ガーデニング・バイ・ムーンライト

どうもです。皆様お元気でしょうか。
今日は体調がいまいちで気分が暗くどんよりしているので、その心象風景を反映した暗い音で簡単にいきましょう、ということでガーデニング・バイ・ムーンライトでございます。
このユニットは83年に3枚のシングル、1枚のアルバムを出しただけですし、その当時も英国では多少注目されたものの特に売れたわけではなく、もちろん日本でもまるっきり無名でした。記事になったという記憶すらないですから。
ニューウェーブ系のディスク・ガイド本などに載っていることも稀ですし、2ちゃんのニューウェーブスレで検索しても、「死ぬ前にCDで聴いてみたい」という書き込みがあった程度でした。この書き込みで分かるように、今でもCD化されてないようなんですよね。それくらい知られてません。
僕は一応その当時アルバムは輸入盤で持ってました。あまりマイナー趣味がない僕が何で彼らのアルバムを買ってたのか、今考えると不思議なんですが、多分バンド名に心惹かれたというのが正解なんじゃないかと(自分のことなのに朧気な記憶で申し訳ないですけど)。当時のゴスとかポジパンとかその手の暗い音のバンドは、名前だけは妙にカッコいいと言うか厨二病的と言うか、そういうネーミングの人たちが多かったですから。たとえばフィールズ・オブ・ザ・ネフィリムとか(実名を出すな)。
当時の感想ですが、すごく良いってわけじゃないですけど聴いていて落ち着くところはあると思いました。ですからどっと精神的に疲れたときに時々聴いてはいましたね。サウンドはちょっと例えとして正しいかは分かりませんが、ソロになったばかりの頃のジョン・フォックスが、ジャパンの『Tin Drum』あたりの音に影響を受けて作ったような感じです。基本は端正なエレポップなんですが、ゴスやポジパンやネオ・サイケにも繋がる暗い雰囲気も持っていて、そこが異色と言えばそうでした。


このユニットは82年に英国で、ダンカン・ブリッジマン(キーボード、プログラミング)とジョン・ジョンソン(ヴォーカル、ドラムス、パーカッション、プログラミング)の二人で結成されたエレクトリック・デュオです。
この二人の名前を聞いてピンと来る人もあまりいないでしょうけど、ブリッジマンはジョン・フォックスのシングル『Miles Away』や、名盤『The Garden』にシンセ奏者として参加した実績を持っています。サウンドジョン・フォックスっぽいと感じたのも、その影響があるんでしょうかね。
また彼は82年にアイ・レベルというエレクトリック・ファンク・バンドを結成し、『Give Me』(ビルボードのダンスチャートで11位)、『Mindfield』(全英52位、ビルボードでダンスチャートで5位)といったマイナーヒットを出しています。フォックスのバックで出していた音とは落差がすごくてビックリするんですが、要は何でもやってしまう職人的なプレイヤーだったのでしょう。
またもう一人のジョンソンですが、ドラマーとしてはパンク、ニューウェーブ界隈でそこそこ名の知られている人物です。彼はJ.J.ジョンソンの名前であのニューヨーク・パンク黎明期に名を馳せたウェイン・カウンティ&ザ・エレクトリック・チェアーズで叩いていますし、その後もザ・スキッズのまったく知られていないラストアルバム『Joy』に全面参加し、他にもニコ、フライング・リザーズ、トーマス・ドルビーの作品で叩いていますから。そんな経歴の人が何故ヴォーカリストに?、という疑問はなくもないですが、実際に聴くと癖は強いもののまあそれなりに歌えてはいますね。
おそらくこのユニットは、ブリッジマンのサブプロジェクト的な位置付けなんでしょうね。彼らはアイランド・レコード傘下のインターディスクというレーベルと契約し、83年2月にはシングル『Strange News』でデビューを果たしています。


Gardening by Moonlight - Strange News


デビューシングル。
荘厳な鐘の音から一転してドコドコしたドラムスに載せて始まる、ちょいダークでゴシックな匂いのするダンサブルなエレポップですね。
結構リズミカル(ドラムはさすがに上手い)な曲なんですが、聴いているとずんずん沈み込むようなところがあって、落ち込んでいるときに聴くといい感じです。


