したディーダー・ザマンがMCを務めているためか、今の音とは多少印象が違います。


Asian Dub Foundation - Fortress Europe


03年にリリースされたアルバム『Enemy Of The Enemy』からのヒットシングル。
ツインヴォーカルに編成を変更してからの曲で、陰鬱重厚で苛烈なハードコア・レイブともいえる、これまでにない攻撃的な仕上がりになっています。
印象的なイントロから始まって、有無を言わさぬ展開で突っ走っていくさまがカッコいい、彼らの代表的なナンバーです。


Asian Dub Foundation - Flyover


05年にリリースされたアルバム『Tank』からのシングル。
3MC体制に移行し、よりヒップホップに接近しエレクトロニックな方向性を目指した曲で、それまでのストイックなイメージから考えるとかなりポップな感じです。


Asian Dub Foundation - Burning Fence


08年にリリースされたアルバム『Punkara』からのシングル。
パンクとバングラを掛け合わせた「パンカラ」という方向に進みだし、これまでになくロック/パンク色の強くなった曲。
生演奏に重点をおいたギターサウンドや民族楽器によるエキゾチックなアレンジが全面に出つつ、歌の比重も増しているハイテンションなダンスナンバーです。


Asian Dub Foundation - A History Of Now


今年リリースされたアルバム『A History Of Now』のタイトルトラック。
もういい加減ベテランのはずなのに、相変らず力強く攻撃的なところが良いです。
「頭の中をブンブン飛び回る過剰なまでのアイディア。区別がつかないんだよ。俺のTVなのか、インターネットなのか、俺自身なのか」
と訴え、目の前にあるリアリティ=「太陽や海はダウンロードできない」ということを人々に思い起こさせる、確固たるメッセージが込められています。


彼らの高揚感に溢れるギターのリフとベースの音が織り成すパンキッシュなグルーヴと、タブラやダールの打音が生み出すプリミティヴで躍動感に溢れたビートは圧倒的ですし、牧歌的にも響いてしまうプリミティヴさと、荒涼と殺伐とした緊張感と気迫という背反した要素を音に込めているところが大変気に入っています。
そう言えば今年のフジ・ロックにも来るらしいですね。
今の編成でのライブも観てみたいのですが、もう野外ライブには耐えられない身体になっちゃってますし、どうしたものか悩んでいます。