Gardening by Moonlight - Diction and Fiction


同年5月リリースの2ndシングル。
イントロのSEでおっと思っちゃったんですが、曲自体はデビュー曲よりリズミカルになっていて、エレポップの人が作ったポジパンみたいな感じです。
ちなみにベースを弾いているのは元ブルース・ウーリー&カメラクラブ、トンプソン・ツインズのマシュー・セリグマンです。彼は12年のトーマス・ドルビー(ブルース・ウーリー&カメラクラブ時代の同僚です)の来日公演にいきなりゲスト出演してこっちをびっくりさせたんですけど、現在は仙台に住んでいるらしいですね。


Gardening by Moonlight - Whistling in the Dark


同年9月リリースの3rdシングル。
ゴシック色の濃いダンス・ミュージックですが、メロディーがさらに分かりやすくなっており、シングルの中では一番ポップです。
とは言え漂う暗さやヴォーカルの癖の強さは相変わらずで、好みははっきり分かれそうな音ではありますけどね。個人的には結構聴いちゃうんですけど。
なおこの曲のベースはシングルではセリグマン、アルバムではブリッジマンのバンドであるI-レベルのメンバー、ジョー・ドウォルニャクが担当しています。


この年彼らはアルバム『Method In The Madness』をリリースしています。僕が買ったアルバムもこれですね。
この作品は基本的にはダークなエレポップなんですが、色濃く曲を彩るロマンティシズムと軽い酩酊感があって、ネオ・サイケ好きの人にも合うんじゃないかと思いました。
あとアレンジは密に練られていますし、セルフプロデュースでもありますしと、二人のミュージシャンとしての能力の高さもうかがわせてくれます。名盤とまでは言えないですけど、なかなか悪くない作品だったですよ。


Gardening by Moonlight - Methods in the Madness


アルバムのタイトルナンバー。
シングル曲とは趣が変わって、静的でドラマチックなナンバーに仕上がっています。オープニングがこの曲だったんで、当時いい感じでこの暗い世界に没入できたんでした。
なおベースはやっぱりセリグマン、そしてバック・ヴォーカルとして元モーターズのブラム・チャイコフスキーも参加しています。チャイコフスキーパワーポップ畑の人なので、クレジットで名前を見た時はかなり意外な感じがしましたっけ。


そんな感じで83年は順調に活動していたガーデニング・バイ・ムーンライトでしたが、翌年になるとすぐにブリッジマンが音楽性の違いで脱退してしまいました。実際彼の仕事を調べてみるとこのユニットの音がやたらと異色に感じるので、それは無理もないことだったのでしょう。
その後ガーデニング・バイ・ムーンライトはジョンソンのソロ・プロジェクトとなり、断続的ではありますが90年代に至るまで、映像作品を発表していたようです。現在の活動状況ははっきりしないんですが、ジョンソンは個人名義で映像作家をやってはいるようですね。
また脱退したブリッジマンは85年にアイ・レベルを解散させた後、ワン・ジャイアント・リープというバンドを結成して活動するほか、トランスヴィジョン・ヴァンプ(大ヒットした『Velveteen』も彼のプロデュース)、トレイシー・ウルマン、テイク・ザットなどのプロデュースや、ロビー・ウィリアムズへの楽曲提供、デュラン・デュランの『Big Thing』のリミックス、アスワドの『Distant Thunder』のプログラミング、マキシ・プリーストの作品へのキーボードでの参加など、主にポップスのフィールドで幅広く活動しています。また映画音楽の分野にも進出しており、多くの映画やテレビドラマの音楽の制作にも携わっているんだとか。
ガーデニング・バイ・ムーンライトの陰鬱なサウンドからは想像もつかないくらい、メジャーな活動をしているのでびっくりしますが、だとしたらあのユニットでの活動はどういう意図があったんでしょうね。毒抜き作業とかそんな感じなんでしょうか。


個人的には結構好きだったんですが、改めて聴いてみると特に売れる要素はない気がしますし、なにより基本的に地味なのでいなくなっちゃうのは仕方ないのかな、なんて思います。音自体はよくできてるんですけどね。
まあ今さら再評価されることはないでしょうけど、とりあえずCDは出してほしいですね。出たら安ければ買います。


※今回のエントリのダンカン・ブリッジマンの活動については、tamajiさんから御指摘を頂き、そこから再調査して大幅に加筆致しました。厚く御礼申し上げます